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舞台 「燦燦七銃士〜幕末エクスプレス1867〜」 観劇レビュー 2020/11/07

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公演タイトル:「燦燦七銃士〜幕末エクスプレス1867〜」
劇団:カムカムミニキーナ
劇場:ザ・スズナリ
作・演出:松村武
出演:内藤大希、清水宏、池田有希子、今奈良孝行、谷知恵、八嶋智人、亀岡孝洋、長谷部洋子、田原靖子、未来、松村武他
公演期間:10/31〜11/9(東京)、11/14〜11/15(大阪)、11/18(松本)
個人評価:★★★★★☆☆☆☆☆


カムカムミニキーナ旗揚げ30周年の記念すべき70回目の公演ということで観劇、本劇団の観劇は「両面睨み節」「猿女のリレー」に続き3度目。
日本史をベースに脚本が作られる特色は踏襲されているが、過去観てきた公演よりもエンタメ性が強く、衣装も豪華で役者の熱量を物凄く感じる力強い作品だった。過去観てきたカムカムミニキーナの作品よりは子供も大人も楽しめる万人ウケしやすい作品だった。
ただ個人的には情報量の多い台詞回しが多く、ストーリーを追うことが結構難しくてすぐに物語展開に置いてきぼりにされた印象。キャストのキャラクター性や物語の背景をもっと丁寧に説明して欲しかった。
劇場がスズナリという小さな小屋だったこともあり、役者たちの迫力が抜群。八嶋さんを筆頭に役者として経験を積んできたベテラン俳優の演技を間近で観劇出来てよい経験だった。

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【鑑賞動機】

カムカムミニキーナの公演は2回連続観劇しておりよく知っている劇団だったから。さらに今作品は、本劇団の旗揚げ30周年記念公演で八嶋さんといった有名な役者も出演していたことも大きい。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

舞台は幕末の日本、ペリーによる黒船来航により開国を余儀なくされた日本は、万博が行われる巴里(パリ)で三銃士を披露することになる。そこで当時の江戸幕府の大老井伊直弼(松村武)は、三銃士の役にふさわしい役者を日本全国で探すことになる。
まずその三銃士役に立候補したのは、普段何を考えているか分からない間の抜けた樽谷弥太郎(内藤大希)だった。幕府側は彼を三銃士役に任命するのは心許なかったが、樽谷がダルタニャンに似ていると主張する熱意があったため、彼に他の三銃士役を探させることにする。
そこで三銃士探しをしていた樽谷が出会ったのは、メルメドカション別名跡済源藏(清水宏)という欧米出身の侍、堀部十徳(今奈良孝行)という強面で堅いの良い侍、そして村田新十郎(八嶋智人)という浅草で役者をしている侍の3人だった。彼らで和製三銃士を結成し、巴里万博で日本の魅力を世界へ存分に届けようと奮起した。

しかし、そんな三銃士たちの背後には笑男という般若のお面を被った悪党が彼らの命を狙おうとしていた。
一方、時の将軍徳川家定(元尾裕介)とその妻篤姫(未来)に仕えていた女官のお紺(谷知恵)は、お梶(池田有希子)に命を狙われ逃亡する日々だった。その逃亡中にお紺は樽谷と出会って恋をする。
そしてついに、今まで和製三銃士たちを追いかけてきた笑男たちによって、大老の井伊直弼が暗殺され、その騒動に紛れてナレーター役のオデュマ(田原靖子)も額を銃で撃たれて死んでしまう。そしてこの笑男たちは、開国して他国と貿易を始めようとする動きに反旗を翻す尊王攘夷たちの軍勢であることも発覚。これによって、巴里万博で三銃士を優雅に披露する場合ではなくなってしまった。
将軍徳川家定は急逝して篤姫は未亡人となって天璋院と名を変えた。そして三銃士の一人村田は行方を眩ましてしまい、折角結成した和製三銃士も散り散りバラバラになってしまった。

ここで幕間に入る、そに(柳瀬芽美)が一人芝居を演じる。

悲しみにくれていた樽谷だったが、尊王攘夷を討伐して巴里万博で三銃士を演じようと再び立ち上がる。樽谷はお紺に再会するものの、お紺の夫・野暮庄右衛門(亀岡孝洋)が上洛するということを聞いて彼に付いていってしまう。未亡人になった天璋院と家定公に仕えていた近衛中将(渡邊礼)も庄右衛門と共に京都へ向かう。しかし道中で尊王攘夷の刺客である吉子(長谷部洋子)が現れ中将の胴体を二分に切ってしまう。
樽谷は横須賀港で跡済と再会する。そしてもう一度巴里万博を目指して再び立ち上がることに合意。そのために尊王攘夷を討伐しようと意欲的になり、そこへ堀部や京都で村田荒水と名前を変えて出世していた村田新十郎もお紺たちに連れられて現れ全員揃う。
そこへ現れた笑男、彼は一人ではなく複数人存在しているようだが存在がおぼろなため、彼を銃で撃とうと追いかけていたお梶もなかなか射止めることは出来ていなかった。そには笑男によって銃殺されるものの全員で協力して笑男たちを撃破し、無事尊王攘夷を討伐する。

