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舞台 「ナイゲン(2022年版)」 観劇レビュー 2022/06/25

【写真引用元】
アガリスクエンターテイメント Twitterアカウント
https://twitter.com/Agarisk_Info/status/1538807254173986816/photo/1

【写真引用元】
アガリスクエンターテイメント Twitterアカウント
https://twitter.com/Agarisk_Info/status/1538807254173986816/photo/2


公演タイトル:「ナイゲン(2022年版)」
劇場:下北沢駅前劇場
劇団・企画:アガリスクエンターテイメント
作・演出:冨坂友
出演:小日向春平、幡美優、岡村梨加、宮下真実、中川大喜、谷川清夏、大見祥太郎、仲村陸、木村聡太、早舩聖、神山慎太郎、雛形羽衣、古谷蓮
公演期間:6/21〜6/26(東京)
上演時間:約125分
作品キーワード:青春、コメディ、会話劇、笑える
個人満足度:★★★★★★★★☆☆


冨坂友さんが主宰する劇団「アガリスクエンターテイメント」の代表作であり、他劇団や高校演劇、プロデュース公演でも再演されている「ナイゲン」を初観劇。
アガリスクエンターテイメントの公演自体も初観劇。
今回の「ナイゲン」は、キャストを一新してブラッシュアップしての「ナイゲン(2022年版)」としての上演だそう。

物語の舞台は、とある高校の文化祭「鴻陵祭」での各クラスの出し物の審議を行う「内容限定会議(ナイゲン)」。
各クラスの代表がナイゲンのために会議室に集まって、実行委員のもとで出し物について話し合う。
しかし、学校側からのお達しで今年は「節電エコアクション」というエコを題材とした出し物をどこかのクラスが催さなければならないというルールが与えられる。
もしそのルールに背くことになれば、今年の文化祭の一般公開は無くなると言う。
「ナイゲン」の心得は、自主的に全員が納得がいくように文化祭が実施出来るような意思決定をすること。
果たして、各クラスの行方はいかに...というもの。

何度も再演されていて非常に評判が良いことは聞いていたので、実際に観劇していてその面白さを身にしみて体感出来た。
これは誰もが一度は通る青春の1ページだと思っていて、私はクラスで話し合うみたいな空気感があまり好きでなくて、観劇してみると実際自分が過去に経験した辛い経験や嫌な経験も蘇ってきたので、ちょっと痛々しく感じられた部分もあったのだが、生徒各々が熱烈に自分のクラスの出し物を主張する熱量、それから男女の恋愛関係は青春ならではの甘酸っぱさが詰まっていて非常に懐かしい気持ちにさせられた。
青春劇というのは、ギスギスした人間関係が露骨になる痛々しさと、恋愛関係だったり、学生でしか出せないような熱量だったりがグチャグチャに混ぜ合わさって、青春劇でしか体験できないような特有の感情を引き立ててくれるのが醍醐味だろう。
それを改めて痛感させてくれて青春劇って良いなあとしみじみ思った。

キャスト陣も今回初めて演技を拝見する方ばかりで、皆若々しかったが非常に熱量あって上手かった。素晴らしいに尽きる。
舞台セットや衣装も非常にブラッシュアップされていて、あの黒板や机と椅子の感じも学校の教室という感じがあって、そしてあの制服とクラスTシャツで入り乱れる感じも文化祭らしくて非常に懐かしかった。

高校生にとっては等身大の作品なので、高校演劇でも上演されるというのは非常に納得がいく。
非常にストーリーも分かりやすく、沢山笑えるので小劇場演劇を観たことがない人にも自信を持ってオススメできる演劇作品だった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/482577/1844731


【鑑賞動機】

アガリスクエンターテイメントの公演は一昨年前からずっと観たいと思い続けいてたが、なかなかタイミングが合わずだった。しかし、今回のアガリスクエンターテイメントは、番外公演ということで名前を聞いたことがある若手キャストを沢山起用しての、小劇場演劇で最も有名な戯曲「ナイゲン」だったので迷わず観劇することにした。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

