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舞台 「夜から夜まで」 観劇レビュー 2021/05/15

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428047/1558793

公演タイトル:「夜から夜まで」
劇団:劇団競泳水着
劇場:下北沢駅前劇場
脚本・演出:上野友之
出演:江益凛、倉田大輔、飯阪翔、以織、太田旭紀、古川さら、篠原彩、谷田部美咲、加茂井彩音、佐藤美輝、松尾太稀、竹田百花(声)
公演期間:5/12〜5/16(東京)
上演時間:約120分
作品キーワード:恋愛、群像劇、日常、コロナ
個人満足度:★★★★★★☆☆☆☆


上野友之さんが主宰する劇団競泳水着の公演を初観劇。
劇団競泳水着は、恋愛群像劇をテーマに様々な角度から現代の人間関係を描く物語を創り上げている。
そして今作は劇団として約5年ぶりの本公演ということもあり観劇した。

今作のテーマは、このご時世だからこそ刺さるコロナ禍におけるグズグズな恋愛群像劇。
彼女と彼との距離感はコロナ禍で会えないための距離感なのか、それともこの距離感こそがコロナ禍なんて関係なく現状の距離感そのものなのか。
コロナ禍だからこそ相手の気持ちを確かめにくい、だからこそもどかしい、そんな状況をリアルに描いた作品として素晴らしかった。

ただ、個人的には途中中弛みしている感じがして、中盤の谷田部美咲さんが演じる"あかり"と、加茂井彩音さんが演じる"千春"のシーンや、倉田大輔さんが演じる"祐平"とデリヘル嬢のシーンはちょっと蛇足感があって、あまり上手くメインストーリーに絡められていない気がした上、もっと演出面においてもやりようがあったような気もした。

キャスト陣は皆素晴らしくて、特に主演女優の"三並咲"を演じた江益凛さんの演技は本当に素晴らしくて、終盤の酔っ払って自暴自棄になった演技は今作の一番の見所だと思う。
また、個人的には助演女優の"穂村あかり"を演じた谷田部美咲さんの演技も好きで、友達思いな女性の役が凄くリアリティあって好きだった。

劇中の音楽や照明も凄く心地が良かったので、大人の恋愛作品が好きな人にはオススメしたい作品。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428047/1590870


【鑑賞動機】

劇団が決めて。以前から恋愛群像劇を主体とする劇団競泳水着という名前は聞いたことがあったので気になっていた。そして今回は約5年ぶりの本公演ということで観劇することにした。
キャストも、江益凛さんをimg未来手帳チャンネルというYouTubeチャンネルでTHE FIRST ACTというワンカット撮りの即興芝居を拝見して知っていたり、谷田部美咲さんは五反田団の「いきしたい」で演技を拝見したことがあったので、馴染みのある女優が沢山いたという理由もある。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

"三並咲"(江益凛)27歳は現在彼氏はいないが、彼女持ちで体の関係だけで繋がっているようなフリーライターの"田畑祐平"(倉田大輔)と定期的に会っては夜を共にしていた。"咲"の友人の"尾之上朋子"(以織)には、定職にも就いていない彼女持ちの"祐平"と会うことを止めて本気で結婚相手を探した方が良いとアドバイスされる。そんな"朋子"は、最近スポーツクラブで知り合ったイケメントレーナーの"藤堂陸"(飯阪翔)と仲良くなっていた、"朋子"には"尾之上尚也"(太田旭紀)という夫がいるのも関わらず。

"咲"は定職にも就かない"祐平"に対して冷たく接し距離を置くようになる。同じタイミングで、"咲"も"朋子"が話していたスポーツクラブに行くことに決め、"陸"からエクササイズについてレクチャーを受ける。"咲"は"陸"が年下であることを知って最初は興味を抱いていなかったが、帰宅しようとしていたバスの停留所でばったり二人は遭遇し、ひょんなことから二人で居酒屋へ行ったりかき氷を食べたり楽しんでしまった。
さらに、"咲"は"朋子"が最近は"陸"への興味を失い始めているため、"陸"と付き合ってみたらのような進言をしたことが後押しとなって、何も遠慮することはなく"咲"と"陸"は付き合うことになる。
こうして"咲"と"陸"は、バスの停留所でキスをしたりと二人の楽しい一時を過ごす。