そして船に乗って巴里を訪れた一行は、満を辞して三銃士を盛大に披露する。樽谷は音楽に合わせてフランスのプリンセスと踊る。
その後、三銃士たちは日本へ戻り人々に親しまれ崇められる存在となって余生を過ごした。若き樽谷は万博後はどこかへ行方を眩ました、彼は生きているからこそ行方を眩ませるんだと。

登場人物が多すぎる上に一人二役だったり、キャラクター自体の説明が劇中でなされなかったりしたので、状況把握が難しく詳細なストーリーについていけない箇所が多々あった。なので、かなり内容は要所要所を掻い摘んで書く形になってしまった。
大筋のストーリーは分かりやすく、今まで観た本劇団の過去作品「両面睨み節」や「猿女のリレー」のような比喩や抽象的な表現は少なかった。その辺は観劇初心者にとって取っ掛かりやすい作品だっただろう。
また考察の項目でも書くが、尊王攘夷運動によって巴里万博で演劇が出来なくなってしまう状況と、コロナ禍で演劇が出来なくなってしまう状況は凄くよく似ていて、時代劇×三銃士というファンタジックな世界観が現実ともリンクする辺りが凄く心に響いた。

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【世界観・演出】(※ネタバレあり)

劇場がスズナリだったということもあり大道具は少なめだった印象だが、スズナリという小さな小屋であるにも関わらず小道具の量と衣装量は凄まじかったと思う。よく収納出来たなという印象。

まずは舞台装置だが、木の板が敷かれたステージが用意されており前方には煌びやかな幕が用意されており、幕が開くことによってステージの奥まで客席から見えるようになっている。劇中はこの幕が開くことによって舞台が行われている。そのステージの手前側には人一人分くらいの幅のスペースが存在する。そのスペース端には作り物の松が設置されていた。
ステージ上の天井からはカラフルな布が垂れ下がっており、江戸時代を思わせるような洒落の効いた布が多かった印象。

大道具に関しては、一番印象に残ったのは馬の作り物。スズナリで使用するには大きすぎるくらいの迫力のあるもの。中に人間が入れて乗馬しているように見せかける演出が良かった。
それと戸板を使った演出も面白かった。戸板を上手く使って逃亡しているシーンを演出したり、最後の巴里万博での西洋風の洒落乙な戸板も舞台上で映えていた。
他に大道具に関しては、近衛中将が胴体を真っ二つに斬られるシーンの胴下の作り物が斬新で面白かった。また、西洋の船が海を渡るミニチュアも好きだった、西洋人のフィギュアも含めて凄く良かった。

衣装も今作品は普段の公演以上に豪華だったと感じた。女性たちの着物姿もとても良かったのだが、一番目立ったのは徳川斉昭公の長い黒髭や最後の巴里万博の西洋ドレスとスーツ。また笑男の般若の印象も強烈だった。そして篤姫の赤い十二単は格段に豪華で印象的だった。

音響照明も多様されていたが、道具や衣装に目が奪われて特筆すべき印象に残ったものはなかった。

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【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

幕末の英雄たちというイメージも相まってか、役者たちの声量とエネルギーが劇場に響き渡るくらいの物凄いパワーを全員から感じた。カムカムミニキーナの作品を小劇場で観るとこんなにもエネルギッシュに感じるものなんだと、劇団の役者陣のレベルの高さを改めて感じた。それを感じられるのは生で舞台を観てこそなので、もし配信でのみ観劇した方がいらっしゃったら次回は是非劇場で体感して欲しいと思う。

なんと言っても、まずは和製三銃士を演じた跡済源藏役の清水宏さんと堀部十徳役の今奈良孝行さん、そして村田新十郎役の八嶋智人さんの熱演が素晴らしかった。ベテラン俳優ということもあって迫力が違った。清水さんは劇団山手事情社出身らしく、彼の欧米人が日本語を喋る片言な感じが凄く好きだった、味のある演技とは正にこのこと。
今奈良さんは堅いが良くて力強い演技がとてもカムカムミニキーナ作品に似合っていた。時代劇の侍にばっちりハマっている印象。
そして八嶋さんはテレビに出演するほどの有名人なので以前からよく知っていたが、あの八嶋さんの芝居をこんな近距離で観られたことに感激。とても早口で一回も噛まずに喋られる点は物凄い、そして浅草で役者をやっていたというシチュエーションはとても笑わせられた。

