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電子書籍で読める西洋古典

 以前Twitterで、「#こういうときこそ本を読もう」というタグをつけて、電子書籍で購入可能なギリシア・ローマの古典文献をスレッドでまとめる形でつぶやきました(https://twitter.com/yskmas_k_66/status/1251843120049696768)。
 ですがこの投稿、ちょっと心残りがありまして。まず、Twitterの文字制限の都合もあり、訳者が誰なのか書誌情報を書けませんでした。また、フィロストラトスがリスト内にいないといった抜けがありますし、つぶやき方が悪かったせいかスレッド全体がうまく表示されないといった不具合もあります。あとやはり聖書に関わる本が無いのは寂しいです。というわけで、こちらのnoteに、聖書関連の本、およびオリエント文学・中世ヨーロッパ文学も加え、まとめ直しを行いました。
※4月26日、呉訳『イーリアス』、『ヘイムスクリングラ』、『ギスリのサガ』、『中央アジア・蒙古旅行記』を追加。一部の脱字・書誌情報の不統一を修正。
※4月27日、『ギリシア詩文抄』、『東方見聞録』を追加。
※5月10日、【補足説明】欄の一部の表記を変更、追加の記述を行いました。


【オリエント文学】

矢島文夫訳『ギルガメシュ叙事詩』ちくま学芸文庫 1998年
杉勇・尾崎亨訳『シュメール神話集成』ちくま学芸文庫 2015年
杉勇・屋形禎亮訳『エジプト神話集成』ちくま学芸文庫 2016年


【ギリシア文学】

ホメロス(松平千秋訳)『イリアス(上・下)』岩波文庫 1992年
ホメーロス(呉茂一訳)『イーリアス(上・下)』平凡社ライブラリー 2003年
ホメロス(松平千秋訳)『オデュッセイア(上・下)』岩波文庫 1994年
ホメーロス(沓掛良彦訳)『ホメーロスの諸神讚歌』ちくま学芸文庫 2004年
北嶋美雪編訳『ギリシア詩文抄』平凡社ライブラリー 1994年
イソップ(中務哲郎訳)『イソップ寓話集』岩波文庫 1999年
ヘロドトス(松平千秋訳)『歴史(上・中・下)』岩波文庫 1971〜1972年
トゥキュディデス(小西晴雄訳)『歴史(上・下)』ちくま学芸文庫 2013年
ソポクレース(中務哲郎訳)『アンティゴネー』岩波文庫 2014年
ソポクレス(藤沢令夫訳)『オイディプス王』岩波文庫 1999年
エウリーピデース(逸身喜一郎訳)『バッカイ』岩波文庫 2013年
アポロドーロス(高津春繁訳)『ギリシア神話』岩波文庫 1978年
プラトン(中澤務訳)『プロタゴラス』光文社古典新訳文庫 2010年
プラトン(渡辺邦夫訳)『メノン』光文社古典新訳文庫 2012年
プラトン(納富信留訳)『ソクラテスの弁明』光文社古典新訳文庫 2012年
プラトン(中澤務訳)『饗宴』光文社古典新訳文庫 2013年
プラトン(渡辺邦夫訳)『テアイテトス』光文社古典新訳文庫 2019年
プラトン(納富信留訳)『パイドン』光文社古典新訳文庫 2019年
プラトン(加来彰俊訳)『ゴルギアス』岩波文庫 2007年
プラトン(藤沢令夫訳)『国家(上・下)』岩波文庫 2008年
プラトン(藤沢令夫訳)『パイドロス』岩波文庫 2010年
プラトン(三嶋輝夫訳)『アルキビアデス/クレイトポン』講談社学術文庫 2017年
プラトン(田中伸司・三嶋輝夫訳)『リュシス/恋がたき』講談社学術文庫 2017年
プラトン(田中美知太郎・藤沢令夫訳)『ソクラテスの弁明 ほか』中公クラシックス 2002年
プラトーン(田中美知太郎・池田美恵訳)『ソークラテースの弁明/クリトーン/パイドーン』新潮文庫 2005年
アリストテレス(渡辺邦夫・立花幸司訳)『ニコマコス倫理学(上・下)』光文社古典新訳文庫 2015〜2016年
アリストテレス(三浦洋訳)『詩学』光文社古典新訳文庫 2019年
アリストテレス(出隆訳)『形而上学(上・下)』岩波文庫 1959〜1961年
アリストテレス(戸塚七郎訳)『弁論術』岩波文庫 1992年
フラウィウス・ヨセフス(秦剛平訳)『ユダヤ古代誌(1〜6)』ちくま学芸文庫 1999〜2000年
フラウィウス・ヨセフス(秦剛平訳)『ユダヤ戦記(1〜3)』ちくま学芸文庫 2002年
マルクス・アウレーリウス(神谷美恵子訳)『自省録』岩波文庫 2007年
マルクス・アウレリウス(鈴木照雄訳)『マルクス・アウレリウス「自省録」』講談社学術文庫 2006年
ピロストラトス(内田次信訳)『英雄が語るトロイア戦争』平凡社ライブラリー 2008年