一方、"祐平"は"咲"からも距離を置かれ、それまで彼女だった"穂村あかり"(谷田部美咲)にも振られて寂しい思いをしていた。
久しぶりに"祐平"は"あかり"に連絡して二人で飲むことになる。"あかり"は既婚者で既にお腹に赤子が授かっていた。"祐平"はしどろもどろになりながら、お互いの近況の報告をし合おうと距離を近づけようとするが、"あかり"はもう結婚してしまっているので"祐平"に対して冷たい態度を取り続ける。
2020年春になったある日、"祐平"が一人でいる所に"あかり"が真剣そうな顔して飛び込んでくる。どうやら"あかり"の友人の"長谷川千春"(加茂井彩音)と連絡が取れなくなってしまった様だった。
"あかり"と"千春"はネットを通じて出会い、お互い「まどマギ」が大好きだったことから一緒に映画館で劇場版を観に行ったことからリアル友達となっていった。

コロナ禍に差し掛かって私生活に大きな変化があったためとも考えられるので、兎に角"あかり"は"千春"の家を訪ねてみることにした。"祐平"もそれについていくことになる。
"あかり"が"千春"のアパートのチャイムを押しても反応がない。しかし、UberEatsの配達員(松尾太稀)が"千春"の家へ宅配に来たことによって居留守であることが分かる。"千春"が生存していることを確認した"あかり"は帰ろうとしたその時、玄関の扉が開いて"千春"が顔を出す。"千春"はパジャマ姿でずっと自宅に引きこもっている様子だった。
そのまま"千春"の家へ上がる"あかり"と"祐平"。どうやら"千春"は以前勤めていたウェディングプランナーの会社がコロナ禍で倒産してしまい、無職となって家に引き籠もっていたようだった。しかし、"千春"は"あかり"の姿を見て元気を取り戻した様で、その後電話で"あかり"と会話したり、YouTuberを始めて趣味について発信していったりと活動的になる。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428047/1590869


その頃、"咲"はコロナ禍に入ってから"陸"との間に距離感を感じるようになったと相談の電話を"朋子"に入れていた。"朋子"が以前"陸"と良い感じだった頃は"咲"の今のような状況になったことはなく、頻繁に会って性行為をしていたことを伝える。でも"朋子"が"陸"と関係性があった時はコロナ禍以前の話なので、コロナ禍だったら自分も"咲"と同じような状況だったのかもと言うが、"咲"は"朋子"の"陸"との以前の関係性を聞いて不安になる。

一方、"祐平"は風俗へ連絡をしてホテルでデリヘル嬢を待つ。そこへ"じゅり"(佐藤美輝)というデリヘル嬢が"祐平"の元へ現れる。"祐平"は"じゅり"と2時間ホテルで死過ごすが、気持ちが入らなかった。そのため、医師に相談して性欲剤を購入する。


"咲"と"朋子"、そして"祐平"は、コロナ禍で延期になっていた友人の"清水ゆい"(篠原彩)の結婚披露宴に呼ばれ、久々に会うことになる。
"咲"は"ゆい"の結婚披露宴に出かける準備をするためにおめかしをし、その美しい姿でオンラインで"陸"にプロポーズしようと考えていた。その直前、"祐平"から電話で連絡があり「"ゆい"の結婚披露宴出席する?一緒に行かない?」的なことを言われるが冷たく追い払う。
"咲"は恥ずかしそうにプロポーズの一言を言おう言おうとして躊躇しているが、その言葉を発する前に"陸"から別れて欲しいと告げられる。理由は好きな人が出来たからだと言う。そしてその女性はなんと"朋子"だった。"陸"と"朋子"は"咲"が"陸"に会えていない間縒りを戻していた。
"咲"はショックを受けた状態で"ゆい"の結婚披露宴へと向かう。

"咲"は披露宴でスパークリング?をがぶ飲みして泥酔していた。そして披露宴終了後、"咲"と"朋子"がばったり出会う。緊張感のある空気が漂う。"朋子"は"咲"に対して非常に申し訳ないことをしたというような面持ちで、ずっと下を向いていた。
そこへ"祐平"がやってくる。"朋子"は立ち去る。"咲"はこの怒りを全て"祐平"にぶつける。「お前が私と付き合っていたらこんなことにはならなかったんだ」と。お互いマスクを付けて罵声する。
"祐平"は一人になると、披露宴のスタッフの女性に声をかけられそれがデリヘル嬢の"じゅり"であることに気がつく。


"祐平"は再び"じゅり"を指名してホテルで時間を過ごそうとするが、"咲"のことが心配で頭がいっぱいだった。そして途中でやっぱりここで終了でと呟く。"じゅり"は「私は保育士の資格を取ろうと勉強しつつ、自宅から遠い学校にも通って大変で、今日を楽しみにしていたのに。」と愚痴を呟いて去っていく。
"祐平"は"咲"に連絡して会う。そして今までのことはすまなかったと謝罪して良い感じになりキスをする瞬間で暗転して物語は終了。


