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追加合格が繰り返される事態になり、受験生たちを混乱に陥れてしまった“定員厳格化”。ところが、その反省から導入された“緩和”は、また別の事態を引き起こすことに

予想していなかった?繰り上げ合格の乱発

2018 年までの間に数年をかけて段階的に基準倍率が引き下げられ、厳格化された私立大学の定員。その結果、大都市の私立大学全体の定員超過率は低く抑えられ、施策として上手くいったかのように見えました。

ところが、定員厳格化は別の大きな問題を引き起こしていたのです。

ちょうど、2021年度入試において、大量の繰り上げ合格者が発生したことをレポートした記事がありますので、ご覧ください。

 厳格化により、あちこちの大学で繰り上げ合格がこれほど乱発されることは、文科省は予想していたでしょうか。

とにかくそのあおりで、受験生や保護者たちは右往左往させられ、混乱と迷惑をこうむったことが記事からもよくわかりますね。


追加合格がドミノ倒しに

超過率を超えないように各大学が遵守を徹底した結果、難関私立大学を中心に厳格化以前より「合格しにくい」状況が生じ、当然のことながら競争率(受験倍率)が急上昇しました。
そして、その「合格しにくさ」が、あたかもドミノ倒しのように、上位の大学から中位、下位の大学へと拡大することになってしまったのです。


大学側にとって超過率の基準を超えないようにするためには、合格者のうちどれだけ入学するかという“歩留まり”を適確に予測しなければならず、神経をすり減らすような作業が続くことになったのです。
超過分の幅、つまり定員の“余裕”が極端に小さくなったことで、うっかり合格者を多く発表し過ぎてしまうと、とりかえしのつかないことになってしまうのです。

ですので、まず、最初に発表する正規合格の数を絞り込まざるを得なくなりました。
非手続き者(辞退者)が少し余計に出てしまうと、たちまち定員を割ってしまう事態になる・・・そうなると、各大学は定員を満たすまで、あるいは、超過率の枠内に達するまで、繰り返し追加合格者を出し続けることになります。

この余波が、受験生や保護者に押し寄せ、混乱に陥れてしまった、というからくりです。
 

他大学に手続きしていた受験生との
トラブルにも発展

追加合格や補欠合格の対象となった受験生のなかには、すでに他大学に入学手続きをしていて入学金等を支払ってしまっていたケースもあり、トラブルにまで発展する、という事例が少なからず発生しました。

つまり、受験生と保護者や追加合格を出した大学だけでなく、手続きをしてもらっていた大学をもトラブルに巻き込む結果となったわけです。

こうしてみると、定員の厳格化は、超過率を抑制したという点では一定の効果をあげたものの、別の点で受験生や保護者たち、そして複数の大学を巻き込む混乱を引き起こしてしまった、というわけです。

こうした事態を、文科省としても座視しているわけにはいきません。
そして、これ以上受験生や保護者たちを混乱させてはいけないとの判断から、厳格化の緩和措置を決断したのです。
その過程では、私立大学側からもルールの見直し要請があったようです。


基準を超過したら補助金カットのペナルティ

ところで、定員超過率を超えてしまった場合に、大学にはどのようなペナルティが課せられるのか。
少々専門的な領域ですので、できるだけ簡単にご説明しましょう。

まず、政府(文部科学省)から、日本私立学校振興・共済事業団(私学事業団)を通じて、各私立大学に対し私立大学等経常費補助金、いわゆる“私学助成”が毎年支払われています。この助成金は、学生たちからの納付金を主な収入源としている私立大学にとってはとても貴重な財源なのです。
私立大学の収入のおよそ1~2割を占めていると言われています。

2022年度の私学助成についてのニュースをご紹介します。

そして、私学事業団のホームページには私学助成の詳しい説明が掲載されています。

文科省は定員厳格化の実効性を高めるため、この私学助成に不交付基準を設けたのでした。

つまり、入学定員に対する実際の入学者が定められた一定の基準を超えると、私学助成の支給をストップするのです。



緩和とは――
その① 基準が“入学定員”から“収容定員”に

では、この春行われた定員厳格化の“緩和”とは、具体的にどのような措置だったのか見ておきましょう。

 緩和のポイントは大きく2点あります。

まず1点目は、不交付の目安となる主たる基準が、“入学定員”から“収容定員”に変更になりました※

    ※ 厳密には、これまでも入学定員とは別に収容定員に関する基準は
    存在しましたが、超過率の数値が入学定員の方が低かったため、
    あまり話題には上りませんでした。

