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西洋古代史お助けブックガイド②: 入門書

 前回のブックガイド作成時、絶版だったり古書価格が高いなどの理由で選ばなかったもの、「一番最初に手に取るならコレ」とは言い難いけれど、多くの人に読まれてほしい本をピックアップしました。
 前回同様、オススメの本には☆印をつけています。独習に向かなかったり、古かったり、あるいはやや専門的なものには△をつけています。(著者名あいうえお順)


アマダジ=グッゾ, M.-G.『カルタゴの歴史』文庫クセジュ 2009年
 フェニキア人による植民から、ローマによる破壊に至るカルタゴの歴史に加え、彼らの国制・社会・軍制・宗教など、カルタゴに関わる情報をコンパクトにまとめた本です。記述の配分も良いもので、発掘史についても触れています。

井上智勇『地中海世界史』弘文堂書房 1947年
 どう考えても古い本です。理論に重きを置きすぎていますし、史料も参考文献も挙げられていません。ただ、戦後まもなくの時代において「西洋史の発展の構造」をなんとか理解しよう、読者に伝えようとした最初期の試みと言える著作です。

上田耕造ほか(編)『西洋の歴史を読み解く 人物とテーマでたどる西洋史』晃洋書房 2013年
 各時代における有名な人物を取り上げつつ、歴史の有機的な流れに重きを置く形で編まれた西洋史の通史。古代史部分では、アレクサンドロスがギリシアの文化的な伝統を強く意識していたことを、他方で、カエサルがローマの軍制や政治家の行動を受け継いでいたことを強調して説明しています。
 このほか、スフィンクスのイメージの伝播や性別の変化を論じていたり、剣闘士から見たローマ帝国のシステムや慣習について触れるといった、テーマ史的な記述もあります。
 読んでいて大変に面白い本ですが、「ある程度西洋の歴史を知っている人」向け感はあります。

太田秀通『スパルタとアテネ』岩波新書 1970年
 「ポリス社会とはどういう社会なのか」という問題意識のもと、スパルタとアテナイの二ポリスを中心に、どういう歴史的な特徴があるのかを丹念に論じた通史。
 コンパクトながら骨太な叙述をしており、加えて、いささか難解な本です。

オズボン, R.『ギリシアの古代』刀水書房 2011年
 古代ギリシア史の本を読みたいと思っている西洋史専攻(古代〜中世くらい?)の学生さんにぜひ手に取ってほしい一冊です。
 スポーツや恋愛を例に挙げて、現代の私たちにとって古代ギリシアがいかに馴染み深く、それでいて異質なのか、「古代と私たちの関係性」から筆を起こしているのが特徴的です。
 扱う時代範囲は紀元前8世紀から紀元前4世紀くらいまでですが、その時代にどういう史料や遺物があって、それらにはどんな問題があって、どういった風に「ギリシア史」として再現できるのか、見取り図を示してくれる本です。
 巻末参考文献は、古代ギリシア史の入門書の中では現在最も有益です。

小田中直樹・帆刈浩之(編)『世界史/いま、ここから』山川出版社 2017年
 グローバルヒストリーの進展や、情報や自然環境についての我々の認識の変化を踏まえた上で編まれた通史。古代地中海世界に関わる箇所は、人やモノの移動に注目した叙述をしています。

カッソン, L.『図書館の誕生』刀水書房 2007年
 古代オリエントから古代末期までの図書および図書館史。王や神官のための図書館の成立、地中海世界における公共図書館の建設、ローマにおける図書の収集・閲覧のための整備・冊子本の浸透といった図書に関わる歴史を解説したものです。このほか、読書という行為そのものや、識字能力についても扱っています。専門的でありながら内容も平易で、関連史料も適宜訳出されており、読んでいて楽しい本です。

カートリッジ, P.『古代ギリシア 11の都市が語る歴史』白水社 2011年
 古代ギリシア史の各年代を説明する上で有益なポリス、11箇所をピックアップして構成されたギリシア文明史。西地中海への植民の過程を説明している点が特徴的です。ギリシア史の一場面に、地中海世界全体を見渡した上でどのような意味があるのか掘り起こしています。

キトー, H.D.F.『ギリシャ人』勁草書房 1966年
 内容・訳文ともに古く、一冊目にこの本を読むことは今となってはお勧めできません。本の内容ですが、ギリシア人がどういう人たちだったのかを一般向けに説明しようとしたもので、歴史・生活・思想のほか、ポリスについても一章割いて論じているのが特徴的です。

