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舞台 「広島ジャンゴ2022」 観劇レビュー 2022/04/29

【写真引用元】
Corich 舞台芸術!
https://stage.corich.jp/stage/119126


【写真引用元】
Corich 舞台芸術!
https://stage.corich.jp/stage/119126


公演タイトル:「広島ジャンゴ2022」
劇場:Bunkamura シアターコクーン
劇団・企画:COCOON PRODUCTION 2022
作・演出:蓬莱竜太
出演:天海祐希、鈴木亮平、野村周平、中村ゆり、土居志央梨、芋生悠、北香那、宮下今日子、池津祥子、藤井隆、仲村トオル、辰巳智秋、本折最強さとし、江原パジャマ、川面千晶、エリザベス・マリー、小野寺ずる、筑波竜一、木山廉彬、林大貴
公演期間:4/5〜4/30(東京)、5/6〜5/16(大阪)
上演時間:約170分(途中休憩20分)
作品キーワード:西部劇、広島、音楽劇、生演奏、アクション
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


劇団モダンスイマーズの座付き作家でもある、日本を代表する劇作家の一人と言ってもよい蓬莱竜太さんの作演出舞台を初観劇。
今作は2017年に蓬莱さんと広島の演劇人と共に創作した「広島ジャンゴ」を、よりフィクション性・エンターテイメント性を高めた作品としてブラッシュアップして上演されたもの。

物語は、広島の牡蠣工場が舞台。
他所の土地からやってきてこの広島の牡蠣工場で働く山本(天海祐希)は娘と2人で暮らしていて仕事以外の時間は家族を優先したかった。
しかし、工場のシフト担当の木村(鈴木亮平)らには懇親会に参加するよう促されていたため、家族を優先する山本をノリの悪い奴だとみなされて職場で孤立していた。
木村自身も仕事関係で悩んで自殺した姉のみどり(土居志央梨)のことがあったため、心のうちでは山本を追い詰めたくはなかった。
木村は勧善懲悪なクリント・イーストウッドの西部劇が大好きで、この世の中も正義が悪をやっつけて弱者を救うことが出来たらと願っていた。
そんな時、木村はふと目が覚めると西部の町「ヒロシマ」にいてディカプリオという馬になっていた。
そこへジャンゴ(天海祐希)とケイ(芋生悠)という親子のガンマンも現れ、原因不明の水不足に陥った町を牛耳るティム(仲村トオル)と対峙することになるというもの。

あらすじの通り広島の牡蠣工場という地方の職場のリアルを描くシーンと、西部劇のようなシーンと2つ存在するが、牡蠣工場のシーンは本当に日本社会のネガティブな側面が押し出された感じで観劇していて私は胸が痛かった。
一方で、西部劇のシーンは演出はベタだったけれど個人的にはとても楽しめた。
特に銃撃戦のシーンは発泡音など再現度が高くて迫力があった。

あとはキャスト陣が豪華な上皆演技が素晴らしかった。
ディカプリオという馬の役をしていた鈴木亮平さんは、ラップ調で世知辛さを熱唱するシーンがあるのだが本当に最高だった上、とても心優しい役でだから周囲の登場人物には馬鹿にされてしまう感じが非常にらしくて面白かった。
西部の町を牛耳るボスのティム役を演じた仲村トオルさんはとにかく格好良い、非常にガンマン姿が似合っていた。
小娘のエリカ役の北香那さんも健気で魅力的だった。

演出が結構あざとかったので、普段の抽象劇に慣れている方は苦手に思うかもしれない。
しかし脚本も非常に分かりやすいので、特に観劇初心者などには広くオススメ出来る作品だと感じた。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/472627/1796414