【ラテン文学】

カエサル(國原吉之助訳)『ガリア戦記』講談社学術文庫 1994年
タキトゥス(國原吉之助訳)『同時代史』ちくま学芸文庫 2012年
アリストテレース/ホラーティウス(松本仁助・岡道男訳)『詩学/詩論』岩波文庫 1997年
ホラーティウス(高橋宏幸訳)『書簡詩』講談社学術文庫 2017年
オウィディウス(樋口勝彦訳)『恋の技法』平凡社ライブラリー 1995年 (※Amazonには登録なし?)
オウィディウス(高橋宏幸訳)『へーローイデス』平凡社ライブラリー 2020年
ヒュギーヌス(松田治・青山照男訳)『ギリシャ神話集』講談社学術文庫 2005年
フロンティヌス(兵頭二十八訳)『新訳 フロンティヌス戦術書』PHP研究所 2013年 (※注意! 英語からの重訳です)
キケロー(大西英文訳)『老年について/友情について』講談社学術文庫 2019年
キケロー(中務哲郎訳)『老年について』岩波文庫 2004年
キケロー(中務哲郎訳)『友情について』岩波文庫 2004年
山下太郎編訳『ラテン語を読む: キケロー「スキーピオーの夢」』ベレ出版 2017年
セネカ(中澤務訳)『人生の短さについて: 他2篇』光文社古典新訳文庫 2017年
セネカ(兼利琢也訳)『怒りについて: 他2篇』岩波文庫 2008年

【聖書】

関根正雄訳『旧約聖書 創世記』岩波文庫 1999年
関根正雄訳『旧約聖書 ヨブ記』岩波文庫 1971年
『文語訳 旧約聖書(1〜4)』岩波文庫 2015年
塚本虎二訳『新約聖書 福音書』岩波文庫 1963年
『文語訳 新約聖書 詩篇付』岩波文庫 2014年
秦剛平訳『七十人訳ギリシア語聖書』講談社学術文庫 2017年
小河陽訳『ヨハネの黙示録』講談社学術文庫 2018年
大貫隆訳『グノーシスの神話』講談社学術文庫 2014年