派手な照明演出と音楽と共に、高校の生徒たちが登場して机と椅子を四角く囲って会議を進行出来る形に並べ替える。
黒板を背に向けて、文化祭実行委員長であり議長の小日向春平(小日向春平)、文化祭副委員長の岡村梨加(岡村梨加)、文化祭実行委員書記の宮下真実(宮下真実)、監査委員長の幡美優(幡美優)が一列に座る。
黒板を囲うようにコの字になった机には、まず東側に1年生が座り、1年1組の「Iは地球をすくう」という団体名の中川大喜(中川大喜)、1年2組の「3148(サーティーワン・フォーティーエイト)」という団体名の谷川清夏(谷川清夏)、1年3組の「おばか屋敷」という団体名の大見祥太郎(大見祥太郎)がいた。
対する西側には2年生が座り、2年1組の「海のYeah!」という団体名の仲村陸(仲村陸)、2年2組の「アイスクリースマス」という団体名の木村聡太(木村聡太)、2年3組の「ハワイ庵」という団体名の早舩聖(早舩聖)がいた。
一方南側には3年生が座り、3年1組の「花鳥風月」という団体名の神山慎太郎(神山慎太郎)、3年2組の「道祖神」という団体名の雛形羽衣(雛形羽衣)、3年3組の「どさまわり」という団体名の古谷蓮(古谷蓮)がいた。
今この高校では文化祭「鴻陵祭」の各クラスの出し物を審議する「内容限定会議(ナイゲン)」が連日行われており、明日から(たしか定期テストによる)活動停止期間に入ってしまうので、放課後に毎日集まって議論出来るのも今日が最後だった。

校内放送が流れる。文化祭実行委員長は至急職員室へ来るようにとのことだった。小日向は自分が戻ってくるまで休憩とし、自分は職員室へと向かった。
「おばか屋敷」の大見は、「3148」の谷川をどうやら好きらしいのだが、その恋心は密かに心に潜めている感じがあった。また、「海のYeah!」の仲村は、実行委員書記の宮下とイチャイチャしている。そして「ハワイ庵」の早舩はどうやら眠そうだった。
実行委員書記の宮下と副委員長の岡村はとても仲が良く、どちらかというと高校時代の夏は会議室で議論しているのではなく海に行って遊びたい気持ちでいっぱいだった。2人は物静かで真面目な監査委員長の幡に海に一緒に行かないかと話しかけるが、幡は実行委員で忙しいから行けないと断る。その態度を笑いもの扱いする宮下と岡村だった。

実行委員長は戻ってくる。ここでナイゲンは再開されるのだが、実行委員長は先ほど職員室で先生たちから指示された内容を打ち明ける。それは、今年は文化祭の出し物としてどこかのクラスに「節電エコアクション」という節電を呼びかける出し物を引き受けてもらうとのことだった。そしてもし、この要求を引き受けないという決断をするのであれば、今年の文化祭の一般公開はナシにするという。
生徒たちは、そんな無茶苦茶な学校側の指示はおかしいと反論し大騒ぎになる。
そこで実行委員は、各クラスの代表9人でこの学校側からの要望に賛成するのか反対するのかを投票で決める。投票は真っ二つに割れ、賛成5票、反対5票だった。9人しかいないはずなのにおかしいと原因を探ると、「ハワイ庵」の早舩が賛成と反対両方に投票していた。もう一度投票を行うと、今度は賛成4票、反対4票になってしまい、「ハワイ庵」の早舩はどちらにも投票しなかった。どうやら彼女は、今のこの状況を上手く理解出来ていないようだった。
そこで3年生たちが、もし「ハワイ庵」がこの投票に反対に入れてしまったら、文化祭の一般公開が出来なくなってしまうのだぞ、それで良いのかと脅す。ようやく状況を理解した「ハワイ庵」の早舩は賛成に投票することで、この9クラスのどこかが「節電エコアクション」を受け入れなければならないという状況となる。