本当にドロドロした人間関係というか、特に"祐平"には苛立ちを感じながらずっと観劇していた。
コロナ禍というタイムリーな問題を扱いながら恋愛を描くという新鮮さは素晴らしかった。"咲"は"朋子"にも相談したりして凄く不安だったと思うけど、"陸"は自分のことを好きでいてくれるだろう、きっとコロナ禍のせいで距離感があるのだろうとポジティブに捉えた結果がこれで、コロナ禍だからこそ受けた恋愛に関するショックみたいなものが非常に刺さった。"咲"は非常に悲劇のヒロインに見えてきて、凄く好感を持つことが出来た。
また、"あかり"と"千春"の関係性も好きだった。"あかり"の友達思いで人間としての素晴らしさを凄く感じられた。自分は友達のことをここまで思って行動は出来ないなと思ってしまった。凄く心が動かされた。
ただ、今回のメインテーマとして"咲"の恋愛問題と"あかり"の周囲で起きた問題の2つがあって、その2つがちょっとバランスが悪かったというと書き方が悪いのだが、凄くある数十分は"咲"によっていて、ある時間は"あかり"に寄っているみたいな感じで、もっと同時進行で描けると群像劇として綺麗だった気がする。その2つの人間関係を描く必然性とかをもっと観客として観ている側に伝わりやすくしてくれた方が有り難かった。
さらに言ってしまえば、上のストーリーで描いてはいないが、"尾之上尚也"と"有坂寿々美"の漫画家同士の関係が登場回数少ない上に希薄で、蛇足に感じてしまった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428047/1590863


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

世界観ままるで幻を観ているかのようなロマンチックで朧げな雰囲気があって素晴らしかった。凄く心地よくなるような空気感で、これは配信ではなく生観劇でないと堪能出来ない醍醐味だろう。舞台装置、照明、音響、その他演出の順に触れていく。

まずは舞台装置。ステージとしては全体的に割と背の高めな平台が敷かれていて、その上で演技がなされているのだが、下手側、中央、上手側で3つのステージに分離されている感じ。
まず下手側には丸い机と椅子が複数置かれていて、主に"尾之上尚也"と"有坂寿々美"の漫画家同士の談話がここで行われていた。また、"陸"のスポーツクラブのオンラインエクササイズもここで行われていた。また、下手側の手前には平台が置かれていないスペースが存在して、そこはバスの停留所として使われ、"陸"と"咲"が距離を縮めるシーンや、"祐平"の元に"あかり"が飛び込んでくる("千春"との連絡が取れなくなったとの理由で)シーンが披露される。
次に中央にはベンチが一つ置かれている。ここでは主に"咲"と"祐平"の二人の会話が描かれたり、"祐平"と"じゅり"のホテルでの内容が演じられたりしていた。
一番上手側には、やはり丸い背の高いテーブルと、2つのハイスツール(背の高いバーでよく見かけられる椅子)が置かれており、ここでは主にバーや居酒屋でのシーン("陸"と"咲"の初デートや、"祐平"と"あかり"の久々の再会)が描かれたり、"祐平"が医師に診断してもらって性欲剤を処方してもらえるシーンが描かれていた。さらに、その奥にはでハケが一つあって、そこを"千春"の自宅の玄関と捉えて"あかり"と"千春"のシーンも演じられていた。
舞台全体の雰囲気で言えば、パネルが全体的に白く塗られているので個人的には若干寂しい感じもしたが、照明が当たると凄く舞台美術が映えるのでこれもアリなんだと思った。また、舞台全体が非常に清潔感あって綺麗な印象を受けたので、それだけでもストーリーに没入出来る感覚を受けた。

次に照明、タイトルが「夜から夜まで」ということもあり、全体的に夜を想起させる青い照明がベースとなっている印象。だからこそ物凄く世界観全体がロマンチックで幻想的な印象を受けた。非常に素晴らしい演出。さらに後述するが音響も相まって非常に心地よい空間を創り出していた。
また、度々男女二人のシーンで当てられる白色の照明が、月の光のように感じられてこれもまたロマンチックな照明演出だった。
そして最後の暗転というのが良い。これについては考察の部分で深く書くことにする。

そして音響。客入れから素敵過ぎた。かかっている音楽がJ-POPが多いのだが、例えばBishの「オーケストラ」のAcoustic Ver.的な曲が流れていて、静かなで落ち着いた感じの印象を与えていて非常に作品に没入しやすい環境を作ってくれた。
また、劇中で流れる曲はピアノ曲が多くて、クラシックだったのだろうか、タイトルは分からなかったが聞いたことのある曲が心地よく流れていた印象。照明と相まってロマンチックでイマーシブな空間を創っていて惹き込まれた。

