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従業員への株式付与がオーナー退職の中小企業を救う?アメリカで普及するTeamsharesのビジネスモデルとは

こんにちは!Z Venture Capitalの湯田です。
今回は、米国で急成長中のフィンテックスタートアップ「Teamshares」についての記事です。
現在Z Venture Capitalでインターンをされているmomokaさんに調査、執筆頂きました。ぜひご覧ください。



はじめに

Teamsharesは、退職を控えたオーナーから企業を買収し、その直後に従業員に株式10%を付与し、新たな社長候補の育成やフィンテック製品の提供を行う米国のスタートアップで、いま広がりを見せています。この企業がなぜ、米国で広がっているのかと言うと、その1つは20年以内には従業員の保有率を増やし、最終的に株式80%を所有することを約束していることにあります。このアプローチにより、中小企業の後継者問題の解決策の一助となっている仕組みがとても興味深く、今回Teamsharesについてリサーチし、紹介したいと思いました。

Teamsharesはその先進的な取り組みが評価され、多くの資金を調達しました。直近のシリーズDラウンドでは、主要なベンチャーキャピタルから合計1億2,400万ドルを調達し、合計調達額は2億4,500万ドルに上ります。このラウンドでは、QED Investorsをはじめとする一流VCが注目し、投資を行っています。
現在、Teamsharesはさまざまな業界で既に84社を買収し、その売上を飛躍的に伸ばしてきました。2021年1月からのわずか2年半で、1,000万ドルから4億ドル以上の売上を達成するまでの大きな成長を遂げています。今後、日本でもTeamsharesのビジネスモデルを参考に、新しいサービスが生まれる可能性を秘めています。そんなTeamsharesを紐解きしていきます。

Teamsharesの基本情報

概要

  • 設立:2019/New York

  • 累計調達金額:$245M/シリーズD

  • URL:https://www.teamshares.com/

  • 主要投資家:QED Investors, Union Square Ventures (USV), Khosla Ventures, Spark Capital, Almuni Ventures

  • 従業員数:約170人(そのうちSEを中心に技術者70人)

資本政策

Source: Pitchbook

CEOの経歴と創業の経緯

CEO Michael Sutherland Brown氏の経歴

CEO Michael Sutherland Brown
Source: Teamshares

Michael Sutherland Brownは、投資銀行業界での豊富な経験を持つ起業家です。彼は10年にわたる中小企業の運営、経済的な教育プログラムの提供、そしてM&A取引の経験を積んだ後、Teamsharesを創設しました。具体的には、Bank of Americaで投資銀行アナリストとしての経験、Morgan Stanleyで航空宇宙・防衛企業のリサーチアソシエイトとしての役割、Perella Weinberg PartnersでCorporate Advisory部門のディレクターとしての経験が含まれます。その後、彼は2013年にカナダ西部の電気工事業者を取得し、中小企業のオーナーとしての新たな道を歩み始めました。そして、共同創業者であるAlexやKevinとの出会いを通じて2019年のTeamsharesの起業に至りました。

創業の経緯

アメリカの中小企業は、家族間での事業承継が難しくなり、売却に失敗する確率が70%にも上る現実に直面しています。この問題に目を向けたTeamsharesは、退職するオーナーに財務的なExit機会と会社という遺産を従業員が所有する機会を提供し、雇用を保全し、モチベーションのある中小企業従業員のために株式の富を創出する使命を掲げています。MichaelはAlexとKevinと共にこの課題に取り組み、中小企業の事業承継問題に対する解決策として、従業員所有のモデルを提案しました。これにより、売却が難しいとされる中小企業が、従業員の手によって未来を切り拓く可能性が広がりました。
米国の中小企業は、雇用主企業の99.7%を占め、民間セクターの雇用の64%を担っており、その存在は極めて大きなものです。しかし、家族による事業の継承を選ぶオーナーはわずか15%程度であり、多くの場合、ビジネスを閉じる道を選ぶ傾向があります。それに加え、Teamsharesは米国の高齢化する人口を見据え、この市場の成長が今後ますます加速すると予測しています。