【鑑賞動機】

まず情報解禁された時に公演タイトルとフライヤーデザインに惹かれて興味を抱いた。そして調べてみると、作演出があの劇団モダンスイマーズの蓬莱竜太さんであり、キャスト陣も天海祐希さん、鈴木亮平さん、仲村トオルさん、藤井隆さん、芋生悠さんなどと非常に豪華だったので迷わず観劇しようと決めた。
モダンスイマーズは、直近だと「だからビリーは東京で」が非常に評判が良かったので、初めての蓬莱さん作品観劇ということで楽しみにしていた。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

広島の牡蠣工場、そこでは工場長の橘(仲村トオル)の元多くの従業員たちが働いていた。シフト担当には木村(鈴木亮平)がいて工場長の橘の元忠実に働いていた。そこに新入りのパートタイマーの山本(天海祐希)がいた。彼女は広島ではなく他所の土地からやってきたらしく、なかなか職場の雰囲気に馴染めずにただ黙々と仕事をしていた。
従業員たちは皆広島カープファンで、懇親会として時間外でみんなで広島カープを応援しようという。ボーナスも出るらしい。木村は山本にも懇親会に参加するよう声をかけるが、山本は娘との時間を大切にしたいらしく懇親会の出席を断る。それだけではなく、他の職場の人間が話しかけても手を止めて会話をしてくれない山本。職場の人々はそんな空気の読めない山本と距離を置いていた。同じ職場に勤める沢田サツキ(中村ゆり)も自分だって子供がいると言う。
懇親会は愚か残業すらしないで帰宅をする山本、そして呆れる木村。木村は家に帰って大好きなクリント・イーストウッドの西部劇映画を観ていた。正義が邪悪な輩を倒して弱者を助ける、そんな西部劇みたいな状況が現実でもあって欲しいと願う木村。そこへ亡くなった姉のみどり(土居志央梨)が現れる。みどりに対して木村は、山本の愚痴を言ってしまう。

西部劇を観ながら眠りに落ちていた木村は、ふと目を覚ますとディカプリオという馬になっていた。そこへ山本がガンマンの姿で現れる。ディカプリオが山本へ話しかけると彼女は自分はジャンゴであると名乗り、遠く東部からこの西部の町「ヒロシマ」へやってきたのだと言う。ジャンゴには娘のケイ(芋生悠)も一緒にいた。ディカプリオは広島から西部の町「ヒロシマ」に転生(言い方正しいのか?)していた。

オープニング

「ヒロシマ」の酒場と娼館を兼ね備えた店ではドリー(宮下今日子)が経営しており、今日も男たちが酒を飲んで浮かれていた。そこへエリカ(北香那)というお嬢もいて、男たちのうちの一人であるクリス(野村周平)はエリカのことを可愛い可愛いといって体目的で近づこうとしていた。エリカは必死に拒絶していて助けを求めていた。
そこへジャンゴとケイが酒場にやってくる。ジャンゴはエリカへの性的脅迫をやめるようにクリスに言って、エリカを助ける。ジャンゴは彼らからどこから来たかと尋ねるが、東部から来たと答える。
そこへ「ヒロシマ」を統治するティム(仲村トオル)がやってくる。ティムは酒場に対して水税をしっかり納めるよう忠告する。今この町は水不足が深刻で、水を使うこと自体が非常に贅沢なこととされていた。

ジャンゴとケイとディカプリオは、ジャンゴが助けたエリカの家へ向かう。エリカは自分をジャンゴたちが助けてくれたと父親のチャーリー(藤井隆)とマリア(中村ゆり)に紹介する。
チャーリーは、この町が今水不足に陥っているため、なんとか町の人のためになろうと必死で井戸を掘って水源を確保しようとしている男だった。
ディカプリオは馬だからという理由で外で雨水を無理やり飲まされている一方で、エリカの家の中ではジャンゴとケイがおもてなしされていた。特にケイはエリカと年が近かったためすぐに友達になった。今日はエリカの誕生日だったため、皆で彼女の誕生日を祝った。
しかしジャンゴは、今日はエリカの家には泊まらずに帰ると言い出す。チャーリーたちはせめてケイだけでもこの家に泊まらせてあげてはどうかと進言する。

