エンターテイメントの価値

音楽は何で聴きますか?
最近買ったCDはなんですか?

ーそう周りに聞けば、なんと返ってくるのだろう。

Youtube、Spotify、Amazonetc…
無料かつ手軽な手段が充実している。

音楽に限った話ではない。面白い企画や挑戦が観たければ、youtuberが無料で楽しませてくれるし、Amazonプライム会員であればたくさんの映画が無料で観られる。

頑張ってお小遣いを貯めて、音楽に費やすのはメジャーではなくなってきているのかもしれない。いったい彼らの収入はどうなっているのだろう。

といっても、私も人のことは言えない。
最近ハマったバンドはYoutubeで知ったし、テレビのない寮生活にAmazonプライムの映画は退屈しのぎのお供だ。

このことにふと疑問を抱いたきっかけは、旅行先で出会った1人のマジシャンだった。

私は先日1人でスペインとフランスを旅したのだが、予定より全ての行程がすぐ終了してしまい時間を持て余していた。
行くところは行った。お腹もすいてない。喋ろうにもスペイン語は分からないし友達もいない、でも宿泊先に戻るのは何だか損した気分。
昨年8月からイギリスにいることもあり「ヨーロッパはどこも一緒に見えてつまらない。」と自分勝手に不貞腐れていた。

その時、曲がり角で、マジックを披露する1人のマジシャンがふと目に留まった。
あごひげを生やした、お兄さんとおじさんの間くらいの年齢(に見える)男性。
音楽に合わせてボールを操っていた。

普段なら素通りするのだが、暇つぶしを求めていた私は立ち止まって観ることにした。
一言も喋らず、時には観客も巻き込んでマジックを披露する彼に、気が付けば私は見入り、他の観客と一緒に笑っていた。
演技が一通り終了すると、彼はなにやらスペイン語で話し、ひっくり返した帽子を観客に向けた。あ、そうか、お金だ。と、あわてて旅行用の財布をさぐる。

たまたま手に触れた20セントコインを帽子に入れ、「Gracias!(ありがとう)」と伝えてその場を去った。
退屈に不貞腐れていた先ほどまでの自分はどこへ行ったのか、私は機嫌よく歩き出し、見ていなかった観光地を少し回り、休憩がてら小さなカフェに入った。
そしてふと、「もうすこしお金を入れればよかったな」という思いがよぎった。20セント以上の価値はあったと思う。カフェの2.5ユーロするカプチーノは美味しかったが、それとは別の充実感を与えてくれたように思う。

もっとよく考えてみれば、何の特典もないCDアルバムに3,500円出す時、服に4,000円出すよりも私は躊躇う。もっといえば友人との食事に1,000円以上は普通に出せても、800円程度のCDシングルを買うには大変迷う。
どうしてなのか。
もったいないと思ってしまうのだろうか。

音楽は手段さえ選ばなければ、無料で聴けてしまう。あのマジシャンのパフォーマンスも、私の選択次第では無料で観ることだってできる。

ふと、今までの行動を振り返って後悔した。
私は作詞作曲の経験も、マジックの練習に真剣に取り組んだこともないが、きっと膨大な時間と努力が費やされている。いくら好きでも、挫折や不安は人並みかそれ以上に感じてきたはずだ。
無料なのが逆におかしいのだ。知名度を上げるため、といった理由もあるのかもしれないが、それで彼らの努力が消えるわけではない。

まだ好きにお金を費やせる身分ではとうていないが、手に触れないものに正当な対価を払うようにしたいと、1人マジシャンに気付かされたのだった。


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