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舞台 「夢ぞろぞろ」 観劇レビュー 2021/02/23

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【写真引用元】
小沢道成さん個人Twitter
https://twitter.com/MichinariOzawa

公演タイトル:「夢ぞろぞろ」
劇団:EPOCH MAN
劇場:シアター711
作・演出:小沢道成
出演:小沢道成、田中穂先
公演期間:2/19〜2/28(東京)
上演時間:約80分
作品キーワード:二人芝居、コメディ、舞台美術、日常系、昭和レトロ、ほっこりする
個人評価:★★★★★★★☆☆☆


2020年1月に観劇した「鶴かもしれない2020」に続き、虚構の劇団所属の小沢道成さん主宰の劇団EPOCHMANの舞台作品を1年1ヶ月ぶりに観劇。今作は2019年8月に上演されたものの再演で、私自身は初観劇。二人芝居の作品で、出演者は売店を経営するおばあちゃんの田中夢子を演じる小沢道成さんと、そこに訪れる若手会社員を演じる柿喰う客所属の田中穂先さん。
結論物凄く面白かったですし、非常に心温まる作品だった。小沢さんが仕掛けてくる小ネタで度々声を出して笑ってしまうほどコメディの要素も満載である上、最後は今を生きる私たちの背中をポンと軽く押してくれるような心温まるラストで終わっていて凄くほっこりした。
作風としては非常に日常系の漫画作品に近いなという印象、特に大きな出来事が起きて急展開するような話ではないが、若手会社員の悩みだったり、おばあちゃんの過去が出てきたりと登場する話が滑稽だったり涙をそそられたりで凄く心が温かくなった。
そして特筆したいのは、舞台美術が凄く趣向が凝らされているということ。照明もオレノグラフィティさんが担当する音楽も素晴らしかったのですが、特にギミックが沢山仕込まれたキューブ型の売店の舞台装置がなんとも小洒落ていて素敵だった。回転するあたりとか、裏側が学校の教室の一部になって過去のシーンで使われる辺りが物凄く好き。
笑いあり、ホロリあり、感動あり、演劇体験の良さをコンパクトに詰め込んだ濃厚な80分間だった。万人におすすめしたい傑作。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/417022/1538621


【鑑賞動機】

小沢道成さんの芝居は、「鶴かもしれない2020」「脳ミソぐちゃぐちゃの、・・・」と2回観劇していて、彼の演じる女性役が物凄く面白くて好きなので観劇することに。田中穂先さんという柿喰う客の俳優の方は名前しか聞いたことがなく、今回の舞台が初見なのでそちらも楽しみにしていた。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

駅の中にある小さな売店に若手会社員(田中穂先)が訪れた。「すみません」と声をかけても一向に人が現れなかったので、売店で売られていたお茶を取り出し、1万円札を置いて飲んでしまう。そこへ突然売店店員のお婆ちゃんである田中夢子(小沢道成)が姿を現し、「泥棒!」と叫び始めて大事となる。
会社員は慌てて自分が万引した訳ではなく、しっかりと1万円を売店の会計トレイに置いたことを伝え誤解を解こうとする。その後は、夢子の平気で商品を購入する時に1万円を置いていく客の愚痴などが繰り広げられる。
その流れで夢子は会社員自身のことに対して色々質問攻めにする。「結婚はしているの?」「仕事はどうしたの?」しかし会社員は答えづらそうにしていた。最近はパワーハラスメントでそういうプラベートの事情を聞き出すのはハラスメントにあたると夢子は知っていたが、自分は何を聞かれても気にしないため質問攻めにしていた。