今度はどこのクラスが「節電エコアクション」を引き受けて催すのかという議論になるが、「アイスクリースマス」の木村が「3148」の谷川に対して、「3148」が企画しているかき氷&パフェの販売の粗を指摘して、これは実施不可能なのではないかと言って、1年2組に「節電エコアクション」を押し付けようとする。「3148」が企画するパフェの販売は、「鴻陵祭」のルール上、そもそも中の果物には火を通さない訳でそれでもって作り置きは禁止されているので、どうやって販売しようとしているのか分からないと言う。
その木村の意見に続いて、他のクラスの代表も「3148」が「節電エコアクション」を引き受けるべきという流れに賛同していく。実行委員は黒板にそれぞれ9つの団体名とどこの団体がどこの団体に投票しているかを書き出す。
しかし内心谷川のことが好きな「おばか屋敷」の大見は、彼女をかばおうと他団体に投票する。「アイスクリースマス」の木村の押し付けが強く、おとなしい谷川は泣き出してしまう。谷川は会議中に教室を出ていこうとするが、「会議中はいかなる理由があろうと教室を出てはいけません」と監査委員長が厳しく禁じる。
その時、「おばか屋敷」の大見は谷川にハンカチを渡す。周囲はヒューヒューと叫ぶ。実行委員が谷川にどの団体に投票するか尋ねると、「おバカ屋敷」に投票すると言う、そしてダブルミーニング的に「ごめんなさい」と言う。大見は完全に谷川に振られる。

クラス代表の一人が、そうやって一人を袋叩きにするのではなく、各クラスの出し物を一つ一つ審議してから、どこが「節電エコアクション」をやるか決める方が公平ではないかと言い出し、その流れになる。
まずは、1年1組の「Iは地球をすくう」の出し物について議論することになる。「Iは地球をすくう」は、うちわを配ったりプールに水を貯めて金魚すくいやヨーヨー釣り、スーパーボールすくいなどを催す予定だったが、うちわ配りの段階で、「節電エコアクション」で要求されている内容と被るのではと訴えられる。「Iは地球を救う」の中川は、それであればうちわ配りは企画から削除すると言う。これで「節電エコアクション」にされずに済むと。
しかし、今度は「道祖神」の雛形から水を使うということ自体で、「節電エコアクション」の打ち水と一緒に出来るのではと押し付けられるが、中川は散々反論した挙げ句水は使わないという手段に出る。スーパーボールすくいもプールに水を張らないと。それでは、ただのボール置き場ではないかと突っ込まれる。ただ、これでもう文句のつけようはないでしょ?と中川は主張する。
「道祖神」の雛形は、でも学年が一番下だからという、もうどうしようもない条件を突きつけ、中川は激怒する。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/482577/1844733



収集がつかないので、次のクラスの審査に移る。
1年2組の「3148」の出し物は先ほど議論されたので飛ばし、1年3組の「おばか屋敷」の出し物について議論する。「おばか屋敷」は当然、お化け屋敷を催す予定なのだが、ただのお化け屋敷なのではなく、お客さんがお化け役になって他のお客さんを脅かすという新しいコンセプトがあった。
しかし、とある落書きから大見が谷川のことがやっぱり好きであるという証拠を発見してしまい、票が一気に「おばか屋敷」に集まってしまう。
その後とある会話から、「Iは地球をすくう」の中川が「海のYeah!」の仲村と実行委員書記の岡村が付き合っていると誤解して呟く。しかし、実際には仲村と岡村は付き合っておらず、付き合っているのは仲村と宮下だった。
でも中川がそう誤解したのは、仲村と岡村がキスをしている光景を見たからであった。そこから宮下はブチ切れてスマホのスクショから仲村と岡村が2人でキスをしようとしている証拠となる画像を発見する。仲村は、それはキスをしている訳ではないと必死で言い訳をするが、宮下の怒りと疑いを抑えることは出来なかった。星の下で仲村と岡村はたしかにキスをしていた。宮下は仲村とも岡村とも険悪な状況を作る。