その他の演出部分で良かった箇所は、男女二人の仲が一線を越えようとするタイミングで照明が暗く切り替わる部分が良い意味でもどかしくて好きだった。"咲"と"祐平"だったり、"咲"と"陸"だったり。あそこで多くの観客の心臓は動くしドキッとしたタイミングで切り替わるからこそ、心動かされるものがあって好きだった。そしてそこをしっかり演じられるキャスト陣の演技力のナチュラルさは素晴らしい。
あとは、若干キャスト周りのコメントにもなってしまうのだが、劇団献身の松尾さんの配役がズルいレベルで上手い。こんなにカメオ出演的な名前のない役で複数の役を演じているのに笑いを取れるって素晴らしい。「お客様〜」の言い方だったり、諸々面白かった。
後はSNSが度々登場してきて、例えば"朋子"、"陸"、"咲"がインスタグラムで繋がったり、"千春"がYouTuberを始めたり(YoutubeはSNSではないか)、そういった現代のツールが人間関係にも絡んできて拗らせる演出も素晴らしかった。
後は、度々東京の地名が出てきて東京に明るくない観客にとっては不親切だったかもしれないが、東京に詳しい人間からしたら、町田と葛西が遠いとか、武蔵小山、自由が丘、大岡山とか親近感あって好きだった。

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【写真引用元】
ステージナタリー
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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

総合的にキャスト陣の演技のナチュラルさには驚かされたが、特に素晴らしかった役者をピックアップする。

まずは主演女優の"三並咲"を演じた江益凛さん。彼女の演技を生で拝見するのは初めてだが、先述した通りimg未来手帳チャンネルで演技を映像で拝見しており、凄く芯の強い女優だと感じていた。
今回の役柄も、性格はとても厳しそうな男性に対しても厳しそうな、でも恋愛はしたいという感じのアラサー女性。本当にこんな女性いる!と思えるくらいのリアルさ。そして驚きはそれだけではなく、終盤の"陸"にプロポーズしようとするシーンでの照れを隠しながら気持ちを伝えようとする感じが本当に素晴らしかった。これは男性なら惹かれてしまうレベル。そこからの"陸"からの「ごめんなさい」は本当に観ているこちら側もショックを受けるし、ヤケ酒してしまうのも頷けてしまう。
その泥酔した演技もまた素晴らしかった。また彼女の出演作品は観たいと思った。素晴らしかったに尽きる。

次に、主演男優の"田畑祐平"を演じたアマヤドリの倉田大輔さん。アマヤドリの舞台は観劇したことあるが、倉田さんの演技はおそらく初めてになると思う。
このどっちつかずなダメダメな男が非常に上手く演じられていた。こういう男性もよく居そうだと思う。特に、"あかり"と久々に再会して距離を執拗に縮めてこようとする不器用さ、"咲"のことが忘れられずデリヘル嬢の"じゅり"に対する扱いをぞんざいにしてしまう不器用さも凄くこちらを苛立たせるくらい上手く演出され、演じられていた。
最後"咲"と"祐平"は結ばれるが、またコイツ浮気するんじゃないかと思ってしまう感じの、"じゅり"との関係はモヤモヤしたまま終わっている。
"咲"には本当に幸せになってほしいし、"祐平"にはシャキっとして欲しいと思わせる良い意味で苛立たせられた演出、ストーリー運びだった。

今作を観ている女性なら、多くの人が惹かれたんじゃないかと思うくらい爽やかで魅力的だった"藤堂陸"役の飯阪翔さん。男性である自分が観ていても友達にしたいと思うくらい、誠実そうで爽やかな"陸"。きっとこの作品を観ている女性の多くは、"咲"の視点と同じように"祐平"に愛想を尽かして"陸"に恋するも振られてしまってショックを受けるという"咲"に感情移入して観る人が多いんじゃないかと思う。
特に女性がトキメクんじゃないかと思うシーンが、"咲"と"陸"の初デートのシーン。"陸"の意外と学生時代は友達が少なくて、強く見せようとしてスポーツジムを始めたという動機とか、結構女性はこころ動かされるんじゃないかと思って観ていた。男性が観ていてもあのシーンは非常に素敵で、完成度の高いシーンだったと思う。