衣笠茂ほか『概説西洋史』東京創元社 1969年
 いい本ですが、やはり内容・理解ともに古いです。興味深い点に、アテナイ貢租表(The Athenian Tribute Lists)や、人口統計(多分、Gomme, A.W., The Population of Athens in the Fifth and Fourth Centuries B.C., Oxford, 1933.)への言及があります。20世紀半ばの欧米の古代史研究、特にデロス同盟の研究の進展を摂取・紹介した試みと言えそうです。

木村正俊『ケルトを知るための65章』明石書店 2018年
 ローマ以前のヨーロッパに広く住み、のちに続く文明の基礎を整備したケルト人の歴史、社会、宗教、美術、そして近代における再発見・復興について65の話題から光を当てる本です。
 通史的ではありませんが、ケルトの歴史の入門としては優れた一冊です。

栗田伸子・佐藤育子『通商国家カルタゴ』講談社 2009年(講談社学術文庫版 2016年)
 ギリシア史やローマ史といった違う角度からの地中海世界史、フェニキアとカルタゴの通史です。
 扱う時代は紀元前1200年ごろからローマによるカルタゴ再建の年である紀元前44年まで。カルタゴの宗教や、第二次ポエニ戦争に独立の章を設けています。
 フェニキアとカルタゴに関心のある方にまず手にとってほしい本です。

阪本浩『図解雑学ローマ帝国』ナツメ社 2006年
 一般向け。帝国とタイトルがついていますが、王政から始まり、ローマの通史、国制、戦争、有名な政治家や皇帝について取り扱っています。文章半分・図表半分の構成で、非常にわかりやすい本です。

阪本浩『知識ゼロからのローマ帝国入門』幻冬舎 2009年
 中学〜高校生に古代ローマの入門書を勧めるならずばりこの本。
 こちらも、帝国とタイトルがついていますが、ローマの建国神話から筆をおこし、ローマの政治軍事文化についても述べています。
 図表、イラストがとてもシンプルかつ分かりやすいです。

シャムー, F.『ギリシア文明』論創社 2010年
 訳語がところどころ怪しく、根拠となる参考文献もちょっとしか挙げられていないものの、読み物として面白く読めます。本の内容ですが、ミュケナイから古典期までのギリシア史概観に始まり、戦争・宗教・ポリス・文学・芸術といったトピックを網羅しています。値段はお高めです。

周藤芳幸『図説 ギリシア』河出書房新社 1997年
 図版豊富で、内容も良質な入門書です。考古学の視点を活かして、古典期以前を中心に記述しています。紀元前4世紀以降のギリシア史について知りたい人には若干物足りないかも?

周藤芳幸『古代ギリシア 地中海への展開』京都大学学術出版会 2006年
 内容は高度で専門的ですが、考古学の成果を充分に取り入れたギリシア通史です。ギリシア史にはそもそもどういう問題があるのかや、ポリスの領域、宗教、ジェンダーの諸問題など、幅・質とも申し分なく、叙述も明快です。巻末のブックガイドは学部~大学院生向け。
 例によって絶版で、古書価格は定価の2倍ほどになっています(2020年4月現在)。

筑摩書房編集部(編)『地中海世界(世界の歴史4)』筑摩書房 1961年
 内容・参考文献ともに古いですが、ヘシオドスを手掛かりに、貴族と農民の違いについて論じた章や、死海文書について紹介する章があり、読み応えがあります。

手嶋兼輔『海の文明ギリシア』講談社選書メチエ 2000年
 エーゲ海沿岸に住む諸民族のダイナミズムに着目する形で、ギリシア文明について論じたもの。日本国内の「地中海世界」の議論とは別の視覚から、広い範囲で古代ギリシアを捉えようとした随筆的な一書です。

ドーバー, K.『わたしたちのギリシア人』青土社 1992年
 歴史・神話・美術・詩・哲学など、古代ギリシア人に関わる事柄を自由闊達に述べたものです。

中井義明ほか『教養のための西洋史入門』ミネルヴァ書房 2007年
 これから西洋史を学びたいという人に対して、基礎的な通史を提供するもの。西洋史通史ということで、ギリシア・ローマ以外にも、中世ヨーロッパから9.11まで広く扱っています。そのため、古代史部分の分量は短いです。けれども短いながら、エトノス(複数の都市や農村が、領域的なまとまりを保ちつつ、国を形成している形態)やスパルタの歴史について筆を割いています。

ナック, E. & ヴェークナー, W.『古代ギリシア その興亡と生活・文化』佑学社 1986年
 ペルシア戦争を自由と正義の戦いと解釈していたり、アレクサンドロスの遠征を「東西文化の融合」と評価するなど、現代の古代史研究の水準からすると、極めて無邪気な理解に基づく本と言わざるをえません。加えて訳語にもかなり難があります。
 ただ、ギリシア文化に関わる記述がそこそこ親切なので、ヒントをもらえることがあるかもしれません。