夢子はまだ学生時代だった頃、同じクラスメイトに磯村(田中穂先)という男子がいた。磯村はよくシゲルという同級生とヤンチャをする話を夢子に聞かせに来ていた。ある日、磯村が万引したパンを夢子に食べさせてしまったことがあって、夢子自身は自分の罪悪感みたいなものに襲われてパニックになってしまったことを思い出した。
その後磯村と夢子の2人で、そのパンを売っていた店員に押しかけてヤンチャすることになるのだが、会社員が磯村に似ているということから、会社員が学ランに着替えてその時のエピソードを実演することになった。
会社員が着替えている最中、夢子は駅員に成り代わって車掌さんになったり歌を歌ったりしていた。ペットのモモンガも可愛がっていた。
着替え終わった会社員と夢子で、パン屋の店員に押しかけてヤンチャするシーンを実演した。意外とパン屋の店員は手強かったらしい。

夢子は国語の教科書に出てくる恋愛物語のワンシーンを磯村に向けて朗読した。夢子は、この恋愛物語のように自分の気持ちを正直に伝えられるようになりたいと言う。
そのエピソードを聞いた会社員は、学生時代の夢子は磯村のことが好きだったのかと問う。そこは聞かないでと先ほどの何を聞かれても気にしないということと矛盾したことを言うが、その磯村という青年は学校を卒業する直前に亡くなってしまったと伝える。
そろそろ危ない人たちが売店に訪れる頃だから立ち去った方が良いと夢子に言われる会社員。会社員はその日は売店を立ち去る。

売店には田中(田中穂先)という近所に住む叔母さんが夢子を手伝いに来ていた。最近よく売店を訪れる会社員は大丈夫だろうかと心配しながら井戸端会議をする2人。田中は売店を後にする。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/417022/1538622


会社員は独白する。会社には自分よりも仕事が出来て企画力もあって情熱に溢れた同僚がいた。でも自分にはそれがなくて、会社において非常に居心地の悪い思いをしていた。
ある日、その会社員は上司から大きなプロジェクトのリーダーに抜擢される。またとない挑戦の機会だった。しかし、その会社員はその機会から逃げてしまった。挑戦して成長したいという気持ちの前に失敗したらどうしようバカにされたらどうしようというネガティブな感情の方が先に来てしまった。
そんな大きなチャンスを自ら逃してしまったため、最近は駅までは来れるが電車に乗って出社する勇気が出なくなってしまった。

その話を聞いて夢子も自分が過去に抱いていた夢の話をする。
夢子と磯村は将来の夢について語り合っていた。磯村は将来は鉄道関係の仕事につきたいと話す。銀河鉄道の夜みたいに空を飛ぶ列車を実現させたいと言う。そんな磯村の将来の夢に憧れ、夢子も鉄道関係の仕事につきたいと思うようになる。
夢子は磯村に手紙を渡す。夢子は外で手紙を開けそうになる磯村を慌てて止めて、それは家に帰ってから開けて欲しいと言う。その場で開封することを止めた磯村は、そのまま夢子と解散する。
そのすぐ後、磯村は電車に轢かれて亡くなってしまう。磯村の遺体はきっと検体などされて手紙も誰かに読まれてしまうと思うと恥ずかしくなった夢子は、横たわっていた磯村の元へ行って手紙だけ回収した。
しかし、夢子は結局鉄道関係の仕事に就職することはなかった。勿論、あの時は鉄道関係の仕事に就きたいと思ったが、今は生きたいように生きたいと思うようになり、それはそれで満足しているのだそう。

そのエピソードを聞いた会社員は何を思ったのか、勇気づけられたように駅の売店を後にした。ここで物語は終了。

特段大きな出来事は起きない、いわゆる日常系の漫画のようなストーリー展開で、ある駅の売店の数日間を描いたような作品だったが、凄く田中夢子というお婆ちゃんと若手会社員という人物像が濃厚にしっかりと描かれていて感情移入しやすかった。
特に若手会社員は名前も出てこないため、凄く自分であるかのような錯覚も与えてしまうほどリアリティのある若手会社員という存在感だったので、大きなプロジェクトから逃げてしまって会社へ行きづらくなったという出来事に親近感を抱いた。

あとは、夢子の過去と現在が交錯しながらストーリーが進むのが凄く見せ方として上手いと思った。ここは後述するが舞台装置のギミックとも上手く連携して、観客を厭きさせない程度に場転していたり、次第に磯村と若手会社員が同一人物(ではないけど)のように見えてくるような演出も面白かった。