魅力的なビジネスモデル

後継者(買い手)が見つかず、会社を畳む必要が出てくるといった、事業承継で起こりうる問題を、従業員持株モデルを通じた事業承継手法で解消しています。Teamsharesと買収先の中小企業の双方にとってメリットのある、このビジネスモデルは様々な有名企業の社長を惹きつけています。実際にAmazon、BCG、Deloitte、Tesla、USAA、Walmartといった様々な主要組織からリーダーが Teamshares の社長として参加しています。Teamsharesの主な特徴である「事業承継の流れ」と「買収後の施策」について紹介したいと思います。

事業継承の流れ

  1. Teamsharesが年商100万ドル〜1,000万ドル規模、EBITDA+オーナーの報酬で40万ドル〜200万ドルの中小企業を買収

  2. 買収直後に従業員に株式10%、各事業を運営するために雇った社長に追加の5%を付与するとともに「フィンテック製品の提供」と「新しいリーダーの育成」を行い、ビジネスの継続性と成長を確保

  3. 従業員持株プラットフォームを通じて、Teamsharesは20年以内に株式80%を従業員に譲渡

買収企業の特徴

買収対象の企業は、長い歴史を持ちつつも、年間の収益が200万ドル〜1,000万ドルの範囲に収まる中小規模のビジネスです。オーナーが50歳以上の場合、もしくは社歴が30年以上の場合で事業承継をしたいと考えている中小企業が買収対象となっています。また、買収は下記の「具体的な買収企業の例」ように幅広い業界で行われ、それぞれ40以上の専門産業に属していますが、大きなカテゴリではビジネスサービス、消費者サービス、流通、製造、レストラン、小売の6 つに分類されます。

具体的な買収企業の例

買収後の施策

Teamsharesは中小企業の買収から成長までを担い、再び企業を売却して利益を得ることを目指しているわけではありません。その代わりにTeamsharesは、買収した企業に保険やクレジットカードなどのフィンテック製品や教育プラットフォームを販売して収益を上げる計画を立てています。

フィンテック製品の導入
買収した企業には、保険やクレジットカードなどのさまざまなフィンテック製品が提供される。これにより、ビジネスと従業員のニーズに合わせた金融ソリューションが買収先の中小企業に提供されることで、収益の多様化が図られます。最近では、いわゆる自社提供のネオバンク開発を進めており、従業員向けのコーポレートカード、保険商品の開発にも取り組み始めているそうです。

TeamsharesOS Webアプリケーションの提供
TeamsharesOSは、Teamsharesの買収先の企業で使用されるWebアプリケーションで、従業員がビジネスと財務に関する知識を向上するための支援ツールとして活用されています。このWebアプリケーションには、会社の重要な情報や財務データにアクセスできる機能、ビジネスの基本的な概念や財務データの解釈方法を学べるコンテンツ、従業員の教育フェーズの進捗を追跡できる機能などが含まれています。

Teamshares OS の会社財務セクションページ

例えば、このアプリケーションを用いると上記の画像のように財務実績に関するデータや主要な指標を簡単に表示できます。

経営サポートや従業員コミュニティの強化
買収した企業に対して、長期的な経営サポートや戦略的アドバイスを提供しています。それに加えて、従業員との結束を促進するため、定期的なイベントなどを開催したりしています。

最後に

Teamsharesは、2021年1月の時点で1,000万ドルの収益を持つ4社から、2023年7月の時点で4億ドル以上の収益を持つ84社の企業として成長し、29州と42の業界で2,100人以上の新しい従業員オーナーを生み出しています。その成功の背景には、従業員所有、金融教育、社長育成プログラム、そして効果的な金融インフラの導入があります。彼らは中小企業を買収して成長させ、売却するのではなく、買収企業に保険やクレジットカードなどのフィンテック製品を提供し、新たな収益源を生み出そうとしている点がプライベート・エクイティのビジネスモデルとは異なり革新的です。

日本においても事業継承問題は「2025年問題」として取り上げられているようにとても問題視されています。予測では、経営者が70歳以上の企業が約245万社まで増加し、そのうちの約127万社が後継者不在による廃業や倒産の危機に陥る可能性があると示唆されています。

そんな中で、今回紹介したTeamsharesのビジネスモデルは、日本の中小企業の後継者問題に新たな展望をもたらす可能性があると思います。
Teamsharesの成功事例は、中小企業の継続と発展に向けた新たなアプローチを模索する一つの指針となるのではないでしょうか。今後の動向もウォッチしていきたいと思います。

参考:


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