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【選書&書評】私の情熱本

編集者という職業柄か、たまに選書や書評を頼まれる。

最近でいえば、福岡の天神にある電子タバコのコンセプトストア「PULZE 福岡」で行われた「FUKUOKA BOOK STYLE- MY STYLE with PLAY GROUND」(2020年2月28日-3月8日)というイベントがそうだ。「情熱」をキーワードに5冊選書・簡単な書評を添えてください、とのことだった。

とはいえ「情熱」とひと言でいってもいろんなかたちの情熱がある。また、本として世に出ている以上、そこには少なからず何かしらの情熱が込められているに違いない。

どうしようかなーとぼんやり考えた末、自分なりに「情熱」を5つのかたちに分類し、それぞれの「情熱」を体現する本を1冊ずつ選ぶことにした。

5つのかたちとはすなわち、
1)無垢の情熱
2)知的情熱
3)情と熱
4)蒐集にかける情熱
5)情熱的な妄想

だ。もっとうまい言い回しがあったんじゃないかとも思うが、ほかに思い当たらなかったので仕方ない。

書評については「250字程度」という制約を守りつつ、楽しく書かせてもらった。選書しているうちに興が乗ってきて、頼まれてないのに〈この本も好きかも〉というおまけのコーナーまでつくってしまった。つまり僕自身、結構な情熱を込めて選書&書評をしたわけだ。

ただ、どれだけ夢中になってやったことでも、イベントが終わってしまえばもう人目にさらされることはない。しかも場所が福岡、電子タバコのPR店舗となれば、開催時に訪れた人もかなり限られるに違いない。

というわけで、イベント用に用意した選書&書評をnoteにて公開することにした。各書のamazonリンクを貼っていて、購入時に比べやけに高くなってしまった本が多いことに驚いたが、amazon以外で探せばもっと現実的な価格で売っているところもある。気になった本があれば、ぜひ手に入れ、その手で、目で、鼻で愛でてほしい。きっと損はさせません。

1)無垢の情熱

1968-77年にかけて50枚以上のレコードをリリースしたソウル界のスーパースター「ミンガリング・マイク」。しかし誰も彼の音楽を耳にしたことはなかった。なぜならすべてはマイクの頭の中でのみの出来事だったから──。レコードコレクターだった著者が、蚤の市でマイクのレコード(絵も曲名もライナーノーツまで、すべて手描きのボール紙製)を発見。それらを手がかりにマイク本人を見つけ出す。なぜマイクはレコードを自作したのか? 蚤の市で売られていたわけは? 35年の歳月を経て邂逅した、イノセントな情熱の軌跡。

〈この本も好きかも〉

2)知的情熱

“知の巨人”松岡正剛が編集長を務めていたオブジェマガジン『遊』。1971-82年まで刊行された同誌の、これは第Ⅱ期にあたるもの。文系と理系、人間と機械、科学と化学を縦横無尽に越境し、現代思想も神秘主義もアートも文学も建築も、あらゆるジャンルを横断的に扱うその知的欲求・情熱に圧倒される。ちなみにこの号は「呼吸+歌謡曲」特集。松岡の盟友・杉浦康平を中心とした、現代日本を代表するグラフィックデザイナーたちによるエディトリアルワークも見ものの一冊。「編集とデザイン」をめぐるひとつの到達点がここにある。

〈この本も好きかも〉

3)情と熱

「写真は三角関係なんだよ。嫉妬とかそういうことが全部写っているのがいい写真なんだ」(荒木経惟)。『センチメンタルな旅』の流れを汲む私写真と、日本文学のお家芸・私小説が融合した“私小説写真集”。先日死去した評論家の坪内祐三と、2018年に映画化された『素敵なダイナマイトスキャンダル』原作者で編集者の末井昭、著者・神蔵美子の三角関係が、日記と写真によってつぶさに描かれる。夫への「情愛」と新たな恋人への「熱愛」。交錯するふたつの思いが織り上げた、業深き人間たちに贈る愛の讃歌。

〈この本も好きかも〉

4)蒐集にかける情熱

映画・文学・音楽に対する深い知識と縦横無尽な好奇心で、1970年代におけるサブカルチャーの寵児だった植草甚一は、果たして熱心な蒐集家でもあった。対象は多岐におよび、4万冊を超える蔵書や古雑誌、切手に置物に古着にアクセサリーなど。それらが詰め込まれた自宅は、住居空間というよりむしろ収蔵庫の様相を呈していた。彼の没後、散逸を免れたそれらの一部は遺族や関係者によって世田谷文学館へ寄贈され、その収蔵品目録として本書が編纂された。直筆のノートやコラージュ、スクラップブック──掲載写真のそこここに息づく彼の熱情が感じられる一冊。

〈この本も好きかも〉

5)情熱的な妄想

1941年に発見された南海のハイアイアイ群島で見つかった新種の哺乳類「鼻行類」に関する学術論文。もともとはハラルト・シュテュンプケによる鼻行類の構造と生活についての報告書だったが、シュテュンプケが現地調査中に行方不明になってしまったため、遺稿の一部を引き継いだ動物学者のゲロルフ・シュタイナーによって出版された。なお、ハイアイアイ群島はその後行われた核実験により海面下に没し、同群島の固有種群であった鼻行類も絶滅してしまった。そうした点から言っても非常に貴重な生命の記録。本書が徹頭徹尾、情熱的な妄想の産物であることを別にすれば。

〈この本も好きかも〉


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