酔っ払い
今日はそんな日なのかも知れない。
後部座席のシートのカバーはすぐに洗うとして、臭いはどうしたものか。
青木は持っていたオレンジの香りのする消臭剤を、これでもか、というぐらい車内に噴射した。
昨日たまたまパチンコの景品の余り玉で交換した、
トイレ用の消臭剤である。
男が酔っ払いである事はわかっていた。
シートにうずくまっていた事もわかっていた。
あまり関わってはいけない人物なのでは?という勘が働き、ドライバーとしての、目的地に一刻も早く届ける事だけに専念した。
頭を包帯でぐるぐるに巻かれていたからだ。
おそらくこのタクシーが拾われた上野のクラブで飲んでいたであろう赤ワインを車内に全て吐き出された。
男を目的地に届け、今日はもう営業終了だな、と消臭剤を噴射していると、炊飯器を持った真っ赤な目をした千鳥足の男が寿司屋から出てきた。
1人も2人も一緒か、と思い、泥酔男をゲロまみれの座席に誘導する。
どうせこいつも吐きやがる。
目的地は·····さっきの上野のクラブだ。人気店だな。
今日はそんな日なのかも知れない。
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