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豆腐怪談

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Twitter上で投稿しているSS怪談 #豆腐怪談 シリーズです。 これを一部訂正&加筆修正などしたものを、まとめて土日にnoteでアップしていていましたが、今はお休み中。 日常…
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2020年5月の記事一覧

「豆腐怪談」マガジン目次

これはTwitter上で不定期連載中の「豆腐怪談」シリーズを訂正&一部加筆修正しアップした記事をまとめたマガジンです。 日常から不意に怪異が顔を覗かせるそんなSS怪談。 1話~10話 豆腐怪談 1話:間違えた      豆腐怪談 2話:ツナギ        豆腐怪談 3話:猫バンバン      豆腐怪談 4話:落ちる音       豆腐怪談 5話:お局様        豆腐怪談 6話:祖父と孫       豆腐怪談 7話:下からの音      豆腐怪談 8話:黄昏時の海  

豆腐怪談 30話:安眠妨害

それはいつも真夜中にやってくる。 ある日、何故か急に目が覚めた。目を開けなくとも今は真夜中だと分かった。目を開いて起きる理由もなかったから、そのまま二度寝を決めることにした。 再びまどろみかけた矢先だった。鼻先をくすぐるような僅かな空気の動きを鋭く感じてしまった。 薄目を開けてみる。覚醒直後のぼんやりとした視界に、白く細いものがゆっくりと動いていた。 それはヒトの指だった。ベットと壁の隙間から手首が生えていて、その人差し指が鼻先を触れるか触れないかの位置で揺れていた。い

豆腐怪談 29話:地下バックヤード

今はもう存在しない店の、元店員Nから聞いた話。 その店は1階は衣料品や雑貨等の生活用品売り場、地階は食料品売り場とバックヤードという変わった組み合わせのスーパーだった。 昔はもっと大きい店舗だったらしく地下が食料品売り場なのはその名残だったらしい。 その地下のバックヤードは常に薄暗く、店員の誰もが薄気味悪いと感じていたそうだ。 雨が降ると老朽化したコンクリートのヒビから地下水らしきものが滲み、壁の向こうから何かが滴る音がするなど不気味さに拍車がかかった。 ある日、店員Nは

豆腐怪談 28話:上流からきたもの

後輩から聞いた話。 山のふもとに住む彼の家の近くには小川が流れている。 細いが流れが速く、深さもバラバラで岩だらけの、いかにも山の川といった感じの川だ。 その川にかかる橋はいくつかあるが、個人がつくったと考えられる簡素な橋もひとつあった。 「人が一人通れるぐらいの幅でして、僕よく使うんですよ」 少し勢いよく歩くと振動でわずかに上下する、そんな危うさもあるこの橋がすきだと後輩は言う。 ある初夏の夕暮れのころだったという。 太陽がわずかに赤い弧を地平線上に残し沈もうとしている

豆腐怪談 27話:トイレの個室

「もう飲めねえつってんにのに、飲ませるアホがいるか!」 あまり飲めないのに飲まされすぎたせいか、頭がクラクラしてきた。 しかも居酒屋チェーン店あるあるの大喧騒が悪酔いを誘発しかけたので、たまらずトイレへ逃げこむ。ここは男子トイレでも個室の数が多い。 大喧騒もここでは遠い部屋から聞こえるおしゃべりぐらいの音量で、しかも利用者が少ないときた。抜け出してちょっと休憩するには丁度いい。 一番奥の個室を陣取り、スマホでインスタグラムの猫画像をしばらく眺めることにした。 猫ちゃんがお

豆腐怪談 26話:遺ったもの

まだ平成が20年代前半だった頃に知人女性から聞いた話。 知人女性の遠縁が孤独死したので、彼女は親戚数人と遺品整理をした。 孤独死と言っても24時間も経たないうちにヘルパーさんによって遺体が発見されたので、遺体はひどい有様にはならなかったそうだ。 しかし彼の最期の生活は荒れていたようだ。家の中は異臭がするぐらいゴミが散乱し、遺品整理でかなり手間がかかったそうだ。 孤独死した彼が遺した物は借金しかなかったので、皆躊躇なく遺品をゴミ袋に次々と放り込んだ。 彼が最期に住んでいたこ

豆腐怪談 25話:白くて丸い

疲れていると判断力が落ちるのはマジだなと最近痛感した。 雑草だらけの夜の坂道を、仕事に追われて疲れきった体を引きずりながら歩く。郊外の道とその周辺の草むらをほぼ満月に近い月が照らしくれる。足元が少し明るいのは疲労した目にも優しい。 某公園の横に差し掛かった時、あるものが目に入り思わずギョッとした。 「うわっ」 イチョウの下の草むらに白く大きな物体がいた。それは雑草の中で不規則に膨らみ時には揺らいでいる。 月の光を受けた白は美しさすらあるのが、尚更不気味だった。 これは見て

