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50人の壁について人事目線で考えてみた

50人の壁、それは組織が壊れやすいタイミングのことである。
佐藤二朗司会のクイズバトルとは別物です。

よく言われるのは30人の壁・50人の壁・100人の壁ですが、私が経験したのは30人を一気に超えた会社だったので、50人の壁のときに30人の壁も一気に来た感じでした。

今回この記事を書くにあたってきっかけになったのは下記の記事です。

赤裸々に生々しくご経験について書いてあったので、共感するところも多く、経営者ではなく人事として見てきた私の経験も誰かに共感してもらえたらと思い書くことにしました。

私が入社したタイミング

私が入社したのは社員数40名前後の規模になっていた会社でした。
組織の状況は、社員数がぐっと増え”会社らしく”なってきていましたが、ルールは決まっているようで決まっていませんでした。また、新卒採用をしていたので育成をしなければならないのですが、各リーダーの我流で面倒を見ていました。

人事は経営者直属だったので、人事関連の仕事を直接経営者に確認ができ、経営者と意思疎通しながら仕事ができたのはやりやすかったです。
社員数がそれほど多くはないので全員と面談することができました。全員と話してみると、どのような社員がいて、社員同士の人間関係はどうなっていて、今まで会社がどんな歴史を辿ってきたのかがわかるのでオススメです。

エウレカさんの記事は経営者から見た社員として書かれていましたが、社員から見た経営者、人事から見た組織、それぞれ見えるものが違うと思います。ベンチャーに限りませんが、だいたいの場合はそれぞれの視点から見える景色が前提で話をするのでかみ合わないことがあると感じています。

社員数50名前後ベンチャーあるある

エウレカさんの記事と自分の見聞きしたことを合わせると、いくつか共通点があることがわかりました。他の「50人の壁」系記事を読んでいても同じようなことを書かれているので大きく外れていることはないと思います。
※個人の見解によるところもありますのでご了承ください。

①経営者の目が行き届かなくなる社員が増える

人数が少ないうちは何かあれば社員と直接話をして課題解決できていましたが、人数が増えてくると課題はあちこちで発生する上に会社全体のことも考えなければならなくなります。場合によっては経営者もプレイヤーを兼務していてタスクに追われてしまう状況になるので、課題解決にかけられる時間が限られるでしょう。この限界が来るのがなぜか30名を超えた辺りらしいです。(調べたのですが論理的根拠が見つからず…引き続き調査します。)

情報が1年でガラッと変わってくる現代においては増員スピードもはやくて一人ひとりの特徴を理解することすらも難しいのではないかと思います。
お互いの理解度が浅いとどうしても不安→不信に繋がってくるので、人数が少ないうちから手を打ちたいですね。

②権限移譲ができていない

経営学用語でスパン・オブ・コントロールという概念があります。

マネジャー1人が直接管理している部下の人数や、業務の領域。
一般的な事務職では1人の上司が直接管理できる人数は5〜7人程度と言われているが、様々な要因によってspan of controlは左右される。要因としては、部下の業務内容や業務レベル、権限委譲できるかどうか、業務管理手法、教育、トレーニング、社内制度やシステムなどがある。(goo辞書より)

①に通じるものがありますが、1人でマネジメントできる人数は上限があるようです。1on1を週1回30分実施しようとしたら恐らく7人くらいが限界ですね。経営者が全社員と面談している時間は無さそうです。

マネジメント面だけでなくプロジェクトを推進する点においても、PDCAを回すのは馬力が必要です。特に30名過ぎた辺りのベンチャーであれば0→1でやってきたものを仕組み化していくタイミングなので、細かい作業も増えていくことだと思います。
会社の未来も考えながら足元も見ながらを経営者がやるのはしんどいのではないでしょうか。そもそも求められるスキルも違うような気がします。経営者だってオールマイティーではないはずです。

この時点で上手に権限移譲ができていないと、どれもこれも中途半端になってしまいます。特に会社の将来を考えるのは経営者だからこそできることなのに、そこが中途半端になってしまったら一体誰が会社の未来を描いていくのでしょうか

また、私は人が成長するのはチャレンジしたときだと考えています。いくらマネジメントの本を読んだって、マネジメントしてみないことにはできるようにならないと思うのです。
権限移譲できていない=任せていない=必要なときにマネージャーが育っていないという状況が目に浮かびます。

組織が大きくなればなるほど影響が大きくなるので、小さいうちから失敗を重ねながらでも任せた方が後々助かると思うのですよね。

③ルールが必要になる

ルールは社員を縛るためにあるものではありません。社員に自由に動いてもらうためにあるものです。社員が数名のときは判断に迷ったらすぐに経営者に相談ができて阿吽の呼吸で動けたかもしれませんが、人数が多くなれば忙しい経営者の時間を取ることが難しくなります。判断を待っている時間が生まれてしまい、時間ロスと社員のストレスが発生してしまいます。

ベンチャーに限らないかもしれませんが、よく「自走できる社員が欲しい」という組織課題を耳にします。社員のスキルのせいにするのは簡単ですが、なぜ自走できる人が少ないのかの理由を再度考えてみると、ルールが徹底されていないことが原因であることもあります。
社員はどこまで自分の判断で動いていいのか、どの業務は誰の決裁が必要なのか、何をしてはいけないのか、など。

