労働集約型のビジネスは、時間単価を上げなければ業績は上がらない(応用編)
前回、「労働集約型のビジネスは、時間単価を上げなければ業績は上がらない」の基本編を共有しました。今回はその応用編です。
1.期待値は概ね信用できる
期待値とは、繰り返しの場面で平均的に得られる結果の予測値です。何度も繰り返される確率の問題において、期待値での時間単価の判断は妥当といえます。個人的に、皆さんにぜひ期待値の考え方を取り入れてほしいです。なぜなら、期待値による判断は業績を上げる再現性が高く、かつ、社内であまり意識されていないだろうと思われるからです。
期待値の重要性は、論理的な帰結であるだけでなく、個人的な体験としても信用できると考えています。実際、私は業務上の判断で期待値を頻繁に用いています。この文章では、まず期待値による時間単価はどのように計算されるかを知ってもらい、その後、社内における実例を示します。
次の公式が成立します。
時間単価の公式④ 時間単価(期待値)=業績×確率÷時間
例えば、小規模事業者持続化補助金の案件において、採択時の成功報酬が15万円、稼働時間が5時間だとします。この案件の年間受任数は100件、採択率が50%だとします。これは、100回繰り返される50%の確率問題に該当します。この場合、上記の公式から、期待値による時間単価は「15万円×50%÷5時間=1万5,000円」です。
イメージしやすいように、図1を見てください。当該案件を一件担当する時、期待値による時間単価が算出される過程がわかります。報酬額は15万円ですが、採択率が50%なので、報酬額(期待値)は7万5,000円です。7万5,000円の報酬額(期待値)を稼ぐのに5時間を費やすので、時間単価は1万5,000円になります。
短期的に見れば、採択が連続して業績が大きく上がる場合も、不採択が続いて業績が発生しない場合もあるでしょう。しかし、この条件で100件繰り返す場合、採択数は50件に限りなく近づき、結果として時間単価は1万5,000円に近似します。
注意点としては、一定以上の繰り返しがされない場合は、期待値は実態と離れやすくなる点です。短期的には確率に見放されたように感じることもあるでしょう。しかし、業績は短期的ではなく長期的に捉えることが重要です。長期的、つまり一定以上の繰り返しがされる場合であれば、期待値は現実に近づき、重要な判断指標になります。
2.期待値による時間単価が高い行動を選ぶ
「時間単価の公式③ 業績=平均的な時間単価×稼働時間」から、平均的な時間単価を上げれば業績が上がることがわかりました。平均的な時間単価を上げるためには、個々の事例において期待値による時間単価が高い行動を選ぶ事が重要です。業績が継続的に高い人は、時間単価が高い仕事がたまたまやってくるのを待つ人ではなく、時間単価が高い行動を選び取っている人です。ここでは、いくつか事例を挙げておきます。
事例① 補助金で採択率と報酬額が異なる場合
半年間の社内評価期間中、再構築補助金で二種類の案件があるとします。一つはDさんが担当しており、採択率が70%と比較的に高い一方、報酬額が75万円と抑えられています。もう一つはEさんが担当し、採択率は40%と比較的低いですが、報酬額が300万円と高額です。両方の種類ともに費やす時間は30時間だとします(※1)。加えて、両方の種類とも10件の案件数があるため、ある程度に長期的な視点で業績を考えることができます。この場合、DさんとEさんのどちらが長期的に業績は高まりやすいでしょうか?
回答は、圧倒的にEさんです(参照「図2」)。Dさんの場合、「時間単価の公式④ 時間単価(期待値)=業績×確率÷時間」から、時間単価は「75万円×70%÷30時間=1万7,500円」となります。1万7,500円の時間単価は決して悪くなく、通常の目標時間単価1万円から比較すると、むしろ良いほうだといえます。Dさんの当該案件の業績は、確率的に10件中7件採択され、「75万円×7件=525万円」に近似する見込みです。その場合の半年間の月間業績平均は87万5,000円です。
しかし、Eさんはその遥か上をいきます。前述の公式から、Eさんの時間単価は「300万円×40%÷30時間=4万円」です。これは、社内の通常の目標時間単価1万円の4倍であり、Dさんの2倍以上にあたります。実際、Eさんの想定業績に至っては、10件中4件採択され、「300万円×4件=1,200万円」に近似する可能性が高いのです。その場合の半年間の月間業績平均は200万円であり、社内でもトップクラスになります。(※2)。
事例② 顧客に追加提案の見積を提示する場合
受任担当Fさんは、顧客にある案件の見積額を提示するところです。社内の類似事例における見積額は100万円ですが、当該顧客特有の事情を踏まえた追加提案をすれば、見積額が150万円に上げられるかもしれません。この案件自体の時間単価は比較的に良いので、見積額を増やすことは業績向上に繋がります。また、150万円の見積を提示する場合、100万円の見積と同時に提示することで、追加の見積提示による受任逃しの可能性はないとします。しかし、それをするためには、調査と提案資料の作成に2時間を費やし、かつ、新提案が受け入れられる可能性は40%しか見込まれません。この場合、Fさんは150万円の見積も提示すべきでしょうか?それとも提示するべきではないしょうか?
