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「なまえ」と「アイデンティティ」がテーマの難民絵本ーー『ぼくのなまえはサンゴール』(1)


はじめに

東京都八王子市の小出版社・ゆぎ書房より、翻訳絵本『ぼくのなまえはサンゴール』が2024年5月30日に刊行されました。共訳者のひとりで、ゆぎ書房・代表の前田が、サンゴールくんの物語をご紹介します。
※ネタバレ含みます。
※書誌情報とあらすじ:ゆぎ書房HPAmazon楽天ブックス

1.スーダンからアメリカへ行ったら、名前がなくなっちゃった?!

サンゴールくんが生まれ育ったのは、アフリカのスーダン(2009年当時)。でも、戦争でお父さんが殺されてしまい、妹のリリとお母さんと一緒に難民キャンプへ。その後、「なんみん」としてアメリカへ渡ります。

アメリカに着いたサンゴールくん一家(ページの左下)。空港の喧噪にドギマギする。

初めての外国。初めての大都会での暮らし。慣れない英語と新しい学校生活に緊張するサンゴールくん。そんな中で、彼を悩ませたのは、「誰も自分の名前をきちんと呼んでくれない」こと。

空港で出迎えてくれたボランティアさんも、学校の先生も、「サン・・サン・・サンゴエル?」と、彼の名前の綴りを見て、顔をしかめます。友だちにも、「サン、サング!」と、からかわれます。

「ここでは ぼくのなまえなんて、なくなってしまったみたいだ。」
なんみんキャンプに かえりたい。

スーダンでは戦争もあったけど、大切な友だちがたくさんいました。それに、彼のルーツであるディンカ(族)のディンカ語でおしゃべりできる仲間だって、いっぱいいたのに・・。

スーダンの難民キャンプを離れる日。友人たちは、
「アメリカに行ったら、きみには あたらしい家がある。
もう まよなかに にげなくて いいんだよ。」

2.サン(太陽)と (サッカー)ゴールで「サンゴール」!

サンゴールくんは、お母さんに悩みを打ち明けます。お母さんは言いました。

「アメリカが 私たちの あたらしい いえだもの。アメリカらしいなまえに かえたほうが いいのかもしれないわ。」

サンゴールくんはご飯も喉を通らなくなります。スーダンを出るとき、ディンカ族の長老がかけてくれた言葉が忘れられません

「おまえの とうさんの なまえは、『サンゴール』だった。とうさんの とうさんも そのまた とうさんもだ。」

「どこへ行っても おまえはディンカ族だ。どこへ行っても サンゴールだ。アメリカでも、このことを わすれるんじゃないぞ。」

「サンゴール」という名前は、殺された父さんや、故郷スーダンの大切な人たちにつながる、かけがえのない「なまえ」だったのです。

あくる朝、サンゴールは、急に思いついてマジックを手に取ると、白いトレーナーに絵を描きました。学校へ行くと、みんなが「なにが かいてるんだい?」と、集まってきました。

「これは、サン(たいよう)だろ。」
「(こっちはサッカーの)ゴールよ。 わかった! あなたのなまえは サン・ゴールね !!」


3. サンゴールの未来へ


クラスメートも次々とペンを手にとって、紙に自分の名前を絵で描き始めました。かわるがわる、サンゴールに絵を見せて名前を教えてくれます。

先生もサンゴールのアイディアと素敵な名前を褒めてくれました。サンゴールは誇らしげに胸を張ります。

「このなまえは、ぼくのとうさんの なまえなんです。そして、そのとうさんも、そのまた とうさんも、おなじなまえを もっていたんです。」

ぼくの なまえは サンゴールだ。
アメリカで くらしても、このことは かわらない。

『ぼくのなまえはサンゴール』表紙と裏表紙

サンゴールが見つめる先(右側)にはアメリカの新しい友だち。サンゴールの後方(左側)には、かつて一緒にサッカーに興じたスーダンの友だちが、影と太陽とともに描かれる。

彼の大切な故郷とこれまで(過去)、そして、これから(未来)を描いた、深い一枚。

※バーコードはシール式になっていますので、剥がしてご覧下さい。

【原作者あとがきより】
ディンカのようないくつかの文化では、先祖からうけつがれてきたなまえを、長男につけます。そのなまえは、姓にもなります。そして、このほかに独自のミドル・ネームももちます。

【書誌情報】
『ぼくのなまえはサンゴール』
カレン・リン・ウィリアムズ、カードラ・モハメッド[文]
キャサリン・ストック[絵]
小野寺美奈、當銘美菜、山西優二、前田君江 [共訳]
ISBN 978-4-910343-06-8
32p 縦285mm×横222mm A4変型判 上製本
定価¥2,200+税 ゆぎ書房 初版第1刷 2024年5月30日




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