MVVのVALUE浸透は、自走できる社員を増やすために必要なことではないかと思われます。MVVを無理に作れとは言えませんが、社員に何らかの形で伝えることは必要ではないでしょうか。

④目的の共有が必要になる

会社全体の目的はMVVのMISSIONとVISIONにあたります。自分たちは何のために頑張っているんだっけ?ということです。これ、30名以上の会社になったら驚くほど伝わっていないことありますよ。

数名のときは目的こそが自分たちが頑張る原動力だったから、忙しい中でもお酒とか飲みながら何度も何度も将来について語り明かしたのかもしれません。仲間が増えてきたときに全員と夜な夜な語ることは難しいでしょう。①でお伝えした通りで会話の濃度は薄まります。
MVを言語化して事あるごとに発信したり印刷して貼ってみたりして伝えようとすると思いますが、伝えた濃度分しか伝わらないと思います。

会社全体だけのことではなく、一つの施策にも目的があるはずですが、悲しいことにこれも伝わっていないことが往々にしてあります。施策自体は素晴らしいものでも、目的が伝わっていないと「なぜ業務に追われてヒーヒーしているのに追加でこんな面倒なことさせられなければならないんだ」という不平不満が出てしまいます。

数名のときの感覚でコミュニケーションを取っていても、経営者一人の伝播力には限りがあることを忘れてはいけません。

⑤採用基準がブレる

全ての会社が当てはまるものではないかもしれませんが、エウレカさんの記事の中で「とにかく誰でもいいから早く仲間になってほしい」とありました。最初は選別している余裕はないから(語弊はありますが)誰でもよかったという採用をしているベンチャーもあると思います。

人事の立場としては、余裕がなくても最初から経営者の思いに共感した人を採用してほしいと思います。そこがなければ会社が成長すればするほどその社員との溝が深まるからです。
スキルが低くても経営者の思いに共感していれば、目的が共有できていれば、仕事をする中でスキルアップすることが可能だと思います。
社員と溝ができてしまったときに「当時は誰でもよかったから」と言い訳に使ってほしくない、というのが私の気持ちです。社員はみんなちゃんと選んでほしいし、選んだからこそ責任があると思うのです。

少し話がズレましたが、最初は採用基準そのものがなかったり、あっても言語化できていなかったりするベンチャーは多いと思います。
30名を越えてからは選ぶ余裕もできてくるので自然と基準ができてくると思うのですが、今まで採用してきた社員よりレベルの高いことを求めたくなります。
スキルの基準を設けるだけでなくて、自社で活躍する人はどういうマインドなのか、自社にはどういうマインドの人が多いのかを振り返ってもらいたいです。
ここでテキトーにしておくと50名近くなったときに社員が向いている方向がバラバラになって組織が崩壊する恐れがあります。人事としての願いですが、最初の社員を採用するときからマインドマッチで選んでもらいたいです。

50人の壁を感じやすい会社の特徴を考えてみた

ベンチャーあるあるをまとめながら、あるあるが発生しそうな会社を考えたところ、下記3点になるのではないかと推察されます。

● 経営者が何でもやろうとする
● 伝えたつもりになっている
● 創業期の仲間探しを焦ってしまった

私は経営者になったことはないので気持ちまでは推し量れないのですが、経営者は他人よりも熱意と行動力がずば抜けているのだと思います。プレイヤーとしてかなり優秀であれば、他人がやるより自分がやった方がはやいと思ったり任せるのが不安だと思ったりするのかもしれません。
しかし、どんなに優秀でも人間です。何もかも完璧な人間はいないです。仲間を探したのは自分一人で到達できない地点まで進むためだとしたら、焦らず着実に仲間を見つけて支え合っていく方が良いのではないでしょうか。

あと、コミュニケーションロスで仲間が離れていくことはすごくすごくもったいないです。とは言え立場もあるかもしれません。そういうときこそ人事を頼ってください。人事でなくてもいいです。潤滑油になるのが得意な人に頼ってください。

人は自分のフィルターを通して物事を見たいように見ます。自分が伝えたいことは思った通りに伝わらないことが多いです。ビビッドに伝えるためにも言語化はしておくことをオススメします。

まとめ

エウレカさんも「メンターがいた方がいい」とおっしゃっていたが、私も壁打ち相手は必要だと思います。いつも自分が正しいとは限らないから、冷静に状況を整理してくれる相手がいてくれることでメタ認知できます。

また、なんでもかんでも自分でやらない方がいいということは、経営者だけでなくて普遍的なことだと思います。私も、家事と仕事を全部自分でやろうとすればパンクします。夫と分担したり親を頼ったり外部委託したりと方法はあります。
自分のやるべきことに優先順位をつけて自分ができないことは得意な人に任せた方が、組織は前進することができると思います。

最後に、創業期に人事がいない会社が多いと聞きますが、早めに人のスペシャリストを入れるのはありだと思います。正社員じゃなくても経験値がある人を業務委託などで任せてみてはどうでしょう?

ベンチャーは日本を、世界を次のステップに進めてくれるかもしれない存在です。せっかく苦しい思いをしながら起業してくれたのに事業に集中できずに立ち止まってしまってほしくありません。
壁に当たる前に防御策を取ってもらいたいと願っています。

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