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今日のハラスメント訴訟の新傾向、録音・社内記録が証拠化、評価・文脈をめぐる争いに

今日のハラスメント訴訟実務では、録音・録画機能のついたスマホの普及により本人が被害の状況を証拠化しているケースが増え、証拠が不足することによる立証の困難さのみを理由に、訴えが棄却されることは少なくなってきたという。

岐阜特例子会社裁判では、問題が起きていた2013年は今ほどスマホが普及しておらず、国内普及率は25%だった。本人主観による記述でない、録音やメールの証拠が不足した状態では、「言った言わない」「強要したかしていない」の水掛け論になれば、働く側に勝ち目はなくなる。被告の特例子会社が、判決次第での行政の障害者雇用事業受注への影響を意識し、訴訟になったところで違反認定の判決さえ出されなければよいとして、意図的に水掛け論になる法廷戦術を展開し、狙い通りに持っていっていたのなら、法には触れないが道義的には疑問がある。専門家に聞き取っていくと、そうした法廷戦術に関する指摘があった。
「仮にそれが強要ではなく提案という形だったとしても、力関係を背景に服装や靴の変更を勧めること自体が配慮違反」という結論を導き出すことは可能と原告弁護団は考えていたが。

セールスフォースの障害者雇用訴訟では、問題が起きたのは2018~2020年、本人による上司の発言などの録音が証拠化されていた。他にも社内で相談した記録があり、裁判所が被告会社に提出を求めている。

就業規則で職場での録音や録画を禁止したところで、ハラスメント訴訟になればそれは有力な反論にはならなくなる。

別のハラスメント訴訟では、在宅勤務になり、社内のグループチャットの記録が証拠化されているというケースもあった。

働いているうちに客観的証拠を集めるなど、通常は考えにくいものだった。だが2010年代前半に比べると、ハラスメントの証拠の保存や収集のハードルは下がってきたといえる。

今後は争点を「言った言わない」に持ち込んで事実認定を困難にするという法廷戦術が通用しにくくなっていくだろう。

会話がいくつかあって、それがハラスメントにあたるのかどうか、評価・文脈をめぐる争いになっている、という新傾向。

企業側のハラスメント相談に対応することが多い弁護士の解説によると、訴える側の視点でハラスメントとされる行為があったこと自体は認めるが、そこに加害者独自の意味づけをして、「ハラスメントではない」と主張するのは避けるべきであるという。「悪いのは相手の方だ」と主張するのも、被害者の落ち度として客観的に認められる事情がない場合、有力な反論にならないばかりか、尊厳を傷つけると認められマイナスに働くことがありえるので注意が必要。

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セールスフォースの障害者雇用訴訟では、人事部、ジョブコーチ、相談窓口、産業医が公平に処理していたか、組織としてのガバナンスも問われるとみられる。

労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)の改正(大企業は2020年6月1日、中小企業は2022年4月1日に義務化)により、使用者としてハラスメントを防止するために雇用管理上の様々な措置義務を負うこととされたため、ハラスメントの行為者に対する使用者責任のみならず、直接的に措置義務違反を理由として責任追及される可能性が出て来たという。

合理的配慮義務違反と措置義務違反の関連はどうなるのか。

ハラスメントへの問題意識が高まる世論もあり、慢性的に差別意識を払拭できない企業はリスクを抱え続けるという傾向はますます強くなった。

取り組んでいるつもりになっていることが「うちではそんなこと起きるわけがない」という正常性バイアスにつながっていないかも注意したい。


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