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No.44 『富士通』 DX企業への挑戦

少し前の話になるが、富士通の経営方針説明会をWEB動画で視聴した。アナリストや株価の反応を見る限り、残念ながら株式市場からポジティブには評価されなかったようだ。事業の成長戦略に関しては具体性に乏しく、今後の進捗を見守りたいとする見方が多いように思う。つまり、可もなく不可もなく、しばらくは様子見といったスタンスだ。わたし自身の印象もそれと大きく違わない。

時田社長に対する第一印象は良い。社内の文化を変えるにはまず服装から。8月からドレスコードを原則的に自由とし、Tシャツの上にジャケットを羽織るカジュアルなスタイルを社長みずから実践している。がんばっておじさんがおしゃれしています、といった不格好さと不自然さはまったく感じられない。

また、説明会に先立つ東洋経済のインタビューに対して、富士通が抱える現状の課題を率直に語る姿勢も好ましく映った。「わたしがベンチャーの立場だったら、今の富士通とは組まない。うちみたいに意思決定やサプライチェーンのプロセスが冗長な会社は合わないだろう」。歴代の社長とは明らかに異なり、変化の萌芽を感じ取れる。

ただ、経営方針説明会でのプレゼンテーションは思いのほか「穏当」であった。無理せず安全運転、尖らず滑らかに。「富士通の目指す姿はIT企業からDX(デジタルトランスフォーメーション)企業への転身」が社長のキーメッセージと受け止めたが、同業他社との違いを感じるには必ずしも十分な証拠をいただけなかったように思う。要するに、やや観念的で抽象的であった。綺麗にまとまってはいるがパンチに欠けるとでも言おうか。あくまで経営「方針」説明会であり、6月に就任して初の投資家・アナリストとの対峙であったことを考えれば、むしろ過度にマイナスな印象を受けなかっただけでよしとすべきなのかもしれない。

富士通の変化を株式市場に実感させるための課題はふたつあると思う。ひとつは富士通らしいDXとは何か、具体的な事例を挙げて説明することである。少し前からDXは流行りの言葉となっており、電機メーカーの中にも成長戦略の柱にDXを掲げる企業も少なくない。例えば、日立製作所は『Lumada(ルマーダ)』という独自のIoTプラットフォームを活用して、設備の故障予知診断や在庫の適正化など、ものづくり企業に対する業務効率化のソリューションを展開している。これもDXの実践であろう。

そもそも『デジタルトランスフォーメーション』とは何か。簡単に言えば、「デジタル技術を使って、人々の暮らしをより良いものに変革すること」である。似たような言葉に、『デジタイゼーション』とか『デジタライゼーション』があってややこしい。それぞれどう違うのか、カメラを例に説明してみよう。「フィルムカメラがデジタルカメラに置き換わる」、これがデジタイゼーション。「写真の現像工程がなくなり、ネット上で写真データをやりとりできる仕組みが生まれる」、これがデジタライゼーション。そして、デジタルトランスフォーメーションとは「写真データを使って新しいサービスやビジネスの仕組みが開発され、 例えばInstagramのようにネット上で写真データを世界中の人々が共有できるようになる」ことである。要するに、社会の仕組みを変えるようなイノベーションを巻き起こすことだ。

富士通にとってもうひとつの課題は、DX企業への転身を掲げる一方で、サーバーやストレージ、半導体や電子部品などのハードウェアが依然としてグループ内にとどまっていることである。しかも、それらの売上見通しが外部からは見えないことも株式市場にとっては不満だろう。

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