梅雨屋目録 あとがき

 あとがきを開いてくださってありがとうございます。『梅雨屋目録』というシリーズを書きました夕緋と申します。お楽しみいただけたでしょうか。
 読んでいただいた方、目を通してくださってありがとうございます。読んでないけどあとがきから開いたよ、という方、まず出会ってくれてありがとうございます。本編のリンクを貼っておきますので、そこから読んでいただけるとありがたいです。一応投稿順はありますが、好きなところから読んでいただけるので気になったタイトルから読んでやってください。

 さて、この梅雨屋目録というシリーズですが、元はと言えば140字小説でした。文字書きさんである千月薫子さんの企画で「梅雨前梅雨入り140字小説千月杯」略して「梅雨千」(2021/6/3~17)というものがあり、これに参加した作品を短編に書き直したものがこのシリーズになります。当時のお題は「紫陽花」「薫り」「傘」の3つ。そこから着想を得て書いた140字小説を主催である千月さんに『梅雨千で書いたお話を1本に仕上げてみたら?』と言っていただき、こうして5つのお話が出来上がりました。
 梅雨屋と真剣に物語を作る機会を与えてくださった千月薫子さんに感謝申し上げます。

 さて、ここからはいよいよあとがきです。
 当時投稿した140字小説+その短編についてのあとがきをつらつらと書いていきます。ついつい語りすぎてしまうのが私の悪い癖ですので温かく見守っていただければ幸いです。

満天と星空と家族

 雨の日は星空が見えないから嫌いだった。けれど今日からは違う。梅雨屋という店で買った『満天』と名のつく傘。これをさすと私の頭上には星空が広がる。正確に言えば「雲が見えなくなる」。だから、私には傘の形に切り取られた星空から雨が降る様子が見える。
 さあ、今日はどこに行こうかな。

 この作品は3番目に書きました。140字小説をご覧いただけばわかる通り、最初はお父さんが星になっている設定はありませんでした。最初は進路に悩む女の子のつもりだったのですが、それだと『影落ち』の女の子と被ってしまうため、結果的にお父さんが死にました。ごめん。本当にごめん。
 この作品では『満天』というアイテムが出てきました。主人公は人の少ない夜にしかこれを使うつもりはないようですが、昼に使うと青空から雨が降ってくる様子が見えます。危険性もないので作者的にもおすすめのアイテムです。

影落ちと私の正解

 梅雨屋という怪しげな店に出会って、心の影が見えるという日傘を買った。なるほど。自分の影の中に闇より黒い文字で何か書いてある。この文字が私にだけ見えるもので良かった。あまりに生々しい。
「おはよう!」
 背後から声がした。
 駆け寄ってくるトモダチに笑みを浮かべながら影を踏みつける。

 この作品は皆さんの目にどう映ったでしょうか。作者はこういうの好きです。まあだから書いたんだろって言われたらその通りなんですが。
 この作品は『染華』の次に書きました。本当は『満天』を先に書こうとしていたのですが、こっちの方が先に妄想が膨らんでしまった。やっぱり好きなんですね。私を知る人が見れば私らしさが詰まっている話になったと思います。それが良いか悪いかは別として。
 さて『影落ち』ですが、この道具についてはどう感じられたでしょうか。私は最初思いついた時には誰がこれを欲しがるんだと思いましたね。自分のマイナス面ばかりが見える傘。有効活用できる人はなかなか少なそうです。彼女も有効活用したのかと言えば微妙なところですからね。その後どうなっていくのかは私も知りません。彼女なりの幸せを掴んでくれれば嬉しいのですが……。

雨の香炉と色づく想い

特定の『雨』の記憶を呼び覚ます『雨の香炉』。梅雨屋と名乗る怪しげな男はそう言って私にそれを売りつけた。香炉なんて使ったことがない。説明書を必死で読み解き、お香に火をつける。 パチパチと聞こえるのは雨音。薫るのはあの日の雨の匂い。 蘇るのは、大好きな君の笑顔。 頬を伝うのは涙。

 4番目に書いた物語です。『雨の香炉』は5つのお話の中で一番好きなアイテムかもしれません。雨の記憶だけ、というのがもどかしいところですが、記憶を鮮明に思い出すというのは余程のインパクトがあったことでないと難しいですからね。日常の幸せを思い出すには良いかもしれません。
 このお話は140字小説とそう変わらないまま内容を膨らませることが出来たかと思います。果たして彼は目覚めるのか。それは私にも分かりませんが、二人には幸せな未来が訪れて欲しいものです。