西村太良(監修)『ギリシア 読んで旅する世界の歴史と文化』新潮社 1996年
 古代の歴史・神話・建築・哲学だけでなく、ビザンツ期や近世のギリシアの歴史・文学、さらに音楽・ダンス・映画といった今日の文化、さらに現代の社会や経済など、情報満載な一冊です。「古代の歴史だけじゃなくて、ギリシア全体について知りたい」欲張りな方向けです。
 「オスマン・トルコ」はちょっと引っかかりますが、内容も高度で、充実しています。
 あと、観光ガイド(これもすごく詳しいです……!)もついていますが、25年前の本なので、必ずしも最新ではないことをご留意の上お読みいただければと。

バウラ, C.M.『古代ギリシア』タイムライフインターナショナル 1966年
 こちらの本も解釈が古く、無邪気さが漂います。訳語も古いです。ですが、写真・挿絵が多く、風土・貨幣・体育・教育についてもページを割いています。

長谷川岳男『面白いほどスッキリわかる! 「ローマ史」集中講義』青春新書 2011年
 「私たちはなぜローマ史を学ぶのだろう」「ローマ史にはどんな意味があるのだろう」と悩んでいる人に手にとってほしい一冊です。
 私たちの世界と比べると“異質な”世界であるローマを学ぶことを通して、私たちを取り巻く世界をより深く理解する筋道を与えてくれるような内容の通史です。
 分量配分ですが、共和政期(紀元前509年〜紀元前27年)が全体の3分の2ほどです。

服部良久ほか(編)『大学で学ぶ西洋史 [古代・中世]』ミネルヴァ書房 2006年
 大学生向けの、定番といえば定番の本。最新の研究成果を一冊の本に凝縮し、学生・一般向けに伝えようといった感じの本です。例えば、ヘレニズム期の連邦や、古代末期といった、ここ数年の間に研究の進展があった時代・分野に頁を割き、ローマ法の歴史についても独立した章を設けているのが特徴的です。
 単語レベルの話ですが、ビザンツ期の辞書『スーダ』や、農業領域である「コーラ」など、これらがどういうものなのかは最低限の記述しかなく、細かな説明は省いています。ですので、自力でこの本の先にあるものを調べてみるぞ、頑張って勉強しよう、という気概のある人に勧めたいです。

林俊雄『スキタイと匈奴 遊牧の文明』講談社 2007年(講談社学術文庫版 2017年)
 紀元前のユーラシア・ステップの東西に出現した、匈奴とスキュタイ人について、文字資料と考古遺物の双方を駆使して光を当てたもの。
 スキュタイ人ですが、ギリシア史の文脈では「古代世界周辺の異民族」「黒海北岸から連れてこられた奴隷」という印象が強いかもしれません。本書ではそうではなく、彼らの残した美術や古墳を見ることを通して、より鮮やかな遊牧民としての姿を明らかにしています。

原聖『ケルトの水脈』講談社 2007年(講談社学術文庫版 2016年)
 まず、ケルトの宗教についての民族学的な記述から始まります。続く諸章では古代ケルト人の文化、ローマに対する抵抗、初期中世におけるブルターニュ・ブリテン島・アイルランド島への移住と書記文化、その後これらの地域で水脈のように残った「ケルト的」な文化・言葉について近世〜現代まで追います。実に壮大なヨーロッパ通史です。
 入門書としては内容が複雑なので、読むのが大変かもしれません。

ピアソン, A.『古代ギリシア入門』あすなろ書房 2005年
 高校生で「古代ギリシアに興味があります」という人に勧めたいです。フルカラーの図版がとても良いです。※大型本。

秀村欣二(編)『ヨーロッパの成立(東大教養西洋史1 改訂新版)』東京創元社 1970年
 ポリスの成立・発展に重きをおいていますが、決して一番最初に読むべき本ではないです。内容も、挙げられている参考文献も古いですが、当時の学生たちがどのように古代史の研究文献を辿って勉強したのかを追体験できます。

秀村欣二ほか(編)『美の世界の女たち(世界の女性史3)』評論社 1976年
 女性たちを切り口にした古代史通史ではあるのですが、エピソード羅列的で、実際に古代社会に生きた女性たちに迫りきれていません。重大な欠陥としては、参考文献が挙げられていません。
 ツッコミどころも極めて多いです。例としては、ミュルトという女性がソクラテスの妻ではないとする見方について、①アリストテレスの断片『高貴さについて』を吟味しきれていないですし、②プラトンやクセノフォンの“沈黙を根拠とした推論(argumentum ex silentio)“から彼女の存在を否定するといった欠点があります ¹⁾。
 ジェンダー研究が進展した今となっては、読むに堪えない記述も多々見受けられるので、読むのであれば、批判的に読んで欲しい一冊です。