ラストの夢子の「生きたいように生きる」という信念が凄く響いた。若手会社員もその言葉に後押しされてその後どうなったか分からないが、前へ進もうと思った訳だし気持ちをポジティブにさせてくれる素晴らしい終わり方だった。
またこの物語の続きは、「夢のあと」という演目で2020年6月に小沢道成さんによって一人芝居によって描かれている。今作のパンフレットにその時の戯曲が収録されていたので思わず購入した。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/417022/1538623


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

本当に今作の世界観・演出はハイクオリティなものばかりだった。特に駅の売店と学校の教室をイメージしたキューブ型の舞台装置は、本当にお洒落で可愛くてギミックも沢山仕掛けられていて素晴らしかったので、舞台装置を中心に舞台美術について記載していく。

まずはキューブ型の回転する舞台装置。以下の画像のように立方体となっている木造の舞台装置だが、前方が「KIOKS」と書かれた売店になっていて、食べ物だったり、飲み物だったり、その他売店で売ってそうなものが様々に並んでいる。そしてこの売店はしっかり光り輝く仕掛けになっていて、「KIOKS」という文字やその他の売り物の冷蔵庫が劇中光り輝いてた。
その側面にはベンチが置かれていた。学生時代の夢子と磯村が国語の教科書の内容について語るシーンで主に使用されていた。このベンチも木造で手作り感満載で素晴らしい。
そしてこの売店の背後には、学校の教室とその窓際を切り取ったスペースが用意されていた。おそらく背後に扉があって、売店側から教室側へ抜けられるような仕組みになっていると思われる。教室の後ろの壁には、習字が貼られていたりと学生時代を思い出させる景色が広がっていた。
また、この教室は磯村が電車に轢かれてしまうシーンでは両サイドに照明をこしらえる事によって列車にも見立てられていたので、物凄い工夫が凝らされているなといった感覚だった。
また、この舞台装置は全体的に昭和レトロな感じが若干漂うくらいの世界観であることが凄く好きだった。ここの若干というのが凄く良くて、居酒屋の「半兵ヱ」みたく昭和の雰囲気が物凄く漂う訳ではなく。凄く舞台装置にはあまり汚しとかはされていない目新しさみたいな、綺麗さが非常に目立つのだが、どこか世界観全体から昭和っぽさが垣間見える雰囲気というのが好きだった。特に、裏側の教室の空間と学ランとセーラー服というのが、非常に昭和っぽさが伺えて好きだった。

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【写真引用元】
公演パンフレットより


次に衣装だが、やはり売店の店員お婆ちゃん田中夢子の衣装がカラフルで手作り感満載で素敵だった。カラフルな布を継ぎ接ぎしたような、でも凄くインスタ映えしそうで目新しさを感じるおしゃれなエプロンが印象的。そして、田中夢子のかつらも物凄くインパクトがあった。あの白髪まじりのでも毛量が物凄く多い感じ。観客の前でかつらをとって女学生の三編みのかつらに切り替えるという演出も凄く面白かった。
また一瞬だけ田中穂先さんが女装して、田中という近所のおばさんを演じるシーンがあるが、この時のおかっぱのかつらと女装した衣装も素敵だった。

