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〈散文詩〉何者かになりたかった



 小さな頃は歌うのが好きだった。
 歌うのは今も好き。
 だからと言ってうまいわけではない。

 小学生の時は学校で一番足が速かった。
 県の大会では予選落ち。

 チームの中でもサッカーが上手だった。
 地域の選抜では補欠。

 自分だけができること。
 周りもどんどんできていく。
 追い抜かれる。

 将来の夢なんてなかった。
 周りを見て大人が喜びそうな言葉を選ぶだけ。

 みんなの方が大きい声が出せる。
 あいつの方が世の中をうまく渡る。
 嫌いな奴の方が面白いことを言える。
 浪人した奴が先に高い給料をもらう。
 後輩の方が仕事ができる。

 さすが。さすがだね。
 昔からよく人に言われた。
 それが嫌いだった。
 なんでもないことだから。
 たいしたことない。
 つまらない。
 くだらない。
 そんなことで褒められても自分のレベルが浮き彫りになるだけ。

 上を見たらキリがない。
 かと言って下を見ても仕方がない。
 身の程を知りたくない。

 人生に努力は必要。
 努力という言葉が嫌われるのはそこに目的がないから。
 やみくもにやるだけは努力とは言わない。
 頑張れも嫌われる。
 たいてい最後は頑張るしかない。

 大事なのはエネルギーがあるかどうか。
 エネルギーを注げるかどうか。

 百点取れたって。
 異性からモテたって。

 自分が何かにならないと意味がない。
 自分が分からないまま歳を取ってしまった。

 自由だと生きづらい。
 選択肢がない方がかえって幸せ。
 でも自由が欲しい。

 何者かになりたかったんじゃない。
 突出した何かが欲しかったんだ。

 それを掴む術を知らないまま。
 掴もうとしないまま。

 いつだって今が最速。
 今からでも。今からでも。

 考えるだけの人はだめ。
 動ける人が強い。
 考えながら動ける人はもっと強い。

 こんなことばっかり。
 自分に苛立つ。呆れる。
 こんなことばかり考えて疲れていく。

 何もしないまま時間だけ使ってしまう。
 きっと終わりまで続く。

 こんな馬鹿馬鹿しい自分を、せめて愛せるようになりたい。



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