朝ドラ「虎に翼」の弁護士考察・第23週(東京原爆訴訟)
第23週は、三淵嘉子が実際に担当していた東京原爆訴訟(下田事件)が、大きく取り上げられました。米国の原爆投下行為について日本国への損害賠償を請求したこの事件。法曹界では広く知られていますが、おそらくドラマでクローズアップされたのは、初ではないかと思います。
実際の東京原爆訴訟
今週のストーリーは、下田隆一さんを含む4名の被爆者が原告となった、東京原爆訴訟(いわゆる下田事件、シモダ・ケース)がモデルになっています。この事件の判決文は、日本反核法律家協会がWebサイト上で公開しています。私も、判決文を読んでみました。
山田よねの尋問
山田よねが、国際法学者に対して尋問するシーン。一見すれば、議論をはぐらかす学者に感情をぶつけているようでしたが・・・。実は、国際法の解釈問題について、高度な議論を展開していました。
原告の「怒り」を率直に表現しつつ、法的にも的を射た議論を展開する姿に、山田よねの大きな成長を感じました。
異例の判決
東京原爆訴訟は、(1)国際慣習上、外国政府の国際法違反に対して個人が法的責任を追及することはできない点や、(2)米国法において国の不法行為責任を追及することは認められていない(主権免責の法理)点を理由に、原告らの損害賠償請求を棄却しています。
つまり、東京原爆訴訟の出した結論は、「原爆投下が国際法違反かどうかにかかわらず、原告の損害賠償請求を認める余地はない」というものであり、国際法を正面から議論する必要はありませんでした。
それにもかかわらず、東京原爆訴訟の判決は、ハーグ条約などの関係国際法規の解釈を詳細に論じたうえで、米国による原爆投下が国際法に反していたことを明確に認めています。
裁判所は、結論を導くために不要な議論を回避する傾向にあり、「外国政府の行為が国際法に反するか?」というセンシティブな問題は、できる限り、判断を回避することが通例です。それにもかかわらず、あえてこの議論に踏み込んで、しかも、原告側の主張を受け入れる判断をしたことは、極めて異例でした。
裁判所が日本政府に投げかけた課題
東京原爆訴訟の判決において、裁判所は、国の責任を否定した後、次のように述べています(実際の判決文を引用しました)。
ドラマでも、こちらの箇所が、全文に近い形で引用されており、圧巻でした。
「われわれは本訴訟をみるにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられないのである。」
裁判所が、政府の過ち、そして、怠慢を、正面から糾弾する締めくくりに、このドラマがテーマとする「司法の独立」を感じました。
この判決の後、昭和43年に、「原子爆弾被爆者に対する特別措置に関する法律」が制定されます。「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律」に基づく認定を受けた被爆者に対して手当が支給され、救済が拡充しました。
3人の裁判官による英断が、世の中の動きを変えて、被爆者の救済を実現する一助となったことを思うと、胸が熱くなります。
真の法廷ドラマ
今週は、真の「法廷ドラマ」を目の当たりにしました。
一般に「法廷ドラマ」といえば、弁護士が対峙して激論を交わしたり、突然予期せぬ証人が現れたりと、法廷の場で繰り広げられる「エンタメ」という感じですが、実際の法廷において、そのようなドラマチックな展開は、ほぼありません。
ただ、証拠と文献をよみあさり、法解釈を淡々と議論し、様々な悩みと葛藤の中で1つの答えに向けて試行錯誤する・・・。その1つ1つに、法曹ならではのドラマがあります。
フィクションでありながら、その有り様が丁寧に描かれていて、リアリティを感じます。
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