ディカプリオは一人で今の心境を熱唱し、酒場では男たちや娼婦たちが踊る。

しかし、悲劇が起きてしまう。チャーリー一家の家が何者かによって放火され全焼し財産を失う。またチャーリーが掘り続けてきた井戸も、何者かによってめちゃめちゃにされていた。しかしこの犯人は「ヒロシマ」を牛耳るティムとその手下たちの仕業だと確信する。

ここで幕間に入る。

山本は高校生の娘のケイと2人で買い物をしていた。ケイの父親はもういないらしく親子2人で細々と暮らす様子が伺える。

家財を失ったマリアはドリーの酒場で娼婦として働き始めていた。店の前で客引きをするマリアだったが、そこへ水を売りにきたチャーリーと出会ってしまい、マリアになんで客引きなんかやっているのだと叱られビンタされる。チャーリーとマリアは喧嘩し始める。
そんな夫婦喧嘩に耐えかねて、エリカはケイと一緒に2人で時間を過ごしていた。エリカは歌を歌っていた、その時クリスがやってきた。クリスはエリカを狙って馬乗りになって苦しめていた。友達がひどい仕打ちに遭っている光景に耐えられずケイは発砲してクリスを撃ってしまった。

振り返れば、ケイは自分の父親も射殺していた。ケイの父親であるショーン(本折最強さとし)は母親のジャンゴとケイへの家庭内暴力が酷かった。母親のジャンゴに対するショーンの暴力に耐えかねて銃を発砲してしまいショーンを殺してしまったのはケイだった。
ケイはティムの手下たちに捕まり死刑が下された。ケイはティムの手下たちによって首吊ロープの元まで案内される。エリカは彼女は悪くないと必死で訴える。ケイが首吊ロープの元まで来たその時、ジャンゴが現れショーンを殺したのは私だと言う。だからケイに罪はないと訴える。
ジャンゴの必死な訴えに答え、ティムはたしかにケイを死刑にすることはないと判断する。そして、いかに自分が「ヒロシマ」の町のために水不足を解消しようと務めてきたかを語り出す。手下たちに井戸を掘らせて既にそれによって17人もの犠牲が出ていると。町の連中は水不足だと言うのに呑気に浮かれていて、それよりも町をなんとかしようと行動している自分たちの方が、亡くなった17人の犠牲者たちも含めてよっぽど立派ではないかと。

木村の元にみどりが現れる。みどりは木村の前で見せる様子と職場での様子は随分違ったと話す。みどりは仕事が激務でメイクもままならないまま仕事に向かった時もあったので、職場の人間からいつも「女子力w」みたいなことを言われていた。
ある日、今日は20分昼休憩が取れると喜べた日があった。しかし、すぐに職場の先輩から昼飯としてあれ買ってこいこれ買ってこい言われてパシられることになった。全部手にメモしたものの、コンビニに着いた時には水性ペンで書いたせいで消えてしまっていた。あと十数分しか昼休憩がない。みどりは疲れ果てていた。
木村の職場にいる山本にも職場で同じ辛い目はさせるなよと言わんばかりに、みどりは消えていく。

木村が目を覚ますと、そこにはジャンゴとケイがいた。ジャンゴは近くで水がダムのように堰き止めらている光景を発見する。これはティムが川の水を堰き止めて町を水不足に陥れることによって、水税というあくどい手口で金儲けしているに違いないとジャンゴは悟る。
ジャンゴとケイはディカプリオに乗って、ティムを成敗しようと酒場へ向かうことになる。

酒場でいよいよジャンゴはティムと対決することになる。そこにはクリスも現れて彼は実際のところ死んでなかったことが発覚する。
ジャンゴ、ケイとティム率いる男たちの激しい銃撃戦が始まる。銃撃戦の最中、ディカプリオはずっと熱唱している。
ついにジャンゴはクリスとティムを射殺する。

