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次なる一手を考える。

現在までの流れ

クラウドキッチンに興味をもった我々は、まずUBERETSドライバーで市場調査を実施しました。数ヶ月ドライバーを実施し、収集データを分析していくと、我々が求めていた内容とは乖離しており、この状況での参戦はかなり厳しいものと判断しました。

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集計データの一部抜粋

簡単な理由としては、注文単価が低いこと。我々が配送した平均単価は880円でした。その背景として客層を確認すると、7割以上が単身者であろう単発のオーダーでした。おそらく、デリバリーアプリの利用者が全く少ないことが原因かと考えています。これも成長市場なので現時点でという話ではありますが、客単価が高くなるファミリー層は、まだまだ電話注文のピザや出前寿司が主流であり、アプリはごく一部の利用者層に偏っています。ちなみに、利用者のマンションオートロック比率もかなり高く、タワマンなども多く、富裕層がかなり多い印象でした。我々の参入は、時期早々という結論です。もちろん、既に店舗や拠点を構えている方にとっては、とても有益なサービスですが、ゼロスタートの我々からするとかなりリスクの高い事業という結論に至り、一旦ストップする形になりました。

とはいえ、我々が目標にする体験ビジネスへの道は続きます。クラウドキッチンは一旦ストップして、どんなことで打開できるかを想定しました。そもそもクラウドキッチンを目指した背景としては、業界ネットワーク構築がありました。普通に考えると、レストランをやらなくてもイベント企画として考えれば、おそらく実行可能です。アイディアは面白いですが、正直「誰でもできる」というのが現実です。単なる調整役としてでは、我々におけるバリューが少なすぎるというのが結論です。バリューを得ることで揺るぎないポディションが作れると考えています。

熟成肉という新しいビジネスモデルの構築

赤身の美味しい和牛の輸出プロジェクトに携わる中で、アメリカのレストランチームのスタッフとの繋がりができました。これは、めちゃくちゃ大きな財産となりました。そして、その時に出会ったのが。ドライエイジングビーフという牛肉の熟成加工技術というものです。簡単にいうと、赤身が多く比較的かたくて食べづらい牛肉を、熟成することにより、美味しく食べることができる。という技法です。日本では昨今の熟成肉ブームにより、認知度はかなり上がりました。しかし、ルールなど特に決まったものがあるわけでもなく、腐敗と熟成を取り違えると大変危険なものでもあります。

とはいえ、まだまだ未開の地でもあり、日本では、基本的には精肉店さんや食肉卸業を行っている業者さんが、卸売と別に熟成加工を行うのが一般であって、熟成肉メインにしている企業は、現在のところありません。

これはおもしろいかも。。

ゼロから生産者やレストランシェフになるよりも、遥かに戦略的に挑める領域と見込めました。ひょんなことから熟成肉の魅力にとりつかれた我々は、熟成肉加工業の事業を起こし、販売網を構築するとともに、体験ビジネスの食材提供者側としての側面も見込んで、まずは自分たちで熟成肉を作ってみることにしました。取り急ぎ、日本に出回るさまざまな書籍を一気に読み漁りました。その内容を下記に記しておきます。

日本にはまだ明確な定義がない熟成肉

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日米の熟成肉比較表
(熟成肉バイブル 著者山本謙治氏より抜粋)

表から分かる通り、各社手法はさまざまで、熟成肉の定義もありません。前段にもありましたが、大切なことは腐敗と熟成は、全く違うということです。熟成方法にもよりますが、ある環境下で肉を保存すると肉の成分に変化が起こり、肉質が柔らかくなり、味や香りも良くなると言われています。もちろん味や香りには個人差があるので、必ずしも熟成肉の方が美味しいという表現には語弊があります。熟成肉の文化は、赤身肉がメインの欧米や北米で発展しました。赤身肉をより美味しく食べるために発達した技術です。肉質を柔らかくするために日本では霜降り肉を肥育する技術が発達したことが対照的です。

熟成肉のメリット

熟成過程を経て、肉から水分(自由水)が減る。自由水とは、食品中の成分と結合せずに自由に移動することができる水のことです。これは蒸発したり凍結したりします。冷凍肉を解凍すると、ドリップ(血)が、流れ出すことがありますが、ドリップとして流れ出てくるのは自由水です。ドリップが流れ出る原理の詳細説明は割愛しますが、自由水はうま味成分等を運んでいるので、自由水を減らすことで、ドリップが出にくくなるのです。冷凍肉のメリットは長期保存ですが、デメリットは解凍調理のときにドリップにより失われる味(うま味)です。何が言いたいかというと、ドリップが出にくい熟成肉は、冷凍保存に適しているのです。冷凍保存に適しているとうことは、輸出に向いているのです。

熟成ラボからスタート

アメリカで出会った有名レストランのシェフに連絡して手法をヒアリングし、書籍や、Youtubeでも欧米の肉マニアが配信している熟成動画から情報を集め、実験的な熟成庫を準備しました。本来は冷蔵庫の開け閉めは行わない方がいいですが、途中経過の写真撮影や蓄冷材交換のために冷蔵庫の開け閉めを行いました。