桶脇博敏(監修)『てのひら博物館 古代ローマ』東京美術 2015年
 高校生くらいで古代ローマの文化や社会に興味がある、という人に勧めたい一冊です。ポケットサイズの博物館の図録といった感じの本で、読んでいて楽しいです。古代の医療器具など、えっらいマニアックな図版・解説も載っています。

ブレイニー, G.『小さな大世界史』ミネルヴァ書房 2017年
 いかにして人々がアフリカから拡散して、どのような経験をして今に至ったかをコンパクトに、それでいて読みやすくまとめた世界史通史です。
 古代史部分ですが、アテナイとローマを主に取り上げています。……と、申しあげると、平凡な世界史叙述から抜け出しきれていないような印象を受けますが、決してそうではありません。著者は、古代史における海や、体育や、食べ物の役割を掬い上げています。人類の歴史をハイスピードで振り返ると、こういったものが重要だったのかと改めて納得できることと思います。
 若干訳語が怪しいのはご愛敬。

マーコウ, G.E.『フェニキア人』創元社 2007年
 まず、青銅器時代から紀元前306年までのフェニキア人の歴史を概観し、続く諸章で彼らの都市や住居、経済と貨幣、言葉と文字史料、宗教、美術についても触れています。いわば、「フェニキア人全体」を一冊で扱った本です。
 入門となると敷居が高いかもしれません。

松本宣郎・牟田口義郎『地中海 (地域からの世界史11)』朝日新聞社 1992年
 日本国内の「地中海世界」に関わる研究の蓄積や、フェルナン・ブロデルの『地中海』を受けての地域的な通史の試み。この地域の歴史を手軽に確認するなら本書を推したいところです。

ミシューリン, А.В.『世界史教程(古代)』青木文庫 1954年
 人類の歴史が原始共産制からはじまり、奴隷制、農奴制、資本主義を経てきたこと、そして闘争の結果として社会主義へと至らねばいけないことを説く、実に「赤い」本。
 “社会主義的な説明に基づいた歴史”を学びたい人なら読んでみてもいいかもですが、少なくとも古代ギリシア史に興味のある人にオススメできる代物ではないです。固有名詞の訳語も破茶滅茶ですし。
 特徴的なのは、神話について長めにページをとっていることでしょうか。また、奴隷がおかれた環境や、奴隷反乱について、まるで見てきたかのように詳しく書いてあるので、これらの記述を批判的に読むというのもいいかもしれません。

村田数之亮『英雄伝説を掘る(沈黙の世界史3)』新潮社 1969年
 通史とは言い難いし、ギリシア考古学の紹介にしても些か情報が古いです。19世紀末までの、ドイツ人考古学者たちによるオリュンピアや小アジアの発掘の歴史を確認するならこれをぜひ。

村田数之亮・衣笠茂『ギリシア(カラー版 世界の歴史4)』河出書房 1968年(河出文庫 1989年)
 ペルシアについての叙述が古く、また、ポリスや地域を単位にしてギリシア人を語りすぎています。加えて、人物分析やヘロドトスの叙述にやたらと深入りしていますが、これはこれで読み物としての面白さがあると言えなくもありません。著者の現地探訪を踏まえての本ですので、ギリシアの風土の描写は1960年代の本にしては一歩抜きん出ています。

山本茂ほか(編)『西洋の歴史 [古代・中世編]』ミネルヴァ書房 1988年
 かつての定番。これと言った欠点は無いのですが……パンチ力不足と申しますか。例えば、ギリシアの貴族政について「貴族が微弱」だったという指摘がありますが、史料の制約もあるせいで、正直物足りません(なお、考古資料は全く考慮していません) ²⁾。また古代の女性や、経済についても触れていません。
 今読むと精彩に欠けるところが多いですし、実際の講義などを通じての補足説明がないと味気ないです。とはいえ、政治の歴史を中心にバランス良くまとまっていますので、大まかな歴史の流れを確認する分にはこの本を読むと良いでしょう。

弓削逹(編)『地中海世界(西洋史2)』有斐閣新書 1979年
 入門書と見せかけて、大変に高度な内容の本です。ギリシア・ローマ史の通史に加え、スパルタの国制・古代の女性・喜劇・ローマ期の農業や軍隊といったトピックも取り扱っています。この本に目を通しておけば、より高次の書籍・論文へと手を伸ばしやすくなると思います。