現実世界の広島に戻る。木村は山本に懇親会に出席するか否かもう一度尋ねる。山本は娘のケイとの時間を大事にしたいため懇親会を欠席する旨を伝える。木村は今までの態度とは打って変わって、山本の懇親会に欠席するという決断を容認することにする。
その様子を見た沢田サツキもそれなら家も欠席すると言い出す。橘は木村に対して、これは実に素晴らしい発想ではないかと言い捨てて去っていく。

その後、木村と山本は2人でひっそりと仕事しながら話す。山本は木村に対して、このままではクビになってしまいますよと言う。しかし木村はこの決断で良かったと言う。山本の娘のケイは獣医になりたいらしく、その理由を聞くと馬を世話したいからだと言う。木村はハッとする。ここで上演は終了する。

ストーリーは単純で、社会人を経験したことのある人なら誰もが木村や山本の気持ちに共感出来る物語だったのではないかと思う。特にみどりのエピソードは非常に具体的だったので、ホロリと泣けてしまうくらい刺さる内容だった。
あとはなんといっても「ヒロシマ」で起こる数々のエピソードも面白かった。チャーリー一家の幸せそうなエピソードを目の当たりにして心温まる場面もあれば、チャーリー一家が家財を失ってどん底に落ちたシーンでは衝撃で心が動かされた。そして銃撃戦はもはやエンターテイメントだった。
みどりという木村の姉の存在の優しさも非常に感じられる。木村が職場の対応で悩んでいた時に、彼が好きなクリント・イーストウッド映画の世界を使って、西部劇で木村を鼓舞するような世界を上手く創り出してくれたんじゃないかなと思う。そしてそれは、なんといっても山本を助けることにも繋がってみどりは素敵な人だったと感じた。
そしてやはりメッセージ性が非常に令和的というか、仕事はほどほどにしてプライベートも大事にしようという主張にも最終的に捉えられるので、この考え方は非常に今の働き方に近い価値観でもあって、多くの人に刺さる内容だと思った。


【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/472627/1796415


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

演出はとてもベタだったけれど、非常に豪華な舞台美術そして世界観だった。
舞台装置、衣装、照明、音響、その他演出についてみていく。

まずは舞台装置から。
舞台上にどっしりと置かれているのは、下手側に階段のついた歩道橋のような2階くらいの高さに通路のようなものがついた装置。こちらの舞台装置を使って、ケイが死刑にされる時の首吊ロープが吊り下げられた死刑台とされたり、過去の回想シーン、例えばショーンとジャンゴとケイのシーンもこちらが使われた。
舞台上の1階部分、つまり歩道橋のような舞台装置でないエリアは、酒場兼娼館として使われたり、チャーリー一家の屋敷として使われたり、あとは牡蠣工場の職場として使われたりした。酒場として使われる時は、上手側にカウンターとなる長いテーブルみたいなものが用意されていた記憶。また、それ以外にも個別に4人がけのテーブルと椅子がいくつかあったと思われる。
さらに上手奥には、牡蠣工場で使われる歯車のような機構が設置されていた。たしか銃撃戦のシーンではこの歯車は動いていた。
あとは、ケイがクリスを発砲した時に檻に捕まってしまう場面があるのだが、その時に天井から四角いボックスのような檻が降りてきて、それが牢屋に見えたり牡蠣工場で使用される工具に見えたりした。
全体的に非常に手の混んだ豪華な舞台セットだった。

次に衣装。
広島の牡蠣工場シーンでの作業服、広島カープファンとしての応援着と、西部劇中の小洒落たガンマン衣装のギャップが全体的に非常に良かった。
特に天海祐希さんはガンマンの姿が非常に似合っていて格好良かった。観劇する前から予想はしていたが、想像どおり格好良かった。
芋生悠さんのセーラー服姿とガンマン衣装姿のギャップもどちらも似合っていて好きだった。私が観劇した客席が舞台から結構遠かったので、もっと近くで観たかったと思った。
個人的には、エリカのお嬢姿の衣装も好きだった。なんとなく赤毛のアン的な服装か?白くてアメリカの女性らしい衣装に可愛らしさを感じた。
そしてティム役を演じた仲村トオルさんのクールで格好良い衣装も好きだった。全体的に黒っぽくてシュッとしていて格好良かった。
ディカプリオの馬の被り物も好きだった。鈴木亮平さんらしいというか、鈴木さんだからこそ務まる感じの衣装で似合っていた。

