【短編小説】こんばんは、カレー
1,064文字/目安3分
くつくつと歌う鍋に、ゆれて踊る湯気。
部屋の中はカレーのにおい。
今日はわたしが先に家にいる日だから、晩ごはんの準備をする。
彼からはすでに『今から帰る』の連絡が来ている。帰ってくるまでの時間はわかるから、そこから逆算して調理を進めていく。家に着くちょうどのタイミングでご飯を食卓に並べられるように。
これは完全にわたしの自己満足。ささやかなプライド。
カレーはいい感じにとろみがついてきた。お米ももう炊けている。それと小鉢に酢の物。今日はからあげもつけちゃおう。お弁当用に買っておいた冷凍のやつ。ちょっとしたぜいたく。
さて、あとは彼が帰ってくるのを待つだけだ。使った調理器具を洗って、カレーを盛りつけるお皿も用意した。
自然にこぼれる鼻歌。はやく帰ってこないかな。
今日あった出来事、まずは何から話そうなんて考えながら、頭の中ではもう話している。
そうしているうちに彼が帰ってきた。1LDK二人暮らし、キッチンのすぐそばが玄関だ。
ドア越しに荷物をガサゴソとする音がして、次に鍵が開く音がして、そしてドアが開く音がする。
彼が入ってくる。
「おかえり」
彼の声を聞くより先に言う。
「ただいま」
「お疲れ。ご飯できてるよ」
「すごい。今日は何?」
「今日はね、カレー」
彼が着替えに行っている間に、盛りつけて食卓に並べる。リビングに戻ってくると、二人でテーブルに横並びに座る。うちはこたつ。今は布団をしまってあるけど、冬はここから一切動かない。
あまり意味はないけど、晩ごはんの写真を撮って、二人声を揃えて言う。
「つくってくれて、ありがとう」
どちらかが用意したとしても、これはどちらも言う。ルールってほどのものじゃないけど、過ごしているうちになんとなくそうなっていった。
「お腹すいたよ」
「すいたね」
「じゃあ食べよう」
「うん」
「いただきます」
「いただきます」
とりあえずテレビをつけるけど、そっちのけで二人で話をしながらご飯を食べる。
豚肉が安かったとか、ステーキ肉が売ってたけどすごく高かったとか、電車が少し遅れたおかげで逆にはやく着いたとか、会社の同僚と話したこととか。そんなことばかり話して、一日を終える。
からあげはお弁当に入れるのとまた違っておいしいね。酢の物もおいしいよ。あ、ちょっとだけこぼしちゃった。少しルーが足りないかも。
そういえばカレー食べるの久しぶりな気がする。久しぶりに食べるとおいしいね。オクラをトッピングするとけっこううまいんだって。今度やってみようか。
明日の晩ごはんは何がいいかな。明日もカレーでしょ。
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