大きく株を下げてしまった仲村だったが、非常にトイレに行きたくなってしまい教室外へ出して欲しいと訴える。実行委員長は、ここで休憩を挟むか挟まないか投票する、休憩を挟まないに投票が入り皆は仲村をトイレに行かせてくれない。
強引にでも教室を出てトイレに行こうとする仲村だったが、そうすると罰として「海のYeah!」が「節電エコアクション」をやることになると言って行けなくなる。
ついに仲村は我慢出来なくなって「ハワイ庵」の早舩のタンブラーをさらってそこに放尿しようとする。教室中から悲鳴が響く。こんな始末になるようなら、仲村をトイレに行かせた方が良いという意見が主流となり、仲村がトイレから戻ってくるまで休憩となる。

仲村がトイレから戻ってくるが、どうやら間に合わなかったらしくズボンを履き替えていた。
監査委員が、3年生がどのクラスも演劇を上演することになっていたことから、台本の上演許可を今日中に取るように忠告する。この時、「花鳥風月」だけまだ上演許可を取っておらず、完全に今まで上演しようと決めていた「11匹の猫」という題材を上演出来ないことが決まった。
そこで「花鳥風月」の神山は、3年1組が「節電エコアクション」を引き受けると申し出る。出来る題材がないから致し方ないと。
これで実行委員長はめでたく「花鳥風月」が「節電エコアクション」をやるということに対して満場一致の賛成が取れると思って、各クラス代表の9人に賛否を取ったが、「どさまわり」の古谷蓮だけが反対した。なぜここで反対するのかと他のクラスから批判されたが、彼は「これで「花鳥風月」が「節電エコアクション」をやることに決まってしまったらナイゲンらしくない。この学校は、自分たちがやりたいことを主体的にやるための決定を下してこその文化祭だろうと。学校側から押し付けられたことを致し方なく受け入れるのは理念に反するだろう。」と言う。

そこで各クラスの代表たちは、「花鳥風月」の神山になんとか自主的に「節電エコアクション」をやりたいと思わせるように必死でアイデアを供給する。「11匹の猫」を「11匹のエコ」にして上手くエコと、そして学校側の要求項目を満たす形で混ぜ込んだ。
神山がやりたいと言ってくれたので、この言葉を持って実行委員長はこれでどうだと古谷に言う。古谷も認める。

18時半になってしまい、生徒は皆下校する時刻となってしまった。今年のナイゲンも上手く収まったと皆一安心して帰っていく。実行委員長に対して、古谷と神山はねぎらいの言葉をかけて去っていく。ここで物語は終了する。

まさに青春ものの作品として面白い部分を詰め込んだような作品。文化祭の出し物に対して注ぐ情熱、学生らしい悪ふざけと大騒ぎ、そして恋愛と、この作品を観ているだけでも自分の青春を思い出したりなんかして、贅沢な観劇体験が出来た。
脚本としても非常に面白い設定だった。学校側から「節電エコアクション」をどこかのクラスが引き受けないといけないという理不尽な要求に対して、各クラスがその要求を他の人に押し付ける様はまるで社会の縮図のようだった。また議論もどんどん論点からずれていく様も滑稽で観ていて楽しかった。
ただ、古谷が最後まるでちゃぶ台をひっくり返すように反論した意図が、個人的にはあまりしっくりいかなかった。ここに関しては考察パートでしっかり触れることにする。

【写真引用元】
ステージナタリー
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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

劇中がすべて会議室と化した教室で行われるので、場面転換は全くなく飽きさせることなくハイテンポで進んでいく。
舞台装置、衣装、舞台照明、舞台音響、その他演出の順番で見ていく。

まずは舞台装置から。
舞台を北、南、西、東に分けるとすると、北側に教室の黒板と教室の出入り口があって、中央に舞台となる教室が存在し、西、東、南側はそれぞれ客席という、三方客席舞台だった。
木製のいかにも学校らしい机と椅子は全部で人数分の13席分、北側に4つの椅子と机が並べられ、西側から宮下、岡村、小日向、幡の順で座っていた。東側には3つの机が南北方向に並べられ、北から中川、谷川、大見が座っていた。南側には3つの机が並べられ、東側から神山、雛形、古谷が座っていた。西側にも3つの机が並べられ、北から仲村、木村、早舩が座っていた。
床はやはり教室を思わせる木製の黄土色に近い感じの床だった。黒板の上には時計があって、実行委員がシーンに合わせて時計を進めていた。
全体的に非常に教室らしさを再現していて好きだった。それと、この三方客席の配置がまた良かった。結構この手の客席がコの字型に配置される舞台って、観るポジションによってかなり印象が違ってくるのでネガティブな意見も多かったりするのだが、この配置だとどの席で観ても楽しめそうな気がする。そして、違った客席で観劇すればまた違ったものが観れそうでリピートする価値もありそうだった。

