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一人ひとりが生き生きと働き、日本が元気になるプロセスの一部を担いたい ー エグゼクティブコーチ 中村智昭さん【お仕事インタビュー #3】

好きなことを仕事にして自分の道を突き進む方々に、そのお仕事と今日までの歩み、そして未来について聞きます。3回目の今回は、ベテランの企業人が登場。

「これまでは下積みなんですよ。だからこれから。これからが返せる時だなと思っています」。

33年にわたり3000人規模の企業で勤め上げ、取締役まで勤めた57歳のその人が、どこか嬉しそうに話す。

「世の中には、自分が持っているものしか返せないんですね。私は何を返していけるのかなと考えた時に、この管理職経験だなと思ったんです。コーチングを使ったリーダーの育成や人材開発、これをやっていこうと」。

中村智昭さん。穏やかな語り口ながら、その熱量は隠しきれない。今年5月に長年勤めたチェーンレストラン運営会社の取締役を退任し、中小企業の経営者向けコーチング、組織開発、人材育成などを行う企業に取締役として参画した。現職では、コーチングの提供、企業研修の設計や提案、コーチ養成講座の講師など幅広く手掛ける。企業の経営者や組織を支援することで、一人ひとりが生き生きと働く世の中をつくるために邁進中だ。

「こういう生き方をしようっていうことは、決めていまして。自分が好きなこと、得意なこと、なおかつ人の役に立つことをやりたいと思っているんです。それでお金ももらって飯が食えたら最高」。

人生の時間は限られている。その貴重な時間を使って、自分が朝から晩までやっていても楽しいと思える仕事をしたい。長い管理職生活を経て、コーチングが楽しい、自分に合っている、と思うようになった。

パワーを振るう孤独なリーダー

中村さんは24歳のときにレストラン運営会社に就職した。1年で店長を任され、その6年後には営業部長、事業部長と、活躍の場を広げていった。レストランの現場で、また本社から店長の育成や店舗の運営管理を担い、常に人の教育や組織作りに取り組んできた。

コーチングを活用した人材開発に興味をもったのは、自身の苦い経験からだった。

仕事を始めたばかりの頃、働く現場は何もかもが軍隊式だった。「鬼店長」のような人がいて、スタッフに怒鳴り散らすのは当たり前。ハラスメントという概念などまだなかった時代だ。そのような教育を受けた中村さんは、自身がリーダーになっても同じことをしてしまっていた。今で言えばパワハラだ。

「パワーで押し付ければ、みんな言った通りに動きます。でも心の中では反発しているし、距離がうまれて自分も孤独になっていく。チームのはずなのに心の交流がなく、本当の意味でチームになれない。良くないと分かっていても、簡単にはやめられないんです、体に染みついているから」。これでは人も組織も成長するはずがないと思っていた。

コーチングに見つけた真逆のリーダーシップ

現場で熱心に人材育成に取り組んでいたところ、43歳のときに人事部長に抜擢された。こうなると、自身の担当部署のことだけではなく、組織全体について考えなければならない。様々な部署から組織や人事に関する問題や相談が寄せられる。その対策を考えるのが重要な任務だった。

リーダーシップや組織作りについて学ぶうちに出会ったのが「コーチング」という手法だった。コーチングは、「相手の自発的行動を促進させるためのコミュニケーション技術」(コーチビジネス研究所ウェブサイトより)。仕事の現場においては、上から指示をして強引にやらせるのではなく、本人が自ら気づいて動き出すことを後押しする方法だ。それは相手の話をよく聞くことから始まる。これまで自分がやってきたスタイルと真逆だった。強い興味をもち、本格的に学び始めた。

「コーチングを使うと、自律的な職場環境を作っていかれるんです。これは良いなと思いましたね」。

そこで中村さんは、組織の運営にコーチングを活用し始めた。トップダウンではなく、みんなで話し合って物事を決めていくやり方に切り替えたのだ。すると、メンバーが「輝き始めた」のだそう。「みんながとにかく楽しそうに、生き生きと仕事をするようになりました。自らチャレンジしたり、アイデアを出したりね」。

その様子を目の当たりにし、各個人が「自分が役に立っていると思える」こと、「必要とされていると感じられる」ことが重要なのだと気づいた。

下積みを終え、天職に

組織を本当に良くしていこうとするならば、トップが認識を変える必要がある、と中村さんは言う。「トップが変わったら急に業績が良くなったり、逆に不正行為が起きたりするでしょう。最も影響力をもつトップ自らが、社員が生き生きと働ける風土作りの大切さに気付き、取り組むことが重要です」。

54歳で取締役に就任した頃から、60歳になったら経営者向けのコーチングを仕事にしていこうと思い始めた。良い組織を作りたい、良い世の中にしたいという思いのある経営者を支援したい。組織を変え、ひいては世の中を、そして時代を変えていく流れに、自分も影響を与えたいと思った。

少人数で運営する現在の会社への移籍を決意したのは去年のこと。長年大きな組織に所属してきたため、当然迷いもあった。それでも残りの人生をかけて、世の中により多くの恩返しをしようという思いで踏み出した。

まさに天職についたと思っている、と迷いなく話す中村さん。いよいよ、30年以上の下積みで身に付けたことを世の中に返していく時が来た。

経営者を、日本を、元気にする

コーチングが生まれたアメリカでは、現在約7割の経営者がコーチを活用しているという。それに対し、日本ではまだ1割ほど。それでもコーチによる経営者支援の効果は日本でも認められつつあり、特に若い経営者は積極的にコーチを活用し始めているそうだ。コーチをつけることで、経営者は考えを整理したり、拡張したり、ビジネスを加速したりできる。またストレスを軽減させることもできるという。「経営者にコーチがつくことが当たり前になったら、経営者はより仕事にやりがいを感じるようになるでしょう。結果的に、日本はもっと元気になるはずです」。

今中村さんが目指すのは、10年以内に日本の経営者の5割がコーチをつけている状態を作ること。その可能性は十分にあると読む。そのために、自社でまずは5年後に1000人の経営者を支援していたい。自身が講師を務めるコーチ養成講座の卒業生の活躍にも期待だ。

個人的な目標についても聞いてみたところ、「組織や人材開発について、さらに学びを深めたい」という答えが返ってきた。ひと言で人材開発といってもそこには様々な概念があり、それぞれに深さがある。もっと深く知り、理解し、経営者の役に立ちたいのだと語る。

30年以上の企業人生活を「下積み」と呼び、まだ勉強が足りないと言う中村さん。「日本が元気になるプロセスのある一定期間、私も手伝えたという時間を過ごしたい」。そう語る表情には、自信と熱意があふれていた。


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中村智昭さん
株式会社コーチビジネス研究所 取締役
アパレル企業を経て、1990年にイオン系の外食企業に就職。営業・人事・企画・新規事業など数多くの部署で部長を務めた後、取締役執行役に就任。2023年5月より現職。エグゼクティブコーチング、企業研修、コーチ養成講座の講師などを手掛ける。組織外では「上司道勉強会」を主宰し、リーダーたちに学びの場を提供。現在メンバーは760人以上、来年には100回目の勉強会開催となる。息抜きは家族にふるまう料理やハイキング、イラストやマンガを描くこと。

株式会社コーチビジネス研究所 ウェブサイト
上司道勉強会 ウェブサイト


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