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Tech Structureで課題を整理・明確化する ~マーケットイン型の製品開発~

先日はこちらの記事でTech Structureの概要をご説明しました。今回は、モノづくりを考える際にTech Structureがどのように有効となるかを具体的なケースを交えながら考えてみたいと思います。

Tech Structureを用いてモノづくりを考える際には、市場ニーズ(左側)から製品・技術シーズ(右側)を考える方法と、その逆で製品・技術シーズ(右側)から市場ニーズ(左側)を考える方法とがありますが、今回はニーズから考える場合についてお話したいと思います。
製品開発の方向性には、大きく分けてマーケットインとプロダクトアウトの2パターンがありますが、ニーズ(左側)から考えるというのは、マーケットインに相当する考え方ということになります。

<参考>
マーケットイン:顧客の声や視点に応えることを考える製品企画・開発
プロダクトアウト:既に保有している技術やリソースを活用・発展させることを考える製品企画・開発

「体温を下げる」製品の開発を考える

今回は、風邪を引いた人が体温を下げるために用いる製品を開発することをケースとして考えてみたいと思います。小林製薬の「熱さまシート」やライオンの「冷えピタ」などの商品がどのような検討により生まれてきたのかを推察してみましょう。

まず、市場ニーズ(やりたいこと)は「使用者の体温を下げる」です。今回はこれを実現するために、「気化による熱を奪う」という機能を持つ水分を用いることをベースにします。昔は風邪を引いた時に濡れタオルや氷まくらを用いていましたが、これらも水分の気化を利用して身体の熱を奪うという点で同じ原理ですね。

図1

さて、水分を利用しようとなると、当然のことですが、「水分を保持する」という課題を解決する必要が発生します。また、濡れタオルや氷まくらに替わる製品を作るためには、それまでには無かった付加価値を与える必要があります。そこで、「動いてもズリ落ちない」というニーズを新しく設定してみました。これを実現するためには、「体表面に貼りつく」ということが求められます。そして、「水分を保持する」と「体表面に貼りつく」を同時に実現できる方法を考えると、「吸水性ポリマー」という解決策が見えてきました。

図2

さらに商品価値を向上していくため、「使用者に冷感を与える」という機能も追加してみましょう。これは冷感カプセル(メントール)で実現できそうです。これにより、開発すべきなのは吸水性ポリマーをベースに水分や冷感カプセルを含んだジェルシートであり、中身に求められるポイントが何かということも明確になってきたと思います。このように、Tech Structureを用いると、求められるニーズや課題を一つ一つ整理していくことができ、また、その解決策も整理され、製品の実現の可能性や付加価値向上のポイントを検討しやすくなります。

図3

それでは、次に、このTech Structureを見直していきましょう。
「気化による熱を奪う」という機能を挙げましたが、この効果を高めるためには、「水分の蒸発を抑える」という課題があることに気付きます。

図4

「水分の蒸発を抑える」ためには、体表面と反対側からの蒸発を抑えるための不織布や使用前の保護フィルムを用いれば良さそうです。以上により、求められる要素を組み合わせた冷却シートという、開発すべき製品の全体像が明確になりました。

図5

最後に、ニーズ側の整理もしておきましょう。今回の製品が解決できるニーズは、「使用者の体温を下げる」「動いてもズリ落ちない」「使用者に冷感を与える」の3つが挙げられています。これらを統合して、「移動中でも体を冷却する」としてみました。当初よりもターゲット像が明確になり、マーケティングメッセージもブラッシュアップできそうな気がしますね。

図6

簡単な説明ではありましたが、以上のようにTech Structureを用いた検討を進めていくことで、やりたいことの実現手段を整理できたり、取り組むべき課題や必要となる技術が分かったりすることを体感いただけたかと思います。製品コンセプトをどのように具現化するのか、そのために想定すべき課題は何か、といったことが明確になっていけば、関係者間の認識が共通化され、製品開発を加速させることができます。
ぜひ皆さんもご自身の製品開発の中で、このような考え方を活用してみてください。

補足:解決策となる技術の開発を他社に依頼する

今回の例では吸水性ポリマーや不織布など、製品を実現するための新しい要素が出てきましたが、必要となる技術は必ずしも自社で開発しないといけない訳ではありません。例えば、吸水性ポリマーに求められる機能や特性が明確になっていれば、それを満たすポリマー製品を開発できる他の企業と連携することで、自社で独自に知見を深めたり新しい設備に投資したりすることなく、製品化に早くにたどり着くことができるはずです。
いきなり吸水性ポリマーを提供してくれとお願いするだけでは、他企業との効果的な連携は難しいかもしれませんが、Tech Structureで背景や要件が整理されているので、相手の企業にも状況を理解してもらいやすいのではないでしょうか。このようにTech Structureでは、自社で取り組む領域と他社にお願いする領域の切り分けにも活用することができます。

Co-cSでは、課題の解決策となる技術やそれを保有する企業・研究機関を調査することもお手伝いしています。ご興味のある方はぜひご連絡ください!


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