次に衣装。
衣装は制服かクラスTシャツかってところなのだが、その生徒のキャラクターに合わせて衣装プランがしっかり設計、反映されていて見所が沢山あって面白かった。
例えば、「3148」の谷川は非常に真面目なキャラ設定でいかにも制服をぴっしり着ている感じ、さらに1年生という感じもしっかりハマっていて良き衣装プランだった。一方で、2年・3年となると熟れてくるのでクラスTシャツを着てきてそれを着こなすあたりが似合っていた。
実行委員も、監査委員の幡はしっかり制服を着ていて、宮下は制服を着ているがちょっと胸元が解けた感じで個性を表していたり、岡村は完全に制服?クラスTシャツ?って感じの衣装が良かった。

次に舞台照明。
基本的に場面転換がないので、ベースとなり黄色い照明がずっとつけっぱなしの状態。唯一照明に変化があったのが、オープニングのキャストが登場して机を会議風に並べ替えるシーンと、実行委員長が最後に古谷に説得するシーンくらい。
まず、オープニングのシーンの照明だが、非常にポップでカラフルな照明演出で、キャストたちがてきぱきと机を並べ替える行動に合わせるかのようにチカチカと照明がカラフルに切り替わる。まさにオープニングらしい、これからワクワクすることが始まるぞ!というムードに包まれて好きだった。
ラストの実行委員長が、これでいかがですか?といわんばかりに古谷を説き伏せる時に照明がジワジワと暗くなっていくのはなるほどなと思った。この劇中で一番強調させたいシーンだったのだろうなと思う。どこか切なく味わいを感じた。

次に舞台音響。
オープニングとエンディング、カーテンコール以外は基本的に効果音や録音のみが流れた。劇中曲は一切なし。
オープニング曲は照明に合わせてポップなテンポの良い曲で好きだった。個人的にはカーテンコールでフジファブリックの「若者のすべて」が流れたのが胸アツだった。とても好きな曲であるし、ハマり曲なので。
職員室からのアナウンスも聞き取りやすくてよかった。



最後にその他演出について。
今作で一番良いと感じたのは、演劇ならではの演出が沢山見受けられたこと。演劇って画面で切り取られた部分だけが観えるのではなく、舞台全体を見渡すことが出来るので、とある人が会話している最中にも、他のキャストたちでドラマが起こっているから面白い。例えば、谷川がずっと責められている時に、宮下と仲村はずっとイチャついていたし、終始古谷は一言も喋らず黙って下を向いたままだったし。だからこそ、古谷は最後ら辺でどこかちゃぶ台返し的に何か物語の進行に大きく影響を与えるだろうと予想出来て楽しみが増す(実際、この予想は正解だった)。このように会話が繰り広げられていない部分でも物語は進んでいて、それが後になって伏線としてしっかり回収されるあたりが、演劇だからこそ感じられる面白さだと思うし、今作はその面白さを存分に活かしていた。
また、客席に「内容限定会議資料」、つまり各クラスの代表向けに与えられる会議資料が配られるのも面白い。基本観劇というものは、手元を観るより舞台上をいかに長い時間を使って観るかによって必要な情報を仕入れるイメージがあったが、たしかに会議資料に書かれている内容と照らし合わせながら舞台観劇するというのも良いものなのかもしれないと思った。ただ、私の客席は客明りが暗すぎて文字が読めなかった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/482577/1844742


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

今作に出演されているキャストはどの方も初めて演技を拝見する方ばかりだったのだが、若さも相まって皆フレッシュで熱量があって素晴らしかった。それでもってしっかりと洗練されている部分は洗練されていた。
特に印象に残ったキャストについて記載していく。