具体的に言えば、1年生(新入生)だけではなく、4 学年全体の定員をその分母とする、ということです。
1 学年分だけの人数を分母としていたものが、4 学年分全体の定員にまで拡大されますので、当然、多少の超過率オーバーであっても許容される可能性が高まる、つまり、厳しかった定員管理に余裕が生まれることになったのです。


緩和とは――
その② 超過率の拡大=大規模大は1.1倍→1.3倍

そして、2点目は、不交付の基準となる超過率の数値が、移行措置の期間、つまり 2023 年度と 2024 年度の 2 年間に限り、緩和されたのです。

この“数字の上”での許容幅の拡大を指して、“定員厳格化の緩和”と称しているのです。

「令和5年度 私立大学等経常費補助金 配分方法の主な変更点等について」
『月報私学』令和5年10月号 6頁 
 

具体的には、収容定員が 8,000 人以上の大規模大学では、昨年まで入学定員の 1.1 倍までしか超過を認められなかったところ、2023年度は収容定員の 1.3倍まで、2024 年度は 1.2 倍まで認められることになったのです。
数字のみの比較では、2022 年度までの 1.1 倍が 2023 年度は 1.3 倍に拡大されたのです。

しかも、分母が収容定員となりますから、いままでより余裕をもって募集できる可能性が出てくることになります。

ただし、注意しなければいけないのは、このルールは実は、今年度と来年度の2年間だけの一時的な緩和で、再び段階的に厳しくなり、基準こそ異なりますが、結局は同じ超過率にまで厳格化されます。大規模大学で言えば、2024 年度は 0.1 ㌽下がって 1.2 倍に、2025 年度は さらに 0.1 ㌽下がって1.1 倍となり、数字の上では緩和前の倍率に戻ります。


250人が3,000人に拡大!?

仮に、入学定員 2,500 人、収容定員 10,000 人の大規模大学を仮定(編入学の定員は0人)すると、
理論上、これまでは、 2,500 人の 10 %つまり、250 人までの超過が許されていたものが、緩和によって、2023 年度は 10,000 人の 30 %、つまり 3,000 人までOKとなるのです。
単純計算すると、12 倍に拡大するのです!

もちろん、これまでの超過分の積み重ねもあるはずですし、今後へ余裕を残しておくことを考えれば、いきなり単年度で 3,000 人をフルに入学させるわけにはいきませんが、理論的には大きな余裕が生まれたことは事実なのです。


大学も今年は“一息つける”はずだった・・・
ところが

先ほど申し上げました通り、文科省としては、これ以上、受験生や保護者を混乱させたくないという思いやりが、緩和措置に踏み切った最大の動機でしょう。

 そして、これにより私立大学側で起きた数々の混乱も軽減させることができる、との思惑があったのではないかと想像できます。

しかし、いざ 2023 年度入試結果のふたを開けてみると、前回申し上げました通り、私立大学の半数が入学定員割れを起こしてしまった。
“一息つく”どころか、青息吐息となってしまった大学が多数発生してしまったのです。

緩和措置は、すべてを丸く収められる妙案であったはずだった――
ところが、正確には、“一息つけた”のはごく一部の大学であって、むしろ、募集上の苦境にたたされた大学が大量発生してしまったということです。


緩和がもたらした?定員割れの大発生

2つの緩和というルール変更がもたらしたかもしれない定員割れ大量発生。
わざと私立大学を苦境に陥れる意図は何処にもなかったはずですが、どうしてそうなってしまったのか――


次回以降、いよいよ 2023 年度に行われた私立大学の募集結果を、
入学定員と収容定員の2つの視点から集計・分析し、ルール変更の影響を
検証してみたいと思います。


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