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熟成肉を作るにあたり重要な項目は以下の通りです。

仮説POINT
①温度、②湿度、③風量、④菌、⑤熟成期間、⑥トリミング

①温度管理
目標温度帯を0~2℃で設定しました。4℃以上の環境下では人体に有害な菌が繁殖しやすくなる恐れがあるからです。温度調節方法は冷蔵庫と0℃蓄冷材です。リサイクルショップで冷蔵庫を購入しました。冷気は下に流れる性質があるので、蓄冷材の位置や数量を調節しながら出来る限りターゲット温度帯を目指しました。

②湿度管理
目標湿度を60%程度で設定しました。本やネットでは80~85%がいいということも書かれていますが、今回は除湿剤を用いて60%を目指しました。湿度は菌の繁殖に影響を及ぼします。

③風量
小型扇風機で肉に直接風を当てました。風量は乾燥スピードを左右します。風量に関しては明確な設定値を設けませんでした。風量計測はできませんでしたが、機体自体に調節機能があり、強風から徐々に弱くしてみました。

④菌
厳密なことをお話しすると、菌により熟成は変わります。菌の働きは様々で解明されていないことも多くまだまだ謎に包まれています。大学機関と共同で菌を塗布した熟成シートも開発されたりもしています。我々は菌を分析する設備を持っていないので、特別なことは何もせず熟成を行いました。今後の研究を進める中で、我々がベストだと思う菌環境を構築していきます。

⑤熟成期間
今回は21日熟成を試みました。熟成期間にも定義はなく、数日~100日程度まで色々な考え方があります。難しいのは、熟成期間が長ければ長いほど良いというわけではないことです。肉の種類や部位、保存環境にも左右されます。最終的には好みや経済面からの判断になると思います。

⑥トリミング
熟成肉を作るときには、肉の外側(空気に触れていた部分はカビが生えて食べれない)のトリミングを行う必要があります。歩留まりをよくするためにトリミング技術が求められます。

実際のデータ

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温度・湿度センサーは中央底(吊るしている肉の真下)に設置しました。また、センサーは30分ごとにデータを記録しています。電池による持続時間の関係で30分間隔ですが、小まめにデータを取るほうが好ましいです。

・温度

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蓄冷材の影響でマイナスの温度帯に突入することもありましが、上限温度は3℃以下に留めることが出来ました。先ほども少し触れましたが、冷気は下に流れますので、センサーを設置する位置によっては微妙に記録温度が異なります。

・湿度

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冷蔵庫の開け閉めが大きく影響したのか、かなりバラつきが見られました。自家製熟成庫での大きな課題といえそうです。予算をかければ温湿度調整が可能な温度倉庫での対応が可能です。

・風
長時間もの低温環境下により小型扇風機が途中で壊れてしまいました。残念ながら、15日目以降からは無風となりました。

・菌
次回以降に熟成肉を作る際に、意図的に菌を利用し違いを確認する必要があります。

・熟成期間
ちょうど21日間が経過した日に自家製熟成庫から取り出しました。

・トリミング
実際にやってみるとトリミング作業は難しく熟練技術が必要であることを身をもって体験しました。歩留まりだけでなく、熟成の香りを楽しむためにも、トリミングしすぎてはいけないことも勉強できました。

21日熟成肉の香りと味

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熟成肉

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そのまま焼いた肉

21日熟成肉と熟成していない牛肉を準備し、食べ比べてみました。
色味は熟成させると濃くなります。

・焼いてみた結果
最初は、オリーブオイルで熟成肉を焼きました。ほのかにナッツの香りがただよい、肉の味を感じることが出来ました。熟成肉の油から熟成ナッツ臭が漂うことに気づいたので、オリーブオイルの代わりに熟成肉の油で、焼いてみると更に熟成ナッツ臭をまといました。一方で、熟成していない肉の方は、水分量が多く、いわゆるジューシーという名の相応しい味です。もちろん熟成ナッツ臭もしません。熟成肉では自由水が抜けたことにより、うま味が凝縮された印象でした。

・反省点
一つ反省点としては、周りの乾燥した部分を削り過ぎたという点です。おそらくですが、ギリギリのラインで削ることで、熟成の香りを程よく残せることができるはずです。また、熟成肉を楽しむために重要なことは焼き手です。プロのシェフに熟成肉を焼いてもらうことに尽きます。今は我々自身で焼いていますが、商品化の段階に入るタイミングからはプロのシェフに焼いてもらい味を評価してもらいます。

そうだ渡米しよう

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冒頭で述べたように熟成肉には絶対的ルールというものは存在しません。そして現時点で、我々の特異点として、アメリカ側のシェフネットワークを持っていることです。それをフル活用させてもらい、米国式熟成肉作りを模倣することにしました。模倣する過程で微調整を行い、日本にルーツを持つ独自の熟成加工技術を確立していければと考えています。今回の実験的熟成庫での試みは、あくまでも最初の一歩です。今までの人脈をフルに使い、アメリカ式の熟成方法を視察してきます。知り合いのシェフに熟成庫視察ツアーをアテンドしてもらいつつ、詳細条件等をヒアリングし今後に生かします。

渡米記事はこちら↓


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