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身の丈に合った丸鶏はぐるぐる回る。

12月25日夜。スーパーに立ち寄ると、クリスマスイヴに売れ残った丸鶏が前日よりも安い値段で並べられている。昨日まではたくさんの仲間とスポットライトを浴びていたのに。

ちょっと肉付きが悪かったのだろうか。何かわからないような差で明暗を分けた鶏たちが棚の上で仰向けになって寝そべっている。この陳列具合に心が痛んだ。今夜手にされなかったらどうなるのだろうか。不安にもなる。「行かず後家」のアラフォー女としては自らを見ているかのよう、だからだろうか。いてもたってもいられなくなった私は、リボンが結ばれた丸鶏の袋を一つ手にしてレジへと急いだ。

5年ほど前のことだ。

料理が得意なわけでもなく、丸鶏の調理などしたことがなかった。帰宅してネットでレシピ検索をしてキッチンに立つ25時。翌日も出社日であることを忘れて丸鶏に塩を塗り込んだ。ふだん魚を捌くことはあるが、深夜であることも関係しているのか、鶏肉のぬるぬるとしたボディをなで続けているうち涙目になり、そして、かすかな声で叫んでいた。

「おかあさぁぁぁん……助けてぇぇぇ……」

“おかあさん”は実家にいるので当然助けてはくれないが、ピンチのときに助けを求めたくなるのはやはり母親なのだな……などとどうでもいいことを考えながら気をそらす。下ごしらえ済みの丸鶏を皿に乗せ、いざオーブンへ! ところが、丸鶏が大きすぎてつっかえる。無理矢理押し込んでスタートボタンを押すが、丸鶏の脚がオーブンレンジの内側の壁を突っ張っていて回転しない。私はまたしても涙目で叫んだ。おかあさぁぁぁん……。

オーブンに一度突っ込んでしまえばこっちのもの、らしい。優れた現代の技術に感謝しながら中を見つめているうちになんとか焼き上がった丑三つ時。チーム“売れ残り”が勝利した瞬間であった。明日も出社なのをやはり忘れて興奮した。ほどよく焼けて出てきた丸鶏の脚を取り、ぶんぶんと握手(脚)したい気持ちになった。我らは同志だ。

ちなみに、そのときの丸鶏がこちら。人生で初めて焼いた丸鶏。

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丸鶏との絆を強めた私は、その翌年以降も“丸鶏ちゃん救出隊”を名乗り、12月25日の夜にスーパーへ出向き、売れ残った丸鶏を連れ帰り、26日においしく頂くのが恒例になった。一つだけ変わったのは、丸鶏がオーブンでぐるぐる回るようになったこと。オーブンの大きさに合わせて小さめの丸鶏を選ぶようにしたからだ。背伸びせず身の丈に合ったものを選ぶ、これは婚活でも大事なことかもしれない。

本投稿のタイトルから想像できる展開として、丸鶏の貴重な教えを受けた私が身の丈に合った相手を選び、結婚している結末が予測されるかもしれない。私だってそうしたかった、自身のためにも文章のためにも。しかし、不本意ながらそれはまた翌年へと持ち越しとなる(くぅ……)。そして、今年も“丸鶏ちゃん救出活動”を粛々と執り行い、無事に任務を完了させた。自分で書くのもなんだが、年々焼き上げるのが巧くなっている丸鶏を、誰にも邪魔されず頬張れる時間が何にも勝る至福のときである。

「残り物には福がある」とはきっとこのことだろう。(違う……)

今年も無事に迎えられてよかった、一足遅いメリークリスマス!

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ちなみに、こちらの写真が今年の“ぐるぐる回った”丸鶏。写真で大きさはわかりにくいかもしれないが、初回と比べるとかなり小さいのだ。

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