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採用はマーケティング① ~その気にさせる~

あなたが最終的に受け取る「いいこと」が明確にイメージできないと、人は動かない(買わない)。
というマーケティングの根っこを身をもって感じた一件。

事の始まり

とあるきっかけで、とある企業から「あなたうちの仕事に向いていそうなので、やってみませんか」とお声がけいただいた。
転職についてはうっすら考えていたものの、全く考えたこともなかった職種だったので、へっ?私ですか?というのが初めの感想だった。

でもそう言っていただけるのはとてもありがたくて、そして嬉しくて、どんな業界なのか、どんな仕事なのか、せっせと調べ始めた。
とても丁寧な企業で、質問には何でも答えてくれたし、面接以外にも時間をとって社員の方との面談も設定してくれた。

4時間に及ぶ演習テストを受け、他にも適性検査のようなテストも受け、面接を複数回受け、正式に内定をいただいた。

私の選択

悩みに悩んだ結果、辞退した。
久しぶりにこんなに悩んだ。

最後の決め手が見つけられなかった。
自分がそこで今と全然違う仕事をしている姿がどうしてもイメージできなかった。

私が知りたかったこと

先方は、いろいろなことを包み隠さず教えてくれた。
「入ってから”こんなはずじゃなかった”とならないように」と、ネガティブなことも教えてくれた。
長時間労働になる時期もあること、組織改革を始めたところなので、まだ整っていない制度もあること。
良いことも教えてくれた。
社員同士のつながりが強くみんなが助け合う文化であること、各個人が信頼されていて、仕事の裁量がもてること。

その会社の様子がよく想像できた。
ただ、それは私にとっては「事実」でしかなかった。
それが「私にとって」どういうことなのかが分からなかった。
言葉は悪いけれど、「だからなんなのか」が分からなかった。

なぜ私に声をかけ、内定を出してくださったのかも聞いてみた。
「あなたの経験や人柄がこの仕事ではとても役に立つ」ということだった。
私が知りたかったのは、その「とても役に立つ」という事実が、会社にとって、私にとってどういうことなのか、だった。

要は、私がその会社で働くと、
・会社にとってどんないいことがあるのですか(=私がどのように貢献できるのか)
・私にとってどんないいことがあるのですか(=私が得られるものはなにか)
ということだった。

転職はお互いリスクも抱えるわけであって。
そのリスクを取ってでも手に入れたい「いいこと」があるから成立するのだと思う。

今回の場合、私にとっては完全な未経験職種だったので、お互いにリスクは大きかった。
だからこそ、「いいこと」をはっきりイメージしたかった。
そこを聞き出すためにたくさん質問もしたつもりだったけれど、たどり着けなかった。
質問の言葉が足りなかったのかもしれない。

採用はマーケティング

そこで思ったのは、「これ完全にマーケティング」。
売りたい商品についての事実を正直に伝えるだけでは人を動かすことはできない。
「この商品はこんないいところがあるんです。
でもこういう方には少し合わないかもしれません。」という事実。
肝心なのはその後なんだ。
「だからあなたにとってこんなにいいんです」
「だからあなたの生活がこんなに変わるんです」
そんな「あなたと私」をつなぐものを直接的に伝えることがやっぱり大切。
事実だけお知らせして「そこから先は自分で想像してね」は、なかなか成立しない。
買い手はそんなにこちらの思う通りには考えてくれない。

採用活動の場合、こんなパターンがあると思う。
候補者の心持ち
1.その会社にそもそも入りたいと強く思っている場合
2.その会社のことも、業界のことも、まだ良く分かっていない場合
企業側の心持ち
A.良さそうな人がいたらドアを開けてお迎えしようという場合
B.あの人絶対採るぞ、と気合入れている場合

1とAの場合だったら、事実を明確にお伝えするだけで入社!とスムーズに進みそう。
企業側がBの場合、そしてさらに候補者が2の場合、やっぱり企業側は相手を「その気にさせる」アプローチが必要な気がする。
候補者にとってのメリットをガツンと押し出して売り込んでいかないと、なかなか動かすのは難しい。なんせ2なんだから。

今回の場合は、2とAだったんだろう。
私は「その気になりたかった」というのが正直なところだった。
自分で調べられることは調べて、話もたくさん聞いた。
でも「その気」にまでは届かなかった。

甘えなのかな、とも思った。
そんなことは自分で想像して、自分でテンション上げてきなさいということなのかなと。
つまり、そのくらいのことは自分できる人だけを採りたい、ということなのかもしれない。
でも私には難しかったです。だから成立しなかった。
まあ、転職はご縁とか相性とかいうから、結局はご縁がなかったということだと理解している。

物を売るのと同じ

「物を売る」という私の普段の仕事も同じ。
そもそもこの商品をほしいと思っている人には、事実と魅力をきちんとお伝えすることで、買ってもらえたりする。
難しいのはまだこの商品を知らない人にどう接していくかで。
その場合はやっぱりその人にとってお金を払ってこれを買うことのメリットを直接的に伝えていかないといけないんだ。

それが結局、よく言われる「相手に寄り添う」ことなんだろうと思う。
相手の状況を理解して、それに合わせたコミュニケーションを行うこと。
相手の立ち位置にかまわず、これ良いでしょー!と言っていても、「良いらしいですね」で終わってしまう。
相手を動かすことまではつながらないんだ。

思いがけず始まったありがたいお声がけから、採用ってマーケティングだな、と思い、今の自分の仕事(メーカーでのマーケティング)を見直した一件でした。

今日も読んでいただきありがとうございました。

(今日の1枚は、2010年10月、トルコにて。)

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