ルージェ, J.『古代の船と航海』法政大学出版局 1982年
 古代地中海世界の船がどういうものか——船体は? 帆は? そもそもどうやって動かしていたか?——をまず説明し、続く諸章で各地域・各時代における船の役割について知ることができます。このほか、海賊や軍隊における船の利用、船が寄港する港や乗組員、船に関わる法や航海術についての記述もありますから、海や船の歴史に興味のお持ちの方にも手にとってほしいと思います。

歴史学研究会(編)『古代地中海世界の統一と変容(地中海世界史1)』青木書店 2000年
 「通史」「入門書」というより「論文集」的な性格の一冊。ギリシア人やローマ人が、異文化・異民族と接触した時に、どんな出来事があったのか、何が変わって、あるいはどう統一されたかを、アレクサンドロスの後継王朝、ポントス王国、ローマン・アフリカ、ガリアといった地域の事例をもとに論じています。時代的にはおおむね紀元前8世紀くらいから紀元後8世紀までを扱っています。西洋史を学ぶ学部生向け。

レベック, P.『ギリシア文明』創元社 1993年
 ミノア文明から前4世紀までのギリシア史を、豊富なフルカラーの図版とともに解説した本です。ギリシア人の地中海各地への植民について、やや長めに触れている点が特徴的です。地名の訳語が怪しいのがなんともはや。

ロバーツ, J.M.『古代ギリシアとアジアの文明(図説 世界の歴史2)』創元社 2003年
 著者は古代史の専門家ではありませんが、読みやすさ、図版の鮮明さは随一です。参考文献が無いのが玉に瑕。

綿引弘『世界の歴史がわかる本 [古代四大文明〜中世ヨーロッパ]篇』知的生きかた文庫 1993年
 ブックオフの100円コーナーでしばしば見かける本です。近代ヨーロッパの歴史理解をそのまま引きずり続けたような記述が随所に見られ、内容・理解・訳語選択ともに古さのある本です。


ー・ー・ー・ー・ー

 来週4月13日、『論点・西洋史学』という本がミネルヴァ書房から発売されます。Twitterに流れてきた情報によると、本の内容としては西洋史研究における最近の重要な議論や研究の進歩があった事柄について、2ページ程度で参考となる本を紹介しつつ論じる、といったもののようです。
 今月末の給料が出たら購入を検討するかもです。

画像出典: Wikimedia Commons "Athens, Greece"
https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:North-West_view_of_the_Parthenon#/media/File:Acropolis_in_February_2005_41.jpg


(1) ミュルトについては髙畠純夫「女の置かれた立場」『アンティフォンとその時代』東海大学出版会 2011年 119〜125頁。
 彼女を実在の人物とするか、それとも単なるペリパトス派の捏造の結果書かれた架空の人物と見るかという議論は、これまで軽視され続けてきたように思います。

(2) 88年刊行の図書に対して、30年後の未来から現地の考古学の成果を盛り込んでいないと申し上げるのはフェアではないかもしれません。いずれにせよ、当該書籍が刊行されてから30年経ち、ポリス研究は前進しました。考古学的なモノグラフも多数刊行されました。2020年現在、現地の調査を踏まえた考古学的な成果を参照せずに古典期以前のことを論じるのはアンフェアかつ、肉薄の姿勢が感じられないものです。
 方法論についてさらに述べましょう。紀元前5世紀以前のアテナイや、貴族政・寡頭政を採用していたポリスの史料というのは殆ど残されておらず、ごくごくわずかな碑文資料や、該当する時代から100年以上経過してから書かれた歴史書(の断片)、後代の伝承・伝記資料・年代記といったものから再構成を迫られます。加えて、考古学の成果であるところの、陶器片、神像、遺構などとも整合性を持たせたり、逆に年代決定を批判する形で初期のポリスの歴史を考えなければなりません。
 そういった史料は極めて淡々とした、なんというか中立的なものに見えるかもしれません。そこで必要なのが「史料批判」です。なぜ・いつその史料が書かれたのか、残ったのか、どういう人が何の目的で書いたのか……常に疑問を付されなければならないし、史料のレトリックに注意を払う必要もあります。そうした検討作業を経て、最も可能性の高い再現像を研究者が提示することになります。史料的制約がある以上、地中海世界に広く存在した他ポリスとの比較であったり、政治・社会の変動が発生した時代以前以後についても目配せする、他領域の学問の成果を援用するなど、読者を説得させるための傍証を織り込むことも検討しなければでしょう。
 「貴族が弱い」と説明するのであれば、最低限、そういった説得の努力が必要ではないでしょうか。

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