次に舞台照明について。
凄く印象に残っているのは、ディカプリオが熱唱しているシーンで舞台上では役者たちはダンスを踊り、そのダンスに合わせて照明がディスコのように白いスポットが動きながら舞台上を照らしていたこと。非常にエンターテイメント性の高さを見せられた演出だった。
照明ではないのだが、「ヒロシマ」の酒場のシーンで歩道橋のような舞台装置に取り付けられていたロウソクのような灯りが雰囲気を良い感じに出していて好きだった。西部劇を思わせる非常に印象的な演出だった。
舞台背後のスクリーンが鮮やかな色でカラフルに変わる演出も素敵だった。まさに西部劇を思わせるような鮮やかなオレンジになったり、序盤のシーンでは牡蠣工場は海辺ということで薄い青色だったりと。
また、物語後半でみどりが木村に対して自分が職場で苦しんでいたエピソードを語る時に、背後のスクリーンがまるで星空のように沢山の小さな照明で点々と照らされていた演出も凄く印象的だった。

次に舞台音響について。
西部劇っぽい音楽がガンガン流れるのかと思いきやそうではなく、もちろん音楽は多めだったのだが、印象に残っているのはディカプリオが熱唱するラップや歌謡曲。西部劇っぽさというよりは昭和の歌謡曲っぽさを感じる。
劇中に流れるBGMも多めで、ちょっとベタ過ぎないかと思わせるくらいシーンごとに悲しいシーンでは悲しめな曲、心温まるシーンでは心温まる曲が流れていた。まるでテレビドラマのようだった。
あとは発砲音は本当に迫力があって凄かった。そこは効果音としてスピーカーで流さず、実際に発砲させているから迫力が違う。東宝ミュージカルの「レ・ミゼラブル」でも銃撃戦のシーンで生音を使って銃の音を出していたが、それに続くくらいの迫力が今作にもあった。そして実際に発砲音がして、役者の服装にまるで弾丸が当たったように服が破けて倒れていくから、本物の銃撃戦が行われているように見えるから素晴らしい。非常に手抜かりのない演出だった。
そして、なんといっても舞台下手側に常にスタンバっているバンド奏者たちによる生演奏も非常に迫力があって好きだった。ディカプリオが熱唱するシーンでの演奏も素晴らしかったし、銃撃戦でのバンド演奏の迫力も素晴らしかったのだが、個人的に印象に残る演出は、ティムがいかに自分が町のために水不足を解消しようと務めているのかを17人の犠牲者の存在をあげて説明する時にドラムロールが使われていたこと。ちょっとあまり見かけない演出だったので良いか悪いかは分からないが印象に残った。きっとティム役を演じる仲村トオルさんは、このドラムロールに煽られることで気持ちもどんどん高まっていったのだろうと思う。
また序盤に登場したヒロシマカープの応援ソングを生演奏でやるのも非常に心躍らされた。野球応援に来ている感じにさせられたのが好きだった。

最後にその他演出について。
広島の牡蠣工場のシーンでは広島弁が使われていたのだと思うが、方言を使った舞台作品というのも非常に良いなと感じた。小松台東の「デンギョー!」を観劇した時に聞いた宮崎弁や、玉田企画の「夏の砂の上」を観劇した時に聞いた長崎弁もそうだが、方言を聞くだけで一気に日本のローカルっぽさを伺えて好きになれた。
あとは、チャーリー家が家事になってしまった時の演出も好きだった。舞台の上手からそして下手からスモークマシーンのようなもので煙を立たせて、舞台上が煙で包まれる演出も良かった。
総じて、今作はやはり舞台美術・演出に非常に力が入っていて個人的には好きだった。音楽のかけ方に関してはベタ過ぎる部分も見られたが、だからこそテレビドラマの延長線上で楽しめる舞台作品だったと思うので、観劇初心者にも親しみやすい舞台作品だったのではないかと個人的には感じた。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/472627/1796416


