地上から改札階に降りるだけのエレベーターにて。
地上から改札階へと向かうエレベーターにベビーカー付きの30代男性が乗り込んだ。
ベビーカーには、次女と呼ばれる1歳半の赤子を乗せているらしい。
スヤスヤと寝ているかと思いきや、いつの間にやら目をパチクリと開けていた。
同じ空間には、70代後半くらいのお婆さんと70代前半くらいのお爺さんがいた。
二人は他人同士だ。
ただ、二人とも老後を楽しんでいるタイプのご老人だ。二人のことを全く知らないが、それだけは、なんとなく分かる。
二人は他人同士だが、属性が似ている。
二人とも笑顔が素敵だった。
とても柔和な笑顔をお持ちだった。
というのも、お二人とも次女に対してニコニコと微笑んでくれたのだ。
次女を見るなり、柔らかな笑顔で、かわいいね〜かわいいね〜、と声をかけてくれる。
「いやー!きゃわいい〜!」の「かわいいね〜」ではなく、「いやぁ、かわいらしいねぇ〜」の「かわいいね〜」だ。
落ち着いていて、品のある「かわいいね〜」だ。
感情がこぼれるって、こういうことなんだろうな、と思った。心から漏れたような「かわいいね〜」だった。
ご老人になっても、ひょんなことから感情をこぼすことができるなんて、今を楽しんでいる何よりの証拠だ。
経験的に、地上と改札をつなぐだけのエレベーターは、無機質で人間味のない空間になりがちだ。
しかし、今回は、お二人のおかげさまで、あたたかで優しい空間になった。
*
さて、当の次女ときたら
残念ながら、ニコッとしていなかった。目をぱちくりさせて、ポケ〜っと不思議そうにお婆ちゃんとお爺ちゃんを見つめている。
お婆ちゃんもお爺ちゃんもにこやかにしているだけに、こちらもニコニコ笑顔を返したいところだったが、彼女的には「誰だろう?」が勝ったのだろう。
親のこちらからすると、少し申し訳ない気持ちになる。
てな具合。
*
改札階についた。
ドアの向こうには、エレベーターを使わず、階段で降りていた嫁さんと4歳の長女が待っていた。
ドアが開いた。
お先にどうぞとお婆ちゃんとお爺ちゃんをうながす。
ドアに近かったお爺ちゃんが先に降りた。
お爺ちゃんは、別れ際一言「バイバイね〜」と優しいさよならしてくれた。
次にお婆ちゃんが降りた。
お婆ちゃんは、「ありがとうねぇ〜」といって降りていった。
最後にベビーカー付きの私が降りた。
嫁と長女と合流し、切符を買い、ホームで電車を待った。
その間の私は、嫁さんにエレベーターでの出来事をニコニコしながら話した。
・こぼれ話
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