次に樽谷を演じた内藤大希さんとお紺を演じた谷知恵さんの若い二人のシーンがとても癒された。年齢層の高い役者の中に輝く若き男女の二人は、作中には珍しい初々しさがあって凄く惹かれる。内藤さんの最初はダメ人間扱いされていた所からの巴里万博出演に向けた立役者へと成長していく姿にかっこよさを感じたし、谷さんの透明感のある透き通った声と喋り方が時代劇に出て来る女官とマッチしていて素敵だったし、樽谷と出会って触れ合うシーンにもほっこりする。そして最後は二人が結ばれる訳ではない点がなんとも寂しいがそれがまた良いのかもしれない。

他は、脇役女優が凄く輝いている点にも感動した。
例えば、終始ナレーターを務めるオデュマを演じた田原靖子さんの物凄く声の通るハキハキとした演技も凄く聞きやすくて好きだった。確か「猿女のリレー」でも出演していて同じ感想を抱いた気がする。
また、吉子演じる長谷部洋子さんの松坂慶子さんを思わせる力強く女魂の濃ゆい演技も印象に残って好きだった。特に好きだったのは、徳川斉昭役のシーンで途中で声が出なくなってしまう演技。それから、銃を持って敵を追いかける勇ましい演技も好きだった。
次に篤姫を演じていた未来さん、彼女の演技は「両面睨み節」で実力のある女優だと感じた気がするが、「猿女のリレー」ではそこまで出番はなかったのであまり感じず、今回篤姫という重役で再び演技力の高さを痛感した次第。家定公に先立たれ未亡人となった彼女の、おしとやかさを忘れて野生に戻ったかのような迫力ある御転婆な役どころが良かった。たしか天璋院自体の性格も御転婆だったと思うので史実を踏襲している点も凄く良かった。
最後にそにを演じていた柳瀬芽美さん、彼女は「両面睨み節」に出演していてその時はそんなに演技が上手いとは思わなかったが、今作品では化けて帰って来た印象。彼女のひょうきん過ぎる演技がカムカムミニキーナの雰囲気に合っていて笑いを取れる舞台女優として凄く良かった。特に白目姿で登場するシーンは女捨てている感半端なくて逆に良かったし、幕間中の一人芝居も度胸が凄いと思った。よくあそこまで勢いで一人で笑いを取りにいこうと出来るなと感服した。

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【舞台の考察】(※ネタバレあり)

今作品のパンフレットには、出演者一人一人のコメントが書かれているが、やはりこんなご時世もあってコロナ禍に関する内容がほとんどであった。「外出のしにくい環境の中、劇場に足を運んで下さりありがとうございました」「勇気を出して観劇してくださってありがとうございました」という内容である。中には、配信で演劇を観るという流れも主流になりつつあってそれを良い兆候と捉える役者さんもいらっしゃった。
ということで、以前よりは外出に対するハードルも下がって都内に人が溢れかえった状況ではあるものの、舞台関係者たちはいつが千秋楽になるか分からないという覚悟の元、コロナという強敵と必死で戦いながら毎日を過ごしている状況なんだと思った。

そういった役者たちの覚悟がこの作品の中にも反映されている。コロナ禍を作品の中で置き換えると尊王攘夷運動の敵であるし、舞台公演を作品の中で置き換えると巴里万博で開かれる三銃士な訳である。
劇中に出てくる笑男は、銃で撃っても撃っても顔に的中しない存在自体も明確でない敵という扱いだったが、現実のコロナ禍も実態がある訳ではなくなかなかしぶとい存在である点で一致していると言えよう。

では、劇中における樽谷弥太郎は現実社会における何と対応するのだろうか。
樽谷は、尊王攘夷の笑男たちを撃退し巴里万博での三銃士披露を実現させた立役者だと私は解釈している。となると、樽谷に対応する現実社会の存在はコロナ禍を打破して普段通り舞台活動が出来る世界に元通りに出来る存在だと思っている。
それは何か。私的には、日々舞台活動が打てるように取り計らってくれるスタッフの皆さんや、劇場に足を運んでくれる観客の皆さん、それから演劇がこの世から無くならないよう新たな挑戦を試行錯誤する人々を指しているのではと思った。この作品は、演劇がコロナ禍がやってきても無事存続出来るように日々支えてくれる人々をリスペクトした作品なんだと思った。
そう考えると、観劇して少しでも劇団に貢献出来た自分がちょっぴり誇らしく感じられるし、そんなリスペクトを作品中に込められる松村さんは素敵だと感じた。

【写真引用元】

Twitter カムカムミニキーナ公式
https://twitter.com/3297jp
演劇キック
http://enbu.co.jp/kangekiyoho/%e3%82%ab%e3%83%a0%e3%82%ab%e3%83%a0%e3%83%9f%e3%83%8b%e3%82%ad%e3%83%bc%e3%83%8a30%e5%91%a8%e5%b9%b4%e7%b7%a0%e3%82%81%e3%81%8f%e3%81%8f%e3%82%8a%e5%85%ac%e6%bc%94%e3%80%8e%e7%87%a6%e7%87%a6%e4%b8%83/

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