"穂村あかり"を演じた谷田部美咲さんも非常に素晴らしい女優だった。彼女の演技は、五反田団の「いきしたい」以来2度目の観劇となる。恋愛という感じよりは、友達の"千春"に対する思いの強さに心動かされた。
"千春"と音信不通になって心配して自宅へ訪ねてみるという行動力も凄いのだが、その後の"あかり"と"千春"の電話でのやり取りが本当に観ていて微笑ましかった。その時の"あかり"の表情とか言葉のかけ方とか全てに優しさが感じられて好きだった。女性って友達同士だとこんな感じで電話し合うのかなとか思ったりした。

最後に、デリヘル嬢の"じゅり"役を努めた佐藤美輝さんだが、他のキャスト陣とは異色なまさに量産型女子的な整っていて綺麗なんだけど何かが足りない感じの女性っていう役が凄く良かった。
魅力的なんだけどなぜか惹かれない、唆られないっていうのは男性の自分も分かる。"祐平"が性欲剤を飲まないとイカなそうというのも。そういう役をしっかり演じきれるという意味で、佐藤美輝さんの役は素晴らしかった。逆に彼女が輝くような出演作品も観てみたいと思った。

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【写真引用元】
ステージナタリー
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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは大きく分けて2つの事柄について考察しようと思う。

まず1つ目は、コロナ禍と恋愛という組み合わせについてである。
この物語では、"咲"と"陸"の関係性に距離が出来たのはコロナに入って対面で会うことが難しくなったからだと"咲"は勘違いしていた。しかし、"陸"はコロナ禍になって人と会いづらい環境になったとしても大好きな人だったら会いに行く、そんなスタンスだった。そこの認識の違いが結果的に"咲"に対して大きな悲劇を生んだ。
これは憶測になってしまうが、きっと現実でもこういったカップルって結構多いんじゃないかと思う。コロナに入る以前から男女の関係は少し停滞気味になっていて、そしてそれがコロナ禍によって加速して、その距離感の隔たりが果たしてコロナのせいなのかそうじゃないのか、よく分からないまま時間だけが経っていく。
きっと27歳になってそろそろ結婚というタイミングで、こんな恋愛をした"咲"は物凄く辛い状況だと思う。きっとこういう状況からコロナ鬱になる人も沢山いるんじゃないかと思った。
"千春"みたいにコロナで会社が倒産して鬱になる人も沢山いると思うけど、"咲"の周囲を取り巻いたコロナによる環境の変化って、あまり私もイメージしていなかったので、凄くリアリティを感じた分胸に突き刺さった感じがした。

そしてもう一つは、これは個人的な独特の今作品の解釈なのだが、この作品中に登場するシーンは全て"咲"の夢なんじゃないかとする解釈である。
その根拠としては、今作品のタイトルである「夜から夜まで」が一つ目のそれにあたる。このタイトルの意味としては、主人公"咲"の視点に立てば決して彼女は最後ゴールインする訳でもなく、ずっと恋人関係になれなかった"祐平"との寄りを戻して終わりという意味での「夜から夜まで」という解釈がまず考えられる。
ただ、それだけではなく夢って寝ている間に見るものなので、"咲"はずっとこの物語で起きたことを夢で見ているんじゃないか、だから「夜から夜まで」なんじゃないかと考えられるのである。
これだけだと、?って人も多いと思うので、他にもいくつか根拠がある。
2つ目の根拠は、劇中に度々登場する劇団献身の松尾さんの役やデリヘル嬢役の佐藤美輝さんが他の配役で偶然登場している点である。現実だったらこんなことは有り得ないし、わざわざ劇中で"祐平"が「あれ?どこかで会ったことあるような?」というようなリアクションをしているので、キャストが足らない都合上複数の役を演じているのではなく、同じ人間という設定になっているのである。これって、夢の中に現れそうな展開かなと思う。実際私は夢の中で同じような体験をしたことがある。
そしてもう一つの根拠は、最後に暗転して終わっているということである。これは夢から覚めたことを表しているんじゃないかと。

あくまでこれは私の勝手な解釈なので、実際そのようなことは想定されていないかもしれない。一つの捉え方としてあるんじゃないかくらいの仮説として思っていただければ。
ただ、もしこのような意図が本当にあるとすればそれはどういうことか。それは、今現在起きているコロナ禍そのものが夢であってくれればという、表現活動者たちの願望なんじゃないかと考えられる。こう考えれば、今作品が「夢の中」という設定になる理由も明白だし、説得力も増す気がする。
こちらは、演出家に聞いてみないと分からないので、このくらいまでにしておこう。

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【写真引用元】
ステージナタリー
https://natalie.mu/stage/gallery/news/428047/1590862


↓谷田部美咲さん過去出演公演


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