そして照明とオレノグラフィティさんが手掛ける音響だが、印象に残ったシーンが6つほど。
まずは、一番冒頭のシーンの舞台装置が回転しながら暗転明転を繰り返して、若手会社員がこの駅の売店にたどり着いた時のロックな演出。このシーンだけ物凄く格好良くてオレノグラフィティさんの色を物凄く感じる。「鶴かもしれない2020」の音楽もかなりロックなテイストでオレノグラフィティさんの色を感じたが、今作はこのOPにだけその匂いを感じられた。このシーンだけ浮いてしまうという意見もあるかもしれないが、個人的には凄くインパクトがあって好きな演出だった。このシーンによって最初から感情が高ぶった。
次は、ベンチに腰掛けて夢子と磯村が国語の教科書を読みながら青春を語るシーン。あの時の照明が凄く素敵だった。ベンチにスポットが当てられていて、凄く雰囲気が良かった。
3つ目は夢子がマイクを持って歌うシーン。劇場の換気と若手会社員から磯村への着替えを含めたこの時間の音楽と照明が素晴らしかった。照明はまるでカラオケボックスにいるような、丸い斑点が左右に動くようなポップな演出で、音楽のチョイスも昭和の歌謡曲だった記憶。このシーンだけでなく、特に客入れで音楽がかかっていたのだが、全て昭和の名曲が多かった。その辺りからも、なんとなくの昭和レトロっぽさが醸し出されている。
4つ目は、夢子と磯村の教室のシーンで照明が夕方らしくオレンジ色である演出が凄く素敵だった。放課後の演出ってやはり夕方をイメージするから、すごくシーンともマッチしていて素敵だった。
5つ目は、客席側から舞台側へ向けられる白色のスポットが凄く寂しさとか孤独感を現していてしんみりした。これは特に物語終盤で多用されるのだが、若手会社員の独白シーンで当てられる白色のスポットが印象的だった。この独白シーンは内容も内容だったから物凄く惹き付けられた。
最後は、磯村が列車に轢かれる演出。舞台装置が回転しながら、暗転の中列車をイメージさせるライトのインパクトが特に迫力あった。「ファーン」という列車の効果音も相まって凄く素敵だけど悲しい印象に残った演出の一つだった。

それ以外で印象に残った演出は、まずはあのモモンガちゃん。夢子がモモンガを可愛がるシーンも良かったのだが、黒子みたいなスタッフが実はいて、彼がキューブ型の舞台装置を回転させていたのだが(劇中で一部姿を現すシーンがある)、その黒子がモモンガを人形劇のように扱っていたのが面白かった。そして、なぜかモモンガが一回だけ鳴き声を上げたのだが、そのシーンにはびっくりした。
後は、夢子と磯村でパン屋の売店の店員にヤンチャをしかけてくるシーンを劇場の裏側へ回っていて、その様子を音声で流すという効果も印象的だった。暗転の中音声で様子が聞こえると、光景を自分で色々イメージして想像力を掻き立てられるから好き。
また、若手会社員から磯村への着替え中に夢子が歌を歌うシーンにおいて、物語中盤ということもあり換気がされるのだが、スタッフが出てきて扇風機を持ち上げながら音楽に合わせて体を揺すっている演出がなんとも素敵だった。スタッフまで一緒に舞台演者として楽しんでいるのが凄く印象的だった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/417022/1538624


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作は二人芝居なので、田中夢子を演じた小沢道成さんと、若手会社員と磯村、近所のおばさんの田中を演じた田中穂先さんの2人について書いていく。

まずは夢子役の小沢道成さん。小沢さんの演技を拝見するのは、「鶴かもしれない2020」「脳ミソぐちゃぐちゃの、・・・」に続き3度目だが、今作の演技は非常に人間味に溢れた演技に非常に心打たれて今までで一番好きな役だった。
以前から女装役が得意な小沢さんで、そういった役を器用に熟す役者さんだということはよく知っていたが、今作は凄くお節介なお婆ちゃんというキャラクター性が非常に良く現れていてリアルだった。私自身も大学生時代に住んでいたアパートのオーナーがそういう方だったので、凄く細かい部分まで面倒を見てくれるが、お節介過ぎてウザったいと感じられるくらい良く作り込まれていて非常に好きだった。
また今回も最前列で観劇したので、小沢さんの役のインパクトがもう半端なかった。上演されたシアター711という劇場が非常に小さい劇場なので、小沢さんの役の迫力を真ん前で体感出来てよかった。
そして歌も物凄く上手い。歌が入るだけで心も元気になる。
そして今回の作品は、小沢さん自身の人間味の温かさを感じられる部分も多かったように思える。例えば前説の上手さ、凄く固くならずにかといって重要な部分は伝える部分が素敵だった。「No more 演劇泥棒」のフレーズは好きだった。また、客だしでガラス越しにお見送りをしてくれるのも有り難かった。今はコロナ禍なのでなかなか難しい客出しだが、ガラス越しで感染症対策抜群でにこやかにお見送りされると非常に気持が良かった。小沢さんの人間性を凄く感じた。

