見出し画像

ラグビー日本代表のジャージを分析してみた

ラグビーワールドカップが盛り上がっていますね。日本での開催ということもあり、ルールを詳しく知らない人もテレビ中継を見てしまうのではないでしょうか。(私もその一人です。)

体格の良い選手たちが激しくぶつかり合ったり広いグラウンドを駆け抜けたりしているところに迫力を感じますが、選手たちが着ているジャージ(ユニフォーム)には、それを支えるための工夫や技術がたくさん盛り込まれているようです。今回は、ラグビー日本代表のジャージの特徴をTech Structureを用いて分析してみたいと思います。

Tech Structureとは何かをご存じない方は、先に以下のサイトで説明をご覧ください。

日本代表のジャージは、2015年に続き2019年もカンタベリーオブニュージーランドジャパン社によって開発されているそうです。まずは、ジャージの特徴を ①デザイン と ②機能・性能 に分けて考えてみましょう。

① デザイン

2019年日本代表のジャージは、このようなデザインになっています。屈強な日本選手たちが相手とぶつかり合う様子が想像できますね。

画像1参照:カンタベリーオブニュージーランドジャパン社による紹介ページ

それでは、このジャージに込められている想いとは何でしょうか?

今回のデザインのコンセプトは、「兜:KABUTO」だそうです。まず、デザインを「色」と「模様」に分類し、そのポイントを書き出してみました。

図2

この情報だけだと、デザインのポイントが何なのかは分かりますが、それが何を意図しているのかまではまだ分からない人も多いのではないでしょうか。そこで、各ポイントの狙いを追加してみました。

図3

例えば、日の丸カラーは「一目で日本だとわかる」、黄金カラーのアクセントは「(日本一の山である)富士山のご来光を表現する」といった機能を果たすために用いられていることが理解できます。

さらに整理してみましょう。それぞれの機能を詳しく見てみると、日本らしさを強調するための機能と、試合をサポートするための機能とに分類することができそうです。これらを組み合わせて「日本らしく世界と戦う」というコンセプトが表現されていることを明確化できました。

図4

ジャージ前面のV字ストライプは、兜の前立てがモチーフになっているそうです。デザインコンセプトの名前になっていることからも、ここが一番の特徴だと言えそうですね。「日本らしさを強調する」と「相手を威圧する」といった両方の機能に関係していることにも、納得がいくのではないでしょうか。

②機能・性能

こちらの動画によると、ジャージの開発では「耐久性」「軽量性」「速乾性」の融合を目指したそうです。先ほどと同様に、まずはこれらの性能が求められる目的を考えてみましょう。

例えば、速乾性が求められるのは、快適に着ることができるようにするためです。「快適に着ることができる」という機能を実現するために、「汗がすぐに乾く」という機能が求められていると言えます。また、快適に着るためには何が必要かを考えると、「身体にフィットする」といったその他の機能も必要なことに気が付きます

図5

同様に、軽量性や速乾性に関する周辺情報も検討し、ラグビージャージに求められる機能を整理すると以下のようになりました。細かいことを挙げれば、求められる機能はもっと他にもたくさんあるかもしれませんが、簡潔にするため、まずはこちらで話を進めたいと思います。

図6

それでは、これらの機能をどのように実現しているのかを紐解いていきましょう。まず、ラグビーではポジションごとに選手の体格や動き方が異なります。全てのポジションで同じ機能特性をジャージに求めるよりは、ポジションごとに最適化された機能を追究した方が良いことは自明なのではないでしょうか。ラグビーのポジションは大きく分けると、スクラムを組むフォワードと、フォワードが獲得したボールを前に進めてトライにつなげるバックスとに分かれます。

まずは、バックスの方から考えてみましょう。バックス用ジャージのTech Structureを作成すると、下図のようになりました。

図7

バックスはスクラムを組む訳ではないので、「安心できるホールド感(肉があって守られている感じ)がある」や「スクラムを組む際に力を分散させない」といった機能は必要でなく、それよりも「生地が破損しない」「生地が軽い」「生地が伸び縮みする」「汗がすぐに乾く」という機能をバランスよく達成することが重要となります。今回のジャージでは、約2年をかけて開発された「ALPHADRY® Extreme(アルファドライ®エクストリーム」)という素材を生地に用いることで、これらの機能が実現されているそうです。また、「相手選手につかまれにくい」を実現するために「すべりやすい」という機能も付加されているようです。

次に、フォワード用のジャージについて考えてみましょう。フォワードはバックスと違い、激しいスクラムを組むので、「安心できるホールド感(肉があって守られている感じ)がある」という機能が重要になります。ホールド感を出すためには生地を厚くすることが有効ですが、そうすると必然的に軽量性が失われてしまいます。すなわち、「安心できるホールド感がある」という機能と「生地が軽い」という機能とはトレードオフの関係にあると言えるでしょう。今回のジャージ開発では、この問題を解決したことが一つの大きなポイントだと言えそうです。

図8

紹介記事によると、上記の問題は、生地に「かさ高(凹凸)がある」という機能を持たせることで解決されました。そして、生地にかさ高をつけるためには、経編(たてあみ)という技術が採用されました。経編という技術は、クルマのシートやランニングシューズなどにも用いられていますが、これらの製品も今回のケースと同様な機能・ニーズが求められる製品ですね。

また、運動に用いられる衣服としては「生地が伸び縮みする」ことが通常は重要ですが、「スクラムを組む際に力を分散させない」ためには、「必要以上に伸びすぎない」という機能が求められます。フォワードのジャージの生地は、この辺りを考慮しながらバックスとは異なるバランスで出来上がっていそうです。

2つのTech Structureを比較すると、フォワードとバックスとで異なるポイントが何なのかを明確化することができます。実際は、フォワード向けのジャージをさらに2種類に分けたり、身体の部位ごとに伸縮性を変更したりする、といった工夫もされているようですが、今回の検討だけでも、課題を明確化しながら、その解決に向けたポイントや技術を組み込む、といった製品開発の過程の一部を把握することができたのではないでしょうか。

図9

ちなみに、経編の生地は福井県の生地メーカーと連携することで実現したそうです。必要な機能を明確にすることで、生地メーカーに依頼すべきことも明確にできそうですね。

<まとめ>

今回は、Tech Structureを活用して、ラグビージャージの特徴を整理してみました。①では、右側から左側の流れで情報を整理してみました。また、②では、逆に左側から右側の流れで情報を整理してみました。市場ニーズと製品・技術シーズの関係性を見える化できると、その製品の特徴やその中に込められた想いが見えてきます。

Co-cSでは、Tech Structureを用いて、
・ 製品コンセプトの実現に向けた課題の精査
・ 自社技術の棚卸と強みの再認識
・ 企業の製品ロードマップの分析
などを支援した事例があります。

まだまだ盛り上がりの続きそうなラグビーワールドカップ。
モノづくりの目線で観戦してみると、また新しい面白さが見つかるかもしれません。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?