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起業の天才!―江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男

今日の一冊は、「起業の天才!―江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男」

誰もが知る企業「リクルート」
このリクルートの創業者が、江副浩正。

時代のニーズをくみ取り、次々と新しい価値を広げて企業を成長させていきながら、最終的には社会に犯罪者とされて第一線から強制的に退かれる「リクルート事件」までを、非常に丁寧に描かれた一冊です。

このまま、ドラマ化しそうですね。


特に私が印象に残ったのは、『人財』への意識。

江副さんは、どんどんと優秀な人材を引き入れて、権限移譲を進めながらチームを作り上げていきます。

今でこそティール組織など、そのようなマネジメントの考え方が一般的になってきましたが、当時から従業員一人一人が経営者意識を持ち、自発的に動くチーム作りをしていたことが伝わってきます。リクルート出身の経営者が非常に多いことも納得です。

カーネギーの墓碑に刻まれる言葉

「“Here lies a man who was able to surround himself with men far cleverer than himself.”」
【己より賢き者を近づける術知りたる者、ここに眠る。】

正しく、「優秀な人材を集めて活かす」ことを実践し続けた人ですね。


そしてもうひとつは、反面教師として受け止めるべき点として、

道理を伴った利益を追求していくこと。
この道から外れ、志と利益が一致しないと、人は動かない。

バブル期の江副さんの動きには、周りの人物も離れていってしまう。そして、最終的にはリクルート事件へとつながっていく流れは、

ここまでの事件にならないまでも、ただの利益追求ではなく、道理を伴った利益を追求していくこと。この教訓を与えてくれます。

破壊者を容認せず、異端者扱いしてしまう日本。
「まだまだ甘い。破壊者になれ。」そんな後押しをしてくれる一冊です。


ーーー以下、ハイライトーーー

池田は懐かしそうに言った。「創業時に入居していたビルは夜の10時にシャッターが閉まって、追い出されるんだ。するとみんなで行きつけの飲み屋に行って会議の続き。みんな江副の会社ではなく、自分の会社だと思っているから、自分が主役なんだ。楽しくないはずがない」江副は、本人すら気づいていない才能を見抜き、リクルートの中でその才能を存分に発揮させた。終身雇用と引き換えに社員に会社への忠誠を誓わせていた昭和の時代。「モチベーション」を軸に多種多様な人材を生き生きと働かせた江副はマネジメントの天才でもあった。

大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.655-660). Kindle 版.


さらに創業期のリクルートに、なくてはならない男がここに加わる。
大沢武志。神戸大学から東大に転入し、江副と同じゼミで教育心理を学んだ大沢は、卒業後、産業心理の専門家として日立製作所の人事部に入社した。
学究肌の大沢がリクルート在籍中に書いた『心理学的経営個をあるがままに生かす』という本は、今も企業の人事担当者の「バイブル」とされている。
大沢は心理学を経営に応用することに誰よりも情熱を燃やしていたが、大企業の日立は「終身雇用」と「年功序列」にどっぷり浸かっており、大沢が唱える「モチベーション経営」には見向きもしない。
就職情報誌に続く自社の柱として「採用テスト」の開発に着手した江副は、大沢を開発の仲間に引き入れた。「大沢さん、僕らは企業の採用活動を一手に引き受けることで『日本株式会社の人事部』になりたいんだ。そのためにこのテスト事業をものにしたい。どうしても君の力が必要だ」大沢が応じた。「僕は僕の理論で日本企業の組織を活性化したい。ここでそれができるなら、喜んで参加する」

大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.689-700). Kindle 版.


アメリカ・シリコンバレーの新興企業に投資する有力ベンチャー・キャピタル(VC)が、見込みがあると判断した若い起業家に必ず出す〝宿題〟がある。
「君のアイデアが素晴らしいのは分かった。だが、それを実現するにはチームが必要だ。君より優秀な人間を3人集めて来たら、カネを出そう」
起業家を志す人間には「お山の大将」が多いが、「なんでも自分が一番」では会社は大きくならない。
「ユニコーン(幻の一角獣=10億ドルを超える企業価値を持つ未上場ベンチャー)」を立ち上げる人間は、優れたビジョンと、そのビジョンの実現のために優秀な人間を巻き込んでいく力を兼ね備えた人間でなくてはならない。

大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.726-733). Kindle 版.