まずは、「3148」の谷川清夏さん。谷川さんは1999会という団体の主宰をやっていらっっしゃる。1999会の名前は聞いたことあったが、1999年生まれということだと思うのでまだ22〜23歳ということか。
谷川さんのあの真面目で正直な感じで且つ幼さを匂わせる演技が非常に好きだった。特に序盤で周囲から集中砲火を浴びて泣き出してしまうあたりは非常に心動かされる。そのくらいハマり役で良かった。

次に、「おばか屋敷」の大見祥太郎さん。彼が醸し出す陰キャっぷりとオタク的なキモさが絶妙に素晴らしい。谷川を狙っている感じを周囲に醸し出してくる気持ち悪さは抜群にツボだったし、客席の笑いの多くは彼が占めていたように感じた。
学生演劇の役者っていう感じがあって凄く好きだった。

「海のYeah!」の仲村陸さんの勢いといったら驚かされた。彼の後半の熱量と運動量が半端ない。あの役を出し切っている感じが観ていて気持ちよくて、後半完全に舞台に惹きつけられたのは彼のおかげだった。
小便が漏れそうだとのくだり、浮気をして宮下にブチ切れられるくだり、全てらしくてしょうもなくて好きだった。

「どさまわり」の古谷蓮さん、彼は終始無言で下を向いていて、いつ爆発するのかをずっと楽しみにしていられたのは、この脚本の素晴らしさの一つだった。そして、その期待に古谷さんはしっかり答えてくれて見事会議室のムードをクラッシュしていく感じが面白かった。
あんなクールで熱いキャラクターを自分は結構見入ってしまうのだと感じた。そしてラストに実行委員長に声をかける時に穏やかになってねぎらう感じも最高だった。

議長を務めた小日向春平さんも、ザ・議長という感じがあって好きだった。リーダーシップ性があって真面目で誠実で、ただその真面目さが時に滑稽なシチュエーションを作り出していた。完璧だった。

個人的に一番スキだったキャストが、監査委員長の幡美優さんと文化書記の宮下真実さん。
幡さんは、いかにもクールで冷徹な女子生徒という感じで、その期待を裏切らなかったのが良かった。谷川が泣きじゃくって退席しようとするのを拒んだり、仲村のトイレに行きたい騒ぎでも冷静に捌いていて面白かった。また序盤に海に誘われても行かない精神も好きだった。
宮下さんは、そのルックスが個人的にタイプだった。こんな感じの女子高生っているなとつい感じてしまうくらいリアルだった。仲村とイチャイチャする感じ、そしてブチ切れる感じ。あのちょっと浮ついている感じが本当にリアル。きっとモテてきているからあんな態度なのだろうなと感づける。素晴らしかった。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/482577/1844732


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

冒頭でも書いた通り、「ナイゲン」という戯曲が小劇場で何度も再演されている理由は良く分かったし、高校演劇の題材として使われていることも、そして小劇場の観劇者からも高評価な理由が非常に良く分かった。青春ものでストーリーも非常に分かりやすいので、たしかに初めて小劇場で観て欲しい作品はこれだとオススメ出来る。
今作を観劇して私が思った感想と、先述した古谷の行動に納得が行かなかった理由についてここでは触れる。

