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泣いて帰った受診日。


黄色い錠剤が口の中で静かに眠る。

溶けて喉の奥に堕ちていく。

暑さに乾いた頬を

涙という血液が零れていく


血管の、身体の外で、

「くるしい」と

血が泣くように。


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幾度も通った道が

知らない日常の視界に見えた

あの日

あの日の所為だ、と


初めて精神薬を処方されたあの日

私のなにかが変わった気がした


私は。精神病者になったの?

ちがう、先週と何一つ変わってはいないよね?

手のひらに重ねた

処方箋が入ったビニール袋の持ち手が

じんわりと汗で滑って、ゆっくりと持ち直す。


ねぇ、先生。

私は、どうなったの。これからどうなるの。


電車の雑音、話し声

いつもなら耳の奥で鳴るだけの雑音が

いやに小さく聴こえて、

自分の思考だけが、脳にはっきりと響いた。


誰にも気づかれないほど

小さく泣いて

涙でボヤける視界で

窓の外を見る。

いつもと同じ、

毎週通う電車からの風景を見て

涙が頬を伝いながら

私は笑った。


それでも生きていかなければいけない。

今日家に帰ってからも、

明日も明後日も、

次、精神科を受診する

その日まで、また。必ず。


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ねぇ、先生。

私、頑張ればいい?

薬を飲んでも、私でいられるかな。

ねぇ、怖いよ。

今までの私が消えてしまいそうで。


錠剤が吸収されていく。

1時間ほどすれば、

今までとは違う感覚が

私に「服薬」という言葉を思い知らせてくる。


私は、ずっと

私でありたかった。

自分を保てない自分が悔しかった。


薬を、飲む度に

心の奥で掠れる罪悪感は

きっと一生

消えないのだろう。


泣いて帰ったあの日のことを

私が一生忘れないのと同じように。

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