【中世文学】

上智大学中世思想研究所編訳『中世思想原典集成 精選(1〜7)』平凡社ライブラリー 2018〜2019年
ベーダ(高橋博訳)『ベーダ英国民教会史』講談社学術文庫 2008年
渡辺洋美訳『ギスリのサガ』北欧文化通信社 2008年
ティルベリのゲルウァシウス(池上俊一訳)『西洋中世奇譚集成 皇帝の閑暇』講談社学術文庫 2008年
池上俊一訳『西洋中世奇譚集成 東方の驚異』講談社学術文庫 2009年
マルクス/ヘンリクス(千葉敏之訳)『西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄』講談社学術文庫 2010年
クードレット(松村剛訳)『西洋中世奇譚集成 妖精メリュジーヌ物語』講談社学術文庫 2010年
ロベール・ド・ボロン(横山安由美訳)『西洋中世奇譚集成 魔術師マーリン』講談社学術文庫 2015年
ヤコブス・デ・ウォラギネ『黄金伝説(1〜4)』平凡社ライブラリー2006年 (※Amazonには登録なし?)
カルピニ/ルブルク(護雅夫訳)『中央アジア・蒙古旅行記』講談社学術文庫 2016年
マルコ・ポーロ(愛宕松男訳)『東方見聞録(I〜II)』平凡社ライブラリー 2000年
トマス・ア・ケンピス(呉茂一・永野藤夫訳)『イミタチオ・クリスティ』講談社学術文庫 2019年
スノッリ・ストゥルルソン(谷口幸男訳)『ヘイムスクリングラ: 北欧王朝史(1〜4)』北欧文化通信社 2008〜2010年
ダンテ(平川祐弘訳)『神曲 (全3篇)』河出文庫 2008〜2009年
ダンテ(原基晶訳)『神曲 (全3篇)』講談社学術文庫 2014年
ペトラルカ(近藤恒一訳)『無知について』岩波文庫 2010年
ボッカッチョ(柏熊達生訳)『デカメロン(上・中・下)』ちくま文庫 1987年
ボッカッチョ(平川祐弘訳)『デカメロン(上・中・下)』河出文庫 2017年
チョーサー(西脇順三郎訳)『カンタベリ物語(上・下)』ちくま文庫 1987年

【名言集】

柳沼重剛(編訳)『ギリシア・ローマ名言集』岩波文庫 2003年

【補足説明】

 こうして挙げてみると、ラインナップとしては実に寂しいものがあります。ヘシオドスやプルタルコスといった、古典学や古代史を勉強する上で手元に置いておきたい訳書が電子書籍化されていないのは、ちょいと厳しいです。ただまぁ、これは2020年4月現在のリストなので、そのうちもっともっと電子書籍は増える……はず。

 今回挙げた書籍ですが、Amazonとhontoに登録されている分は確認しました。ですが、それ以外の書籍通販サイトでどうなっているかは未確認です。また、版権などの権利関係が不確かなものは省きました。
 ところで、電子書籍特有の諸問題ですが、齋藤貴弘先生の「西洋古代史研究における電子書籍利用」(『モノとヒトの新史料学』勉誠出版 2016年 64〜70頁 所収)において、ギリシア語が読みにくかったり、画像が不鮮明なことがあるといった指摘があります。今回実際にいくつかの電子書籍を確認してみましたが、やはり電子書籍には紙媒体と比べると短所が(もちろん長所もあるわけですが)目立ちます。
 短所ですが、第一に、元となった紙媒体版のページ数が、電子書籍には記載されていないことが挙げられます。どういう問題なのか、詳しく申し上げましょう。例えば、勉強や研究をしていると、より深く内容を掘り下げるために論文や学術書を読まねばなりません。そういった研究文献の註に記載されている、ほぼ確実に紙媒体に依拠したであろう邦訳古典文献のページ数と、電子媒体の方のページ数に齟齬があるとなると、どうしても紙媒体の再購入・再確認が必要となります。第二に、註の位置が紙媒体版と異なっていることです。位置がちょっと違うくらいなら、読む上で苦にはなりませんが、単語の斜め上ではなく真下に振られていることもあり、正直読み辛くなっています。加えて、どの単語へ註なのか分かりにくいこともしばしばあり、これも古典文学を読むという点では決して良いとは言えません。
 こうした短所がある一方、電子書籍の長所としては、第一に、マーカーを引いたりメモを入力したりが、紙媒体と異なり気兼ねなくできることでしょう。とはいえ、文字以外——図や、表や、絵や、数式など——を描くといったことはできないのですが……。第二に、検索機能があることでしょうか。索引を開いて、元のページに戻って、註を読んで……と行ったり来たりする手間が、慣れ次第で大幅に削減されます。第三に、古書価格が高騰していたり、入手困難になってしまった本が定価で購入できることが挙げられます。

 COVID-19の影響で、書店や図書館が休業・閉館しつつあり、紙媒体の書籍が入手しにくくなっているいま、電子書籍で古典を読むというのは選択肢として有力なものとなりつつあります。電子書籍には上述したような短所・長所があることを念頭に置いた上で、購入・読書の参考にしていただければと思います。

画像出典: Wikimedia Commons "The Young Cicero Reading"
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:The_Young_Cicero_Reading.jpg

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