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

豪華なキャストばかりの公演だったが、実はほとんどのキャストは今回が初見だった。
特筆したいキャストに絞って紹介していく。

まずは主人公である広島では山本というパートタイマーの山本と、「ヒロシマ」ではジャンゴ役を演じた天海祐希さん。個人的には、天海祐希さんは2005年に日テレで放送されていた「女王の教室」の印象が強く、格好良く逞しい宝塚出身の女優という印象。
そして今回の役も非常に天海さんの格好良さが際立った役だったのだが、個人的には少し意外だった点もある。どういった点が意外だったかというと、このジャンゴないし山本というキャラクター性が、明るいキャラクターではなく人と絡むことを得意としない、いわゆる陰キャだったことである。陰キャをやるタイプに天海さんは見えなかったので、あまり存在感を出さない天海さんってこんな感じなのかと色々天海さんのイメージでない部分が垣間見られた。
しかし、特に銃撃戦のシーンではティムと決闘する姿は本当に格好良かった。また非常に娘のケイに対する愛情も感じられる部分が好きだった。露骨には出さないけれど娘を守ろうとする姿勢が格好良かった。

次にもう一人の主人公である、広島ではシフト担当の木村役、「ヒロシマ」では馬のディカプリオ役を演じた鈴木亮平さん。鈴木さんの演技を生で拝見するのも初めてだったのだが、こちらは非常にイメージ通りだった。
どうイメージ通りだったかと言うと、鈴木さんの心優しい姿が溢れて、周囲からバカにされる感じが非常にツボでもあり、そして非常に似合っていたから。客席からの笑いも基本的にはこの鈴木さんの役作りから来ていた気がする。
ディカプリオという馬役がまずギャグのようで、馬だから雨水飲んでろ!とかかなり他の登場人物から雑に扱われている感じが滑稽だった。
そして何と言っても鈴木さんの熱唱が聞けて最高だった。あの心から気持が伝わってくるあの感じが凄く身にじんわり染みてきて好きだった。

広島では工場長の橘役であり、「ヒロシマ」ではティム役を演じた仲村トオルさんも素晴らしかった。
黒いガンマン衣装をシュッと着こなして、クールに構えている姿が非常に格好良かった。仲村さんはこういう悪役がとても似合うと思った。
歩道橋のような舞台装置の上から見下ろすような形で下の光景を眺めていたり、銃の構え方も非常にクールでさぞファンも多いのだろうなと思う。
鈴木さんが演じるキャラクター性とは対照的なので、非常にこのクールさが目立って見えた気がする。

今作で一番魅力的に感じたキャストは、エリカ役を演じた北香那さん。北さんは舞台や映画等で幅広く活躍されているが、私自身は今回の観劇が初めての拝見。
まず声が小鳥のようで非常に清らかで透き通っていた。その声を聞くだけでこちら側は良い気持ちにさせられるくらいだった。
また育ちの良さを感じられるキャラクター設定が非常に感じられて良かった。演技一つ一つが上品といった感じ。チャーリーとマリアの元で育った子なので純粋なお嬢様といった感じが凄く素敵だった。
それと歌声も一部披露されるシーンがあったが素敵だった。

