衆議院議員任期の延長に関する議論

導入

 私は、自衛隊や集団自衛権についての無理矢理は憲法解釈について反対である。すなわち、憲法改正について賛成しているのだがおそらく憲法改正がはじめにされるのは「緊急事態時に衆議院議員の任期の延長を特例で認める」についてであろう。

これについては慎重な議論が必要である。

これを容認すると時の権力の内閣が緊急事態を口実に選挙を先送りし、権力を離さなくなる。日中戦争を始めた際の日本の議会は同様で緊急時を口実に選挙が行われないまま真珠湾攻撃が行われ、太平洋戦争へと繋がった。憲法の特に統治権力を宣言する部分に関して改正する場合は特に我々は懐疑的にこれらの議論を見なければならない。

そもそも行き当たりばったりでは駄目なのか?

緊急事態では少々の憲法違反もやむなしという世論が形成されそうであるし、それを想定して緊急事態に対しての条項の作り込みが甘い憲法も存在する。ただし、日本国憲法においてはそれを想定してはならない。
憲法9条という平和憲法には戦争の放棄が語られる。非常事態への作り込みが甘く特例を想定する憲法であるならば、なし崩し的な戦争を容認する可能性が出てくる。そのために、参議院の緊急集会というものが日本国憲法に入れられているし、緊急事態条項についての議論の必要性を多くの政党が語っているのである。

なぜ緊急事態条項が必要なのか?

大災害が起こった場合や、感染症の影響で大災害が起こった場合選挙が実施できない場合が想定される。その場合、議会での議論が止まってしまい立法府が機能しなくなってしまう。その結果、十分な予算を持った対応というのが迅速に行われない可能性があるのである。

ここで疑問が湧くのは、参議院の緊急集会ではだめなのかということである。

その理由としてよく持ち出されるのは、70日ルールである。

衆議院が解散されたときは、解散の日から四十日以内に、衆議院議員の総選挙を行ひ、その選挙の日から三十日以内に、国会を召集しなければならない。

日本国憲法第54条第1項


実際には、衆議院の解散期間に対する制限であるが、選挙が実施できずに特別国会が開催できない場合の想定がされていないのである。

そして、緊急集会というのは任期の切れた議員からなる内閣が緊急集会の開催を要求することで行われるのであるが、その点に関しても国民民主党は問題点に上げている。

緊急事態条項で衆議院議員の任期の延長に対して慎重になるのは、選挙を経ずして国民の代表であり続けることへの危惧である。立法府が三権分立の中でも最高権力であるのは選挙を介しており、民意を反映しているからである。

その民主的正当性が任期が延長された衆議院議員にあるのかが争点ではあるが、その任期の切れた議員が大部分を占める内閣が欲求することで開催される緊急集会に恣意的な権限行使の余地を広げている可能性はないと考えられるのかということである。

そもそも70日ルールの解釈は正当性があるのか?

立憲民主党などでは70日ルールそのものが憲法の解釈が誤りであるという解釈である。

期間の限定については、解散から40日以内に総選挙を実施し、総選挙後30日以内に特別国会を召集すべしという憲法の定め、いわゆる70日ルールに縛られる必要がないとの長谷部参考人の見解に対し、….

【衆院憲法審】議員任期の延長は不要、参院の緊急集会が国会機能を果たすべき、階猛議員


私自身も70日ルールの正当性については懐疑的である。むしろ、緊急集会が優れている点として緊急集会で可決された法案に対し、特別国会での承認を必要としているという点である。あくまで臨時的な法案という形にすることで緊急集会の権力を抑制しているのであり、速やかな平時への移行へのインセンティブとしているのであろう。


ただし、期間についての解釈については専門家や司法の判断に任せたいが統治権力を抑制するための憲法の解釈に様々な解釈をとりうる余白があることは行政府を抑制するためには改善すべき点である。

個人的には、誰が読んでも解釈が一致するように最高権力を縛る憲法は記述するべきであろうと思っているからこの議論自体気持ちが悪いのである。

また、やはり任期の切れた議員から内閣が発令するところの緊急集会であるという点には変わりない。それについての権力の抑制を司法を使う形で監視するのはどうであろうか?

立憲民主党の肩を持つ訳では無いが、政局が厳しい以上画期的な改憲案を持っていくというのはどうであろうか?インパクトがありそうな気もする。

衆議院の任期満了で解散されたときは緊急集会は開けるのか?

衆議院が解散されたときは、参議院は、同時に閉会となる。 但し、内閣は、国に緊急の必要があるときは、参議院の緊急集会を求めることができる。

日本国憲法第54条第2項

これについても解釈が分かれることが多い。

私としては任期満了時も開いてよしと解釈していい気がする。
これについても解釈が人によって分かれるのならば、誰が読んでも同一な解釈になるように改憲するべきであろうと思っている。

個人的には緊急事態条項については様々なやり方があると考えている。

私としては緊急事態の状況下での立法府のあり方は、参議院の緊急集会をもう少し厳密に定義するというアプローチでも衆議院議員の任期の延長でもどちらでもいいと思っている。むしろ、どちらにしても統治権力が暴走しないような明確にそれらを制限する憲法にしなくてはならないのであろう。
野党についてはそこについて議論を深める必要性があり、分裂しいがみ合っている場合ではないのである。

自民党の見解も混乱させてくるのである

この記事によると、自民党ないし、改憲の超党派の見解かは分からないが現在の憲法には緊急事態の条項がないというのが見解である。

日本国憲法には選挙が実施できなくなってしまうような緊急事態、いわゆる有事という概念がない。参議院の緊急集会は衆議院が解散中に、もし何か緊急のことがあった場合に(内閣の求めで)開かれ、参議院一院で決めることができる。40日以内に衆院選が行われ、30日以内に国会が召集されるが、その衆院選が行われることを前提にしている。そして国会召集後10日以内に新しく選ばれた議員からなる衆議院が承認をしなければ確定しない。あくまで暫定的、一時的なもので、「緊急」という名称がついているが、あくまで平時の制度だ。

新藤義孝氏(自民党政調会長代行)

これらの議論展開について私はあまり理解できなかった。

まず、あくまで緊急事態における緊急集会の議決は暫定的で良いのではないかと思っている。裁判が行えない状況下ではときの内閣に対して不信任案は出すことができない。そして、行政府が出してきた緊急事態に対応するための素案に対し、修正を加えるということが主な役割であろう。そして、議論をじっくり行う時間的猶予はあまりないことが想定される。そうであるならば、あくまで暫定的な形であるが与野党がある程度同意している状況が作り出せる緊急集会というのはかなりよく考えられた仕組みであると思っている。

確かに二院制が維持されることは重要であるが、それは選挙で選ばれた国会議員が構成する国会における二院制を指している。

自民党の論理展開では立憲民主党のような反論になってもおかしくはないと思う。

しかし、緊急事態に対する作り込みの甘さが露呈してきている今野党がすべきことは緊急事態に統治権力が暴走しないための監視のプロセスの作り込みである。平和憲法を維持するために、立憲主義を維持するために議論を深めてほしいものだ。


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