プールサイドの妖怪
25メートルプールにはそっと
コースロープが浮かんでいる
かたときもまっすぐになれず
揺れる水面と遊んでいる
笛が鳴った
ぼくはいまだ飛び込めずに
土踏まずをまるめて立っている
どうにか足の裏が
地面に吸い付けられないように
なまぬるい
水にひたされたプールサイドは
濡れながらあたたかい
毎日にそっくりだ
そういえば
ぼくのしゅわしゅわはどこへいった
さっき飲んだサイダーから逃げた
うすぼけたゆるい甘いのは
ぬっとした妖怪のためにある
怠慢の味がするだろう
ヒゲをサイダーで固めたおじさんが隣で言った
だっておじさんは甘い匂いがする
あごひげの三つ編みが整い過ぎているから
サイダーはよくできている
しゅわしゅわは逃げていく
のろまになったあとのぬるいのは
けだるさを持て余した妖怪のためにある
夏がふやかした
だれもいないプールで波打つ
三つ編みの影が東へ逃げている
また笛が鳴った
ぼくはいまだ飛び込めずに
土踏まずをまるめて立っている
スタートを持て余した
ぼくは妖怪かもしれない
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