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なぜワークショップが必要なのか?  市民が考える気候変動とSDGs

後日談: このワークショップの仕組みを活かして、「気候変動が文化に与える影響の研究ー異世代間にみる気候変動対策への視座」というタイトルで、 松下幸之助記念志財団から研究助成をいただけることになりました!研究の目的は、難しく考えない気候変動市民会議、のようなものです。自治体さんたちの気候変動ワークショップのひな型になることを目指しています。いずれ、研究内容を少しずつnoteに記載していこうと思います。

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このたび、つくば市独自の補助金「中小企業等販路拡大補助金」の助成を受けて、気候変動とSDGsを考える地域ワークショップをオンラインで実施する仕組みを構築することになりました。この機会に、なぜ私がワークショップを始めることになったのか、について振り返ってみようと思います。

市民が考える気候変動政策

毎日新聞が連載中のクライメートポリティクスに、「くじ引き民主主義」で考える気候変動(ぜひ購読してください)という面白い記事がありました。16歳以上の無作為に選ばれた札幌市民が、温室効果ガス排出ゼロ目標の実現について話し合うオンライン会議を紹介したものです。カナダやオーストラリア、ヨーロッパでは、市民が政策に積極的に関与する土壌があり、‘Civic Lottery’と呼ばれるくじ引きで無作為に選ばれた一般市民が政策に対して意見を述べる機会が広く設けられています。このように、一般市民が政策に関わることは、持続可能な社会の構築において、とても重要な役割を担うようになってきました。

政策を実施する「計画」

日本では、市民がどのように政策に関わっているのでしょうか?ここでは、公共政策のための計画を例にみてみます。県や市といった地方行政は、私たちの生活に密接にかかわっています。行政は課題解決に対する計画を策定して、それに従って政策を行います。たとえば、私が住むつくば市では、地域防災計画や学校教育、ごみ収集や汚水処理などのように私たちの生活に密着したものから、つくば市未来構想のような市全体で大きな展望を示す総合計画まで、実に幅広い計画が84も策定されています。

市町村は基礎自治体と呼ばれ、私たちに一番近い行政を実施しています。こうした自治体の計画は国や県からの指示に従って作られるものではありますが、一方で、各自治体の予算の使い方を示すものであり、地域の将来を描く青写真でもあります。計画の期間は3年から5年、長いものだと10年以上もかけて取り組まれるものもあり、その成果は私たちの生活に大きな影響を与えることがあります。このため、特に海外では公共政策として策定される計画の研究が進んでいます。こうした研究では、計画が①根拠に基づいて策定されているか②目的や狙いが決められているか③計画の目的や狙いに関係する政策が建てられているか④政策を実装するための計画が立てられているか⑤実装をモニターして評価するための仕組みがあるか⑥計画実施に必要な庁内連携の仕組みが構築されているか⑦計画の策定や実行の過程にステークホルダーが参画しているか⑧計画が市民に政策を伝達する役割を果たしているか、といった項目に従って、公共政策が地域の実情に対して不足なく作成されているかを評価します。

市民参画が必要な理由

この項目の中で最近特に注目されているのが、⑦計画の策定や実行の過程にステークホルダーが参画しているか、です。ここでいうステークホルダーとは、地域に関係する人や団体のような一般市民であって、特定の政策や自治体の活動に積極的に関与している、あるいは関与したいと思っている人たちのことを指します。これまでの計画策定の過程では、大学の先生や研究者といった専門家たちが自治体の計画策定に技術的な助言をし、一般市民は自治体がまとめた計画案に対してパブリックコメントを通じて意見を述べるのが通例でした。しかし、地域の現状や課題を良く知るのは市民であり、計画に取り入れる政策を検討するときに市民の意見を聞くことは、地域で効果的な政策を立てる近道であること、想定される反対意見をあらかじめ考慮することができる機会でもあることが認識されるようになり、次第に計画策定過程に一般市民が公募の形式で参画することが増えてきました。

市民参画は計画策定に限定されません。例えば、さまざまな県や市が、事業を行う場所や施設の建設予定地で市民に対して現状等を説明する機会を設けたり、特定のテーマや課題について意見を出し合って解決策を探るためのワークショップを開いたりしています。市民参画の広がりの背景には、地方分権により地域の特性に沿った自治を行う必要があることや、社会のニーズが多様化していることなどがあげられます。こうした傾向は、地方創生を進めるうえでますます活発になることが予測されます。市や県が策定する計画は、地域の未来を描く青写真でもあります。自分たちが住む町が将来どんなふうになっていてほしいか、そのために解決するべき課題は何か、といった議論に市民が積極的にかかわっていくことが、自分たちの地域のよりよい発展につながるのです。

市民を交えた気候変動政策への合意形成

国が脱炭素政策を打ち出した2020年以降は、気候変動対策はどの自治体でも大きな課題となることが予測されます。これは地球温暖化対策には市民の協力が必要であることと合わせて、脱炭素政策が市民の生活に大きな転換を迫ることが避けられないからでもあります。たとえば、ガソリン車の新車販売が2030年代半ばに終了することが決定しましたが、これにより影響を受ける人や産業は存在します。新たな政策が導入される前に、その利点と課題を市民目線で検討することは、これからの合意形成のあり方の1つとして広がっていくでしょう。

終わりに

気候変動の影響は複雑かつ多岐にわたることから、わかりやすく理解するにはどうしたらいいだろう、と考えていたところ、つくば市の助成金制度をきっかけに気候変動アクション・オンラインワークショップの開発に着手することができました。このワークショップが地域での気候変動対策、ひいては地域創生のお役に立てればいいなと思っています。ただいま鋭意準備中です。ご興味がある方は、ご一報ください。

参考文献
毎日新聞  「くじ引き民主主義」で考える気候変動 日本でも新しい取り組み(2021年2月13日)オンライン版 
OECD (2020) Innovative Citizen Participation and New Democratic Institutions, CATCHING THE DELIBERATIVE WAVE 
Burby, R. J. (2003). Making plans that matter: Citizen involvement and government action. Journal of the American Planning Association, 69(1), 33-49.
Guyadeen, D., Thistlethwaite, J., & Henstra, D. (2019). Evaluating the quality of municipal climate change plans in Canada. Climatic Change, 152(1), 121-143.
つくば市 各種計画等一覧
熊本市 市民参画・協働に向けた取り組み一覧 


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