時間単価の観点から言えば、Fさんは150万円の見積も提示すべきです。「時間単価の公式④ 時間単価=業績(期待値)×確率÷時間」から、新提案で費やす2時間の時間単価は「新提案による業績増額50万円×40%÷2=10万円」です。期待値による時間単価としては、この2時間は1時間あたり10万円、2時間で20万円の価値を生むことになります。
事例③ 顧客とキャンセル料の交渉をする場合
管理担当Gさんは、顧客とある案件のキャンセル料を交渉している場面だとします。元々の報酬額は200万円であり、着手金で50万円を受領しています。すでに行った業務を金額で換算すると100万円です。また、本案件のキャンセルの原因は顧客にあり、キャンセル料交渉によるトラブルやその他悪影響は起こらないと仮定します。ただし、もし、上記換算の100万円から着手金50万円を差し引いたキャンセル料50万円の交渉を顧客とする場合、準備と交渉に3時間を費やし、上手くいく可能性が50%だとします。この場合、Gさんはキャンセルの交渉を顧客とすべきでしょうか?それともしないほうが良いでしょうか?
Gさんは、キャンセル料交渉をするべきだと思われます。「時間単価の公式④ 時間単価=業績×確率÷時間」から、キャンセル料交渉で用いる時間の時間単価は「キャンセル料50万円×50%÷3時間=8万円超」です。50%の確率で50万円を得られるなら、期待値としての金額は25万円であり、3時間を使うことは非常に割が良い勝負です。もちろん心理的には、「キャンセル料の交渉は気が重い」と感じるのはわかります。しかし、25万円の業績を他の仕事で稼ぐのはもっと大変です。時間単価が1万円だとしても、25万円の業績には25時間が必要です。25時間の余計な労働と比較すれば、3時間のキャンセル料交渉は楽な仕事ではないでしょうか。
3.学習は時間単価を上げるコスパの良い方法
業績を上げようとする場合、目の前の業務に取り掛かることが多いかもしれません。しかし、視点を変えてみましょう。ここで伝えたいのは、学習による時間単価の向上です。学習に時間を用いれば、効率よく時間単価を上げ、業績を向上させることができることもあります。
例えば、上記の事例①を思い出してみましょう。300万円の報酬額の再構築補助金案件を担当するEさんは、採択率が40%でした。しかし、もしEさんが事業計画の作成方法を10時間かけて本気で学習すれば、採択率が10%上がり50%になるとしたらどうでしょうか?たった10%が増えるだけでは、殆ど変化はないでしょうか?いや、事実は違います。細かな計算は省略しますが、当該期間の業績は1,200万円から300万円も増えて1,500万円の見込みになります(※3)。この300万円は10時間の学習によって生まれるため、この10時間における1時間あたりの時間単価は30万円と非常に大きくなります。同じ10時間であれば、時間単価1万円の業務を行うより、時間単価30万円の学習を行うほうが圧倒的に業績を高めます(参照:図3)。
しかも、学習によって身に着けた技術は今後も業績を生みます。さらなる10時間を費やすことなく、採択率10%増の恩恵を受け続けることができます。「再構築補助金は事業計画の作り方を勉強して、高額報酬案件を狙うべき」と以前から私が言っているのは、そういう理由からなのです。これは採択率によって業績が大きく変わる高額な再構築補助金の場合ですが、もちろん、皆さんが関わる他の事例でも応用できます。「学習の時間を捻出できない」と言うかもしれませんが、皆さんの多くは1か月で10時間程の残業はしていると思います。であれば、その時間を学習に当てるほうが、業績の向上には余程つながるように思います。
4.成果を出し続けるためには再現性が必要
この文書の最初に、「期待値による判断は業績を上げる再現性が高い」と書きました。最後に、再現性について述べます。再現性とは、同じ行動をすれば同じ結果が生じることです。仕事で継続的に成果を上げるためには、成果に結びつく行動が必要ですが、その行動と成果の関係は「たまたま」ではなく、「再現性」が求められます。
時間単価の高い業務にたまたまアサインされる等、状況が嚙み合って業績が一時的に高まることはあります。しかし、その行動に再現性がなければ、残念ながら長続きはしないでしょう。また、理由のないジョブホッパーが活躍できない理由の一つも、再現性が生まれないことです。再現性を構築するには一定の時間が必要です。
別の視点で物事を見れば、仕事とは、未知の領域において再現性のある行動で確実な成果を広げていく過程です。その意味では、仕事は科学と共通しています。科学とは、未知の世界の理を再現性のある方法で解明することです。例えば、宇宙について人類は知らないことが多いですが、再現性のある様々な技術を組み合わせることにより、スペースシャトルを宇宙に飛ばすことは可能になっています。それと同じように、「どのようにしたら仕事の業績が上がるのか」は不確定要素が多いですが、再現性のある効果的な行動を積み重ねれば、業績が上がる確実性は高まっていきます。
時間単価や期待値、学習といった事柄は再現性があります。どの分野の仕事をするかに関わらず、誰でも実行できて、高い確率で効果が見込めます。狙って勝てる、もっと言うと、始まる前から勝つ見込みがわかっている世界です。ぜひ、これからの仕事において、成果に繋がる再現性のある行動をしていってください。
(※1)実際上、300万円の案件は補助額が高いと想定され、金融機関の確認書等の別途書類の用意が必要と思われますが、殆ど業務量は変わらないので便宜上除外しています。
(※2)もちろん、採択率が高ければ新たな案件を獲得しやすくなる等のメリットは存在します。ここでは、あくまで時間単価の観点からのみ述べています。しかし、DさんとEさんは再構築補助金という同じ業務を行い、同じ時間を費やしています。それでも期待値による時間単価の違いで結果がこれだけ異なるのは、無視できない統計的事実です。
(※3)Eさんの当該期間の業績見込みは、10件中5件の採択により、「300万円×5件=1,500万円」になります。1件当たりの時間単価は、「300万円×10件×50%÷(30時間×10件+10時間)≒5万8,000円」となります。
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