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「直感」文学

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「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
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2017年8月の記事一覧

「直感」文学 *溢れ出す、言葉たち*

「直感」文学 *溢れ出す、言葉たち*

溢れ出しているはずの言葉たちは、いつも胸につかえて言葉になることはなかった。

コウヤくんは何もしていない。

ただ、私の前で無邪気に笑っているだけなのだ。

彼を好きになった瞬間、私の言葉は形を失ってしまい、どこまでも存在を隠してしまっている。

「どこにいってしまったの?」

私が”私”にそう問いかけると、

「ここにいるよ」

と言葉たちは、みんな一斉に言葉を返した。

あ、ほんだ。

言葉

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「直感」文学 *ほとぼりが冷めるまで*

「直感」文学 *ほとぼりが冷めるまで*

 どこまで時間が進めば、

 僕たちはまた同じ空間、同じ言葉、同じ気持ちを、共有出来るのだろうか。

 マコは、いつ僕をまた、その優しい手で受け入れてくれるだろうか。

 彼女が僕を拒否してから、一ヶ月が経とうとしている。

 一ヶ月だ。既に一ヶ月も経ってしまっているのだ。それなのに、彼女からの連絡はない。

 「少し時間が欲しいの」

 マコはそう言って僕を拒絶した。僕はその言葉を上手く理解する

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「直感」文学 *洋服との関係*

「直感」文学 *洋服との関係*

 「私これずっと前から欲しかったんだよねー」

 ユズキはウインドウに飾られたマネキンを見ながら、そう言った。

 もちろんそれが”マネキン”ではなく、マネキンが着用した”洋服”が欲しいということくらいは、いくら僕でも分かった。

 「へえ、高いの?」

 「まあ、ハイブランドだからね、10万くらいはするんじゃないかな」

 洋服一着に10万もかける理由が僕には分からなかった。10万もあったなら、

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「直感」文学 *寒空の下*

「直感」文学 *寒空の下*

 寒い……。

 「今日は今季一番の冷え込みなんだって」

 どこからともなくそんな言葉が聞こえてくるけど、最近は毎日「今日が今季一番の寒さ」だなんて言っているような気がする。

 その言葉に嘘はないのかもしれないけれど、毎日毎日そうやって繰り返される情事は、なんだか茶番のようにも思えて、私は少し呆れた。

 1日、1日と、下降していく日々。

 それはまるで今の私みたいだ。

 最近の私は悪いこ

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「直感」文学 *その枝*

「直感」文学 *その枝*

 木の枝を拾って、ただ宙に投げてみた。

 それは少し風に揺られながらも、すぐにその場へ落ちてしまって、

 今はただ儚く、湿った土の上に転がったままだった。

 とても無防備なその枝を、僕はただじっと眺めたままで、なんの手を加えることもなく見つめていた。

 別に何の思い入れもなかったその枝なのに、今では少し気がかりで、この枝をここに放置していくことに少しためらうくらいだった。

 夜が明ける。

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「直感」文学 *十分な落ち着き*

「直感」文学 *十分な落ち着き*

 雑多とした風景が目の前に広がっている。

 ここは大して高いとも言えない3階。

 ビル群がひしめき合い、それぞれが煌々と看板の明かりを灯していた。

 待ち合わせまではまだ十分に時間があるから、僕は近くにあったこのカフェで時間を潰していた。

 やりかけの原稿を仕上げてしまいたいたかったこともあったし、なにより落ち着く場所で一息つきたかった。

 ここはそんな僕の気持ちをくみ取るように静かで、

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