次に、若手会社員、磯村、近所のおばさんの田中を演じた田中穂先さん。柿喰う客に所属する田中さんの演技は初めて拝見。
率直な印象物凄く迫力のある役者さんでびっくりした。見た目からこういうピュアで情熱的な役をやるイメージではなかったので個人的には意外だった。
最前列で観劇していたからというのもあるかもしれないが、物凄く表情筋が動く役者だと思った。凄く体を張って演技をされているという印象で、特に印象に残ったのが磯村がパン屋の店員に押しかけようとイメトレするあたりの演技シーン。凄く面白かった。
田中さんは、後半部分では若手会社員としての悩みだったりをモノローグで語る、ある意味胸に突き刺さるようなそんなシーンを上手く演じきっていたが、もっとそんな演技も観たいと思った。田中さんは体を張ったコメディ的な演技も卒なく熟されるのかもしれないけど、個人的には後半のシーンが深く刺さったのでもっと繊細な演技も沢山観てみたいと思った。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/417022/1538620


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

私の口からこの作品に対して総括して言えることは、凄く人間味に溢れた作品だったということである。
それは劇中の物語に対してだけではなく、制作部分から何から全てが人間味に溢れていたことが本当に素敵で心温まる舞台観劇だったと思っている。

私はこの舞台を先行予約で申し込んだのだが、自宅に郵送されたチケットの入った封筒の中に、小沢さん直筆のメッセージカードが入っていた。私は封を開けた時に物凄く小沢さん自身の人間性を感じたし、凄くもてなしてくれている感じは肌で感じた。
また、客入れ時も前説に色々な趣向を凝らしていらっしゃって、「笑って頂くことは大歓迎です!」「拍手も大歓迎です!」のような会場を盛り上げてくれるような、ただライブみたいに「ワー」と盛り上げるのではなくこじんまりと盛り上げる感じが非常に好きだった。
客出し時も、ガラス越しの部屋で色々な作り物を持ちながら笑顔でお見送りをして頂いて、非常に観劇したこちら側も嬉しかった。

舞台作品自体にも人間としての温かさを感じるものばかりだった。
まず脚本自体も、非常にほっこりするような内容で温もりを感じた。何度も書いている通りこの作品は何か特別な事件が起きるわけでもない、他愛もない会話も沢山含まれている。でもその他愛もない会話の中に温かさが籠もっている。
例えば1万円札を平気で出しちゃう客がいる話とか、モモンガを大事に可愛がっている話とか、ストーリーに登場する要素一つ一つがなんだか温かみを感じる。

そして、舞台美術にもその温かさを感じる。
まず木造の舞台装置というのが良い。少し汚しがかかっているが割とキレイめで、手作り感満載でミニチェアみたいな点が非常に温もりを感じた。
そして、照明音響も心が温かくなるような音楽だったり明るめの明かりが多かった気がする。その舞台美術に触れているだけで心がポカポカと温かくなってくる。

そしてこういった心に温かさを灯してくれることって、映像配信では体験できない演劇体験である。もちろんオンライン演劇で心温まるストーリーを上演することは出来るかもしれない。しかし、客入れ客出しで役者の方が見送ってくれることはない。紙のチケットとメッセージカードが自宅に届くことはない(劇団ノーミーツの作品はあったりするのだが)。
生の演劇だからこそ触れられる人間の温かさを感じられる体験がそこにはあって、やはり生の舞台って凄く素敵なものだと改めて感じられる作品だった。
そういうこともあってなのか、この作品は配信上演はなかった認識である。

配信ではなく生の舞台で勝負して、人の温かさを届けたい。そういう試みを様々な所から感じられる非常に温かい演劇作品だった。


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