豆腐怪談 24話:目に止まる

信号待ちや待ち合わせしている間に、ふと目に止まってしまう家や建物の一角というのはあると思う。特に特徴はないはずなのに、見上げた先に視界に入ってつい数秒間眺めてしまう家やベランダや窓。 目を止める理由は様々だ。鳩がベランダに止まっていたり、洗濯物が揺れていたなどだ。 友人が住む賃貸マンションも、信号待ちしている間につい見てしまうタイプだった。 ある部屋のベランダで、洗濯物のタオルが風にあおられバサバサと揺れていた。それを数秒間眺めていたそれだけだったが妙に印象に残ってしまった

豆腐怪談 23話:雪道に立つ人

庭の草刈りに来てくれたシルバーさんから聞いた話。 彼は事情があって11歳の一時期を雪国の祖父の家で過ごしたそうだ。 祖父が住む雪国は豪雪地帯というほどでもなかったが、それでもほぼ毎日雪かきが欠かせない程度には雪が降り続ける地だった。 ある日祖父と山を越えた先へ買い物に出かけた時だった。その日は昼間でも細かい雪が斜めに降り続けていて視界が少し悪かったという。 祖父が運転する車の助手席に乗っていた彼は、ふと人気の無い道端に一人立つ人影を見つけた。 雪の薄い簾のような半透明の視

豆腐怪談 22話:車中泊

夜も更けた。日付が変わろうとしている。このまま高速道路を飛ばしても朝までに家に帰るのは無理らしい。眠い目を擦りながら夜の高速道路を走るのは死亡フラグもいいところだ。 とりあえず人の出入りが少なさそうな、ある小さなサービスエリアの駐車場で車中泊することにした。サービスエリアといっても、狭い駐車場に小さなトイレと自動販売機が数台並んでいるだけの無人サービスエリアだ。 この駐車場にはほかに車の影がない。ここには自分一人しかいないらしい。今はとりあえず静かに眠ることができそうだ。

豆腐怪談 21話:根付かない花

友人の趣味はベランダでのガーデニングだ。 今はリモートワークだとかステイホームなど身動きもままならないこんなご時世だが、趣味に没頭できる時間ができたのだけはありがたいと言っている。 「今年はユリをいくつか育ててるよ。実家ではできなかったから楽しみ」 彼女の実家は庭付き一軒家にも関わらず、ガーデニングができない家だった。その庭は日当たりは良く風通しもいい、まさにガーデニング向けの庭の筈だった。 しかし、雑草は毎年抜いても生えるくせに、花を咲かせる草木は丁寧に世話をしても何故か

豆腐怪談 20話:風呂場

今日は疲れた。体がだるい。 早く入浴剤を投下した湯舟に浸かって体を癒したい。 だがこんな日だからこそ、湯船に浸かる前に洗髪と毛根ケアを念入りにしなければ。疲労とストレスは毛根の天敵である故に。 そんなわけでいまは風呂場で洗髪兼毛根ケアに勤しんでいる。 目を閉じ集中してケアをしていると、ぽた、ぽた、ぽた、とシャワーから水が滴り落ちる音が尚更よく耳に響く。 じっくりケアした毛根と頭皮からだるさが消え、心地よい温かみが沁みていく。 目をとじたまま、手探りでハンドルを掴みシャワーか

豆腐怪談 19話:堤防釣り

「子供の頃の話ですよ。あれは小学校最後の夏休みでした」 小学校最後の夏休みも終わりに近付いた頃、Cさんは父親と一緒に海へ釣りに行くことになった。 夜中に家を出て、海についたのはまだ夜明け前だった。 夜明けの前後1時間で釣る 「朝マズメ」と呼ばれる時間帯だ。朝マズメは魚の餌となるプランクトンが水面下へ上昇する。それを追って魚も水面下で捕食するので、堤防釣りでアジなどを狙うにはいい時間帯だそうだ。 その防波堤は平日ということもあったのか、釣り人はCさん親子しかいなかった。 「ラ

豆腐怪談 18話:流行りの黒いやつ

もう随分と日は長くなった。それでも19時を過ぎれば日は落ちて、夜の時間である。前方で輝く宵の明星がひと際明るい。 疫病が怖いこんなご時世だが、今日も川の堤防の道で日課のジョギングをする。人気のない道を走るのに足元を照らすヘッドライトが必要だ。 車が入れないこの道は、いつもなら犬の散歩などでよく人が歩いている。しかしこんなご時世なので、毎日この時間で見る人達は家に引きこもっているらしく、周囲には誰もいない。今この道の人影は遠くに一人いるぐらいだ。 ほぼ誰もいないことをいいこと