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トンネルを抜けると、そこはアマゾンだった

 南米ペルー、ワヌコ市からティンゴマリア市へと抜ける山道の峠付近に、そのトンネルはある。標高2800mの峠、カルピシュ。ワヌコの街を出ていくらも行かないうちに始まる、つづら折りの長い山道を上った先で、アンデスの乾いた土色の山並みは、突如として鬱蒼とした森へと変貌する。

 ワヌコ-ティンゴマリア間を結ぶこの国道は、ペルーの太平洋岸から東のアマゾンまでを繋ぐ重要なルートの一部だ。首都リマから一気に山を上り、標高4000mを超えるフニン高原を抜け、アンデス東斜面の中規模都市であるワヌコから、アマゾンの入り口の街ティンゴマリアへ、さらにペルーアマゾン第二の都市であるプカルパへ。険しい山の間を縫うようにつくられたこの道を、土埃を巻き上げて進むトラックは、その地形の険しさゆえに鉄道網が殆ど発達していないこの国の流通を一手に背負っている。

 迫り来る山の間を道は進む。乾いたイネ科の草が山肌を覆い、ところどころに低木が茂る。その景色は、峠に近づくにつれ、次第に変化する。シダ植物にまとわりつかれた幹の細い木々が、険しい斜面にへばりつくようにして姿を現し出す。

 峠のトンネルを抜けると、そこはもうアマゾンの入り口だ。

カルピシュの展望台から臨む景色。

 「上部アマゾン」(selva alta)と呼ばれるこの地域は、地形はアンデス、動植物はアマゾンと言われる場所だ。アンデスの急峻な山肌を、常緑の木々がびっしりと覆う。この森には、鹿や大型の齧歯類、様々な種類の鳥や猿、草食のクマ、ジャガーなどが棲息している。森に溶け込むようにして、バナナやカカオ、コーヒー、コカの畑が広がる。

バナナ畑。ワヌコ州モンソン地区。

 今回の旅の目的は、この地域の未知の遺跡を見つけることだった。大部分が深い森に覆われたアマゾンでは、遺跡の発見はとても難しい。最近では、飛行機からレーザーを飛ばし、リモートセンシングで広大な範囲の遺跡探査を行うようなやり方もあるが、このような調査で見つけられるほど大きな遺跡はごく限られている。もちろん、とんでもない額のお金もかかる。調査の基本はやはり足だ。村々を訪ね、生い茂る草木をマチェテ(山刀)で切り開きながら道なき道を行く旅である。

 80-90年代に極左ゲリラの潜伏地帯となったこの地域では、それから20年が経った今も、殆ど考古学調査が行われていない。壮麗な古代建築が数多く残るアンデスの山側、海側の研究が盛んに行われてきた一方で、鬱蒼とした森の中に埋もれるこの地域は長らく取り残されてきた。

 私たちはおよそ半世紀ぶりに、この地域の本格調査に乗り出すことになった。

 



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