山本・ジャンゴの娘であり、エリカの友達でもあったケイ役を演じた芋生悠さんも良かった。芋生さんは映画「左様なら」といった映像で拝見したことがあって、非常に魅力的な女優さんだなと思っていたが、生で演技を拝見するのは今回が初めて。
芋生さんは落ち着いた女性を演じるのが非常に上手い。今回の役も母親の山本・ジャンゴと似ていて、非常に落ち着いた感じのおとなしい女性を演じていた。でもそこにはしっかりとした芯の強さがあって、というか死刑になった時にそれを受け入れようとする強さなのだけれど、それはきっと父親を失っているからという強さんだろうなと思った。
エリカとケイは仲の良い友だちであるが非常に対照的。エリカは幸せな家庭でのびのびと育ったが、ケイは家庭環境が恵まれていなかった。だからこその落ち着きと強さを凄く感じられて、そしてそれが芋生さんはぴったりとハマっていて良かった。

最後は、沢田夫婦であり、チャーリーを演じた藤井隆さんと、マリアを演じた中村ゆりさんも良かった。凄く幸せそうな夫婦に見えるから。それは登場した瞬間で感じられたから。
でも、物語後半に差し掛かるとチャーリーは家も掘り進めていた井戸も失ってしまう。そして幸せだった家庭は崩壊するのだが、そんな状況になってしまってチャーリーとマリアが喧嘩してしまうシーンは、非常に切なく思えた。
特にマリアが娼婦になって働いているというのもショックだった。そういった意味で、良い意味で心を動かされた夫婦だったと思っている。

【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/472627/1796417


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今回の舞台作品は、非常にエンターテイメント性が高くて且つストーリーも今の日本を生きる私たちなら誰もが共感出来るような、そして分かりやすい内容で作られているので、初めて舞台観劇したという人にとってもとっつきやすかったのではと思う。
ここでは、この作品を観劇して私が感じた感想をつらつらと書いていこうと思う。

まず舞台作品に西部劇要素を持ち込むって非常に新しくて素敵だなと思った。私はあまり西部劇を映画で観たことがなく、観たことがあるのはクエンティン・タランティーノ監督の「ジャンゴ 繋がれざる者」くらいである。
木村が想像していたように、西部劇は正義を貫く者が悪を倒して弱者たちを救出するという、分かりやすい勧善懲悪の作風だというイメージもなかったが、実際はそうなのだろう。調べてみたら、クリント・イーストウッドの「許されざる者」という西部劇映画が、正義の戦いを描いたストーリーらしいので、木村が好きだったのはこの「許されざる者」だったのかもしれない。
なぜこういった西部劇が好きになるかって言ったら、悪者を正義が倒して弱者を救うからなんだろう。とても単純明快でハッピーエンドな内容だからだと思う。

しかし、今の日本の社会はこんな単純なことがまかり通る世の中ではない。特に地方といった田舎では、周囲に合わせて行動するということに一番重きを置くことも多多あるだろう。その一例が、この作品でも登場するみんなで広島カープを応援しようだったりするのだろう。
環境に馴染めない弱者を守ることが正義にはなれない世の中。そんな世知辛さに木村は悩み続けていたのだろう。実際姉のみどりが職業の悩み関係で生命を絶っているから。
この作品からは、正しくはないし弱者を苦しめることになるけれど、そうせざるを得ないという世知辛さをヒシヒシと感じる。

この物語のラスト、木村は山本に寄り添う方へ行動を起こす。非常に勇気のいることだと思う。私なら出来ない。
でもそうしたことによって、最後木村は山本と少し会話が出来たように思える。山本の話を少し聞くことが出来たと思う。例えば、娘が獣医になりたがっていて馬を世話するのが好きだとか。

間違っていることを間違っていると主張したり、正しいと思うことを貫こうとすることは非常に勇気のいることである。しかし今回の作品を観劇して、自分もいつも逃げてばかりいないで、少しは立ち向かう姿勢とその勇気も必要なんじゃないかと感じた。
どうしても正しくないと分かっていても、逃げてしまった方が楽になることは沢山あるし逃げてしまいがちである。でもこの作品を観劇したことで、西部劇は木村を勇気づけ、木村は私を勇気づけてくれた気がするので、何か立ち向かわなければいけないと感じた時は、この作品を思い返そうと思う。

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