世界最大のオンライン決済サイト「ペイパル」を創業し、フェイスブックを育てたエンジェル投資家のピーター・ティールが、日本でもベストセラーになった自著で、起業することについてこんなことを書いている。〈ビジネスに同じ瞬間は二度とない。次のビル・ゲイツがオペレイティング・システムを開発することはない。次のラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが検索エンジンを作ることもないはずだ。次のマーク・ザッカーバーグがソーシャル・ネットワークを築くこともないだろう。(中略)もちろん、新しい何かを作るより、在るものをコピーする方が簡単だ。おなじみのやり方を繰り返せば、見慣れたものが増える、つまり1がnになる。だけど、僕たちが新しい何かを生み出すたびに、ゼロは1になる。(中略)行政にも民間企業にも、途方もなく大きな官僚制度の壁が存在する中で、新たな道を模索するなんて奇跡を願うようなものだと思われてもおかしくない。(中略)そう考えると気が滅入りそうになるけど、これだけは言える。ほかの生き物と違って、人類には奇跡を起こす力がある。僕らはそれを「テクノロジー」と呼ぶ〉(『ゼロ・トゥ・ワン君はゼロから何を生み出せるか』NHK出版)ティールのいう「テクノロジー」とは、ITなどの技術的なものに限らない。「ものごとへの新しい取り組み方」「より良い手法」を、彼はテクノロジーと呼んでいる。1962年(昭和37年)4月、江副は、「新しい取り組み方」によって、これまでにない媒体(メディア)をつくった。『リクルートブック』、創刊時の名前は『企業への招待』。「リクナビ」の前身である。この新メディアが成功していなければ、リクルートは大学新聞の求人広告を取り扱う小さな広告代理店で終わっていたに違いない。当時も、そしてその後急成長し、電通より大きくなり、朝日新聞に肉薄したときも、さらにはリクルート事件後も、『リクルートブック』とそれに続く数々の情報誌の本質を、正確にいい当てた者は誰もいなかった。いや、いまなお、江副がつくった「情報誌」の革新性はきちんと理解されていないかもしれない。

大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1034-1054). Kindle 版.


〈東大新聞でアルバイトをしていた経験から求人広告、企業広告の先を見通し、その種の広告媒体としての大学新聞を大きく飛躍させたのも、アメリカ留学中の芝さんから新しい仕事のヒントとして送ってきた「Career」のアイデアを「企業への招待」の商品化に生かしたのも、結局は、経営者が環境を鋭く見通して新しい需要、新しい市場を「創り出した」ことにある。いまになれば、リクルートがやらなければだれがやっただろう〉(『リクルートと私』)ピーター・ティールのいうとおり、ビジネスに同じ瞬間は二度とない。次の江副浩正が「広告だけの雑誌」というメディアを作り新たな市場を開拓することは、もう二度とない。

大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1111-1116). Kindle 版.


「求人広告だけの雑誌」──『企業への招待』から始まった、リクルートの情報誌ビジネスのいったいどこが革新的だったのか。
いまだからわかることだが、江副の情報誌は、一言で言えばインターネットのない時代の「紙のグーグル」だったのである。つまり、情報がほしいユーザーと、情報を届けたい企業を「広告モデル」(ユーザーには無料)によってダイレクトに結びつけたのだ。
新聞、雑誌、テレビ、ラジオなど商業媒体の読者や視聴者にとって、広告は一般的に「ノイズ」と思われている。読者、視聴者が見たいのはニュースやドラマ、野球、サッカーなどのスポーツ中継であり広告ではない。
一方、広告を出す企業の側からすれば、求人広告なら「仕事を探している人」、不動産の広告なら「家を買いたい人、借りたい人」がターゲットである。しかし読者、視聴者の多くはすでに定職に就いていたり、家を持っていたりする。マスメディアに載せる広告の大部分は「無駄撃ち」なのだ。
江副は、前述したとおり大学新聞の広告の効力に疑いを持ち始めていた。江副が『企業への招待』を創刊した1962年から36年後の1998年、グーグルがインターネットを使った「検索連動型広告」を発明した。
江副が考えた「広告だけの本」が就活生だけを対象にするのと同様、グーグルの検索連動型広告は「仕事」という言葉を検索した利用者だけに求人広告を見せる。「家」を検索すれば住宅の広告、「車」を検索すれば新車、中古車の広告が表示される。「検索連動型」のネット広告は、その後レガシーメディア(時代遅れの遺跡のようなメディア)と呼ばれるようになった新聞、テレビのマス広告から広告主(クライアント)を奪った。
グーグルの若き創業者、セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジはマス広告のことを「スプレー&プレイ(殺虫剤をシューっとスプレーして「蚊が落ちますように」と祈る)」と皮肉った。自分たちのネット広告は確実に蚊を落とす。その商品やサービスに関心のある人に確実に届くからだ。広告料も、広告が見られたときにしか発生しない。見られたかどうかは「神のみぞ知る」で、法外な料金を取るマスメディアのマス広告を、グーグルの創業者たちは「広告主を騙している」と考えた。

大西 康之. 起業の天才!江副浩正 8兆円企業リクルートをつくった男 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.1117-1138). Kindle 版.


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