ちょんまげ少女とリラックマの湯たんぽ
夏だったか、冬だったか、季節ははっきりと覚えてない。
12歳のわたしは前髪をちょんまげにして、土のグラウンドを走り回っていた。
「今日のわたし、すこぶる調子がいい。」
体がうそのように軽かった。
ハーフタイムにベンチに戻ると、母が目をまるくして驚いている。
「あんた、今日どうしちゃったの。」
このときの対戦相手は、Jリーグチームのユースだった。U-12の大会に、彼らはU-11のメンバーでわたしたちに試合を臨んできたのだ。
試合前にそれを知ったわたしは「ぜったい負けたくない」と、少々けんか腰でピッチにはいった。なんとも幼稚な理由だが、その負けん気が功を奏したのかもしれない。
つぎの週末、いつもの練習場に到着すると、おさななじみ兼チームメイトのお父さんがわたしに声をかけてきた。
「ほかの子に見られるとまずいけど」
と言いながら、そっとわたしにプレゼントを手渡した。
「あの日の百合子のプレー、ほんまに感動した!これ、プレゼントや」
リラックマの湯たんぽだった。
私はもう、天にのぼるほど嬉しかった。
自分のプレーがほめられるだけでも嬉しいのに、まさかプレゼントをくれる人がいるなんて。
12歳のわたしには、とても大きな喜びだった。
***
大切なひとの誕生日や記念日が近づくたびに、このプレゼントを思い出す。
365日の中で、この人のことをもっと祝えた日はなかったか。
誕生日よりも、記念日よりも、クリスマスよりも、
「おめでとう」
「すごいね」
「感動した」
と言える日はなかったか。
頑張っていることが報われた日、わたしがコンビニでちょっといいアイスを買って帰るように、あなたにもきっとそういう日がある。
大切な人の小さなガッツポーズを祝える大人になりたいなと思う。
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