あのときのオカンの涙を忘れない。
ご飯は、かためがタイプの私。
米粒がたってるくらいが好みだ。
こないだ、帰宅するやいなや嫁が悲鳴をあげていた。
炊飯器をパッカーンと開ける。
べちゃべちゃのご飯ジャジャジャーン。
あれま〜w
ま、そゆときもあるよね〜。
たまには、べちゃべちゃご飯もいいよね〜。あはは〜。
なんて言いながら、楽しい晩御飯タイムを過ごした。
*
べちゃべちゃご飯。
死んだおじいちゃんが好きだった。
おかん側のおじいちゃん。
おじいちゃんの家のご飯はいつもべちゃべちゃ。
米粒が力なく寝てるくらいが好み。
「これがええねや!」と言っていた。
なんなら、米粒がたってるときなんて激怒してた。
「米粒がたっとるやんけ!」って怒ってた。
いや、おじいちゃん。
それ、一般的には褒め言葉よ。
まぁ、人には人のご飯のカタさ。
好みって色々だわね〜って思ってた。
*
おじいちゃんが老いてきて、元気が落ちてきた頃、京都にやってきた。
お爺ちゃんの家にはよく行っていたが、お爺ちゃんがこっちに来ることは、ほとんどなかった。おかんとおとんも、ここぞとばかりにもてなそうとする。
晩御飯は、お好み焼き。
おじいちゃんも喜ぶと思ってた。
ホットプレートでいつも通り作ってく。
空気を入れてふんわり焼くのが我が家流である。
ひっくり返した後、置いとくスタイル。
が、おじいちゃんは違った。
ひっくり返したあと、お好み焼きが焼けるのを待っていると、急にイライラしだすおじいちゃん。
「遅いのう、まだかー」てな具合。
「おじいちゃん、もうすぐやしね〜」といなしていたが、お爺ちゃんには、一切効かず。ついに、お爺ちゃんが動いた。
お爺ちゃん、コテでお好み焼きをペシペシとしばき始めた。
止まる気配のないペシペシ。
ペシペシペシペシペシとしばいて、
上からジューと押し付ける。
押し付けられたお好み焼き。
空気はすっかり抜けてしまった。
ふんわり感は、跡形もなくなった。
お好み焼き奉行になったお爺ちゃんにより、いつもより平べったいお煎餅みたいなお好み焼きが出来上がった。
我が家流のお好み焼きでおじいちゃんを喜ばそうとしていたオカンは、半泣きである。
ボクは忘れない。
あのときのオカンの涙を忘れない。
すっかりお怒りモードのお爺ちゃん。
そこに追い打ちをかける凡ミス発覚。
青のりがない。
普段、鰹節しかかけてない我が家。
すっかり買ってくるの忘れてた。
これがお爺ちゃんの逆鱗に触れた。
お爺ちゃん、激怒である。
もう一度言う。
おとんもおかんも我が家流のお好み焼きでお爺ちゃんを喜ばそうとしていたのだ。
半泣きのオカンの目には、しっかり涙がたまっている。そして、おとんも少しシュンとしていた。
ボクは、忘れない。
あのときのおとんのシュンを忘れない。
***
お爺ちゃんが死んで7年ほどが経った。
豪快で頑固なお爺ちゃんだった。
昔のタイプのお爺ちゃんだった。
我が家では、お好み焼きを作るとき、ペシペシするノリがある。すると誰かがツッコミをいれる。
今日も今日とて、天国のお爺ちゃんを愛あるイジりでもてなす我が家である。
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