蛇の目と”一途”

「…傘、届けに来たのに。どうしたの?」
「同僚の人が貸してくれたんだ」
「前に言ってた佐藤さんって人?」
「そう」
「…それは?」
「あぁ、紫陽花のチャーム? これも佐藤さんが」
「ふーん」
僕はとびきりの笑顔で君に言う。
「随分と趣味が悪いね」
君の移り気が揺れる。

ちょいとそこのお兄さん。蛇の目傘って知ってるかィ? 蛇の目には魔除けの意味があってねェ。お兄さんにはちと似合わねぇかもしれねぇけど声掛けさせてもらったよ。 趣味の悪い紫陽花なんか大事そうに持っちゃって、いかにも呪われてそうだもんねェ? 買ってった方が身のためだよ。

出会った順番で恋路が決まるなんて馬鹿馬鹿しい。何番手だろうと僕が君を奪い取ってみせる。そういう「趣味の悪い紫陽花」だ。降り注ぐ不幸から僕が君を守ってみせる。 雨上がり、君を迎えに行く。それまで大切にその蛇の目を持っていてくれ。 呪われるなら、きっと僕じゃない。あの男なら。

どうしてでしょう。あなたとはもう別れたというのに、あなたの薫りが私から離れないんです。あなたが「趣味が悪い」と評した彼はその薫りを感じる度に顔をしかめます。あなたの家に蛇の目を忘れてしまったのがいけないのでしょうか。あなたの薫りはずっとずっとまとわりついて離れません。

ああ、この喪失感たるや! 君の声が君の仕草が君の薫りが僕の隣に無いことがこんなにも胸に風穴を開けるだなんて! でもこの虚しさは僕から君への愛の証だ。「一途」は呪いになるからね。君に僕の存在から離れられない呪いをかけたんだ。今日も君は僕の匂いを感じているかな?

 一番最後に書いた作品です。雨の香炉を書き上げてすぐに書き始めてしまったので自分で温度差に風邪ひいてました。「さっきまであんなに純愛だったのに私は一体何を書いているんだ…?」というテンションで書いていました。
 「移り気」という花言葉を知りながら付き合っている相手がいる女性に紫陽花のチャームを贈るヤバイ奴、自分に向けられる好意以外には興味がなく、また好意を寄せられると全て応えてしまうヤバイ奴、そんなヤバイ奴を呪うほど好きになったヤバイ奴の話です。ヤバイ奴しかいません。
 そんなヤバイ奴が梅雨屋というこれまたヤバイ奴から買い上げた蛇の目傘ですが、今回は効力を発揮できなかったようです。ちゃんと効力を発揮できる時にも売られていますのでご安心ください。梅雨屋は売れる時には売りますから。

染華と3分間の逢瀬

「酷い雨ですね、良ければこの傘をどうぞ」
 聞こえるはずのない声だった。君は私に番傘を渡して雨の中に消えてしまった。あの時は嘘みたいな現実に追いつけなかったけれど。
 ねえ、元気にしてる? それとも君は生まれ変わっちゃったかな。
 今も君の傘は私をあらゆる雨粒から守ってくれるよ。

 そうですね、この作品についてまず最初に言えるのは『いや、ジュシア君って誰?』ということです。誰だ貴様は、何者だ。『にげトラ』って何なんだ。どういう作品だ。そんなことは置いといて。この作品は短編として物語を書き直す中で一番最初に手をつけた作品です。大した理由はないです。ただ『蛇の目』を最後に書くのは決めていて、他に『雨の香炉』も書くと決めていたので、まあ、『番傘』かなあと。書き直す中で当初は名前のついていなかった番傘に『染華』と名がつきました。感情の色に染められ、その感情を贈った相手に与えることが出来るというアイテムです。彼が『白』に染められたのは特別純粋な祈りがあったからですね。並大抵のことではありません。
 この作品はそんなに140字小説の方とも変わっていないですね。さすがに140字を書いたときはここまで作りこんではいなかったですが、字数の中に収めるのには苦労した気がします。

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 作品については以上となります。お楽しみいただけましたか? これでもなるべく短くしようとしたのですが、3000文字を超えていました。なぜだ。

 改めてここまで読んでいただきありがとうございました。次にお会いする機会があるのかは正直分かりません。自分勝手にしか書かないのでまたふらっと現れるかもしれません。その時もお付き合いいただければ大変嬉しく思います。
 この作品に関わってくださった全ての方々へ感謝を。

それでは、またいつかお会いできることを願って。

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