青春ものというのは、学校のクラスというのが登場するので群像劇になりやすく、どうしても甘酸っぱい恋愛要素も絡んでくる。今作のようにコメディ要素が強い作品もあれば、映画「左様なら」のように閉塞感溢れるシリアスな内容もある。
ただ私が感じたのはいずれにせよ、あの学校生活時代でしか味わうことのなかった過去の辛い経験が一緒に蘇ってくること。個人的にはそれは決して悪いことではなく、そこから何か新しい気づきや発見があるから辛いと感じてもポジティブに捉えている。
例えば谷川が集中砲火のごとく攻撃されて泣いてしまったシーン、同じシチュエーションではないけれど弱いものを集団でいじめて泣かせてしまうみたいなことは、実際学校生活でもあったなと思うと、今になって悪みを帯びる感じがしてくる。あとは、宮下と岡村が影で幡を変人扱いする感じ、あの雰囲気も非常にリアルなので学生時代が蘇ってきてちょっと辛い記憶が蘇ったりする。
あとはクラス内で、何か全体が不利益になるような連帯責任的な事件が起きて、誰のせいだと犯人探しする感じも、凄く今回のナイゲンに近しいものを感じて、学生時代の負の記憶が蘇ったりした。
けれども、そういったネガティブな記憶を思い出させることは悪いことではないと思っている。今は経験していないけれど、学生時代はたしかにこんな辛い思いをしていたなと振り返られれば、今をもっとしっかり生きよう、頑張ろうと思える。
また、思い起こされる学生時代の記憶は悪いものだけでない、恋愛や皆で一つのことに向かってやりきる情熱は、観ていて非常に気持ちよかったし観劇した自分も少し若返った感覚になれる。青春ものの魅力に改めて気付かされた。

しかし、私はこの脚本で一つだけ腑に落ちていないくだりがある。それは、古谷が最後に反対したことである。古谷は「ナイゲン」の原則として皆が自由にやることを勝ち取るのが文化祭なのだから、潔く学校側からの要望を受け入れちゃいけないと言う。あくまで自分たちの意志で決めたことが大事なのだと。
きっとこの作品の終盤にそのような展開を入れると言うことは、「上から降って来たことを鵜呑みにせず自主的に」というメッセージを強く反映させたかったのか、それとも伝統的なスピリッツを守るという行為の重要性を説きたかったのか色々考えられることがあるだろう。しかし、なぜあの流れだと必然的に「花鳥風月」が「節電エコアクション」をやるという流れだったのに、それを覆してまでそこを重視する行動に出たのか不自然さを感じた。

これには時代による影響もあるのかなと思っている。この戯曲が書かれたのは、2000年代前半だと記憶している。ちょっとばかし古い台本である。その頃であれば、上から言われたことを素直に従うんじゃなく自分たちのやり方を貫く、自由にやる精神を大事にするためにアイデアを出し合おうということが尊重されるのかなと思う。
しかし、今は違う。それはコロナ禍に対する演劇業界の対応の是非を考えれば分かるだろう。演劇というのは劇場に生でやってこそ初めて演劇として成り立つものだと皆主張した。その主張は今までの演劇という枠組みでの規範というか精神というかそういうものだと思う。しかし政府からは劇場を閉鎖するように求められている。もしくは無観客で配信で上演するようにと。こういった理不尽な上からの指示に対して、自分たちの今まで貫いてきた精神を全うして果たして上手くいったのだろうか。いや、上手く行かなかった。逆にオンラインによる配信をすることによって人々にエンタメを価値提供出来た者の方がその後成功した。
今作で言えば、どこかの組が「節電エコアクション」を引き受けるという理不尽な命令に対して、反骨精神むき出しで対抗するのではなく、素直に受け入れた方が良いと言うことである。
私自身が昔の価値観をよく知らず、今の価値観で生きているので、古谷の行動に違和感を感じたのかもしれない。きっと昔から演劇活動をしている方々にとっては、この古谷の行動が勇気ある意味のある行動としてポジティブな意味で心動かされるのだろう。
最終的に、「花鳥風月」の出し物に「節電エコアクション」を織り交ぜてやりたいと思わせて、古谷も渋々承認した形となった。しかしそれなら、「花鳥風月」が「節電エコアクション」をやると名乗り出た所からそんなに変わっていない気がして、ちょっと古谷が抵抗した意味を十分に理解出来なかった。

これはちょっと勝手な解釈だが、2022年版の「ナイゲン」であるならば、キャストを一新するだけでなく脚本自体も令和の思想に基づいた方が良かったかもしれない。イキウメ「関数ドミノ」がそうであるように。演劇作品は再演する度に生き続ける。時代や世相を反映して進化していく。「ナイゲン」にも次再演する機会があったら、その点を期待したいと思う。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/482577/1844741

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