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大道芸人を諦めた話②

前回のつづき
https://note.mu/yoyonaoto/n/n4a37017210e1

リアルストリートを中心に
とにかくがむしゃらに大道芸で生活していた1年間は
今思えばすごく楽しくて充実した時間でした。

どうやったらお客さんの足を止めることができるか
どうやったらお客さんを盛り上げることができるか
考えて、研究して、試して、形にして
その努力量に比例してお客さんが増えていき
それがそのまま投げ銭の量、つまり収入に結びついていく。

努力が直接的にわかりやすい形となって報われる
この大道芸のシステムに、どっぷりはまっていました。

このまま大道芸人として生きていくのもいいかもなーと
漠然と将来を見据えていた、ある日

ひとりのショーアーティストに出会ったんです。

-

ある場所で大道芸していた時
その方が来て、交代でショーする事に。
順番を待ってる間にショーを観たのですが

やってる事めちゃくちゃで、好き放題暴れて
まっったくお客さんは集まらないし
ぜんっっぜん盛り上がってないのに

超、おもしろかったんです。

もちろん人はほとんどいなかったから、投げ銭を入れる人もまばら。
でもその人は凄い笑顔で僕のところに来て

「いやー良いショーできた。次どうぞ!」

って言ったんです。
その時は不思議な人だなぁ。でも素敵だなぁなんて思っただけだったんですが
それからしばらく、ずーっとその人の事が頭から抜けなかったんです。
なんだか、すげーカッコ良かったなと。

-

しばらくして、ヘブンアーティストが主催する大きなお祭りに出演する事になったのですが
そのアーティストの方も一緒に出演していたことを知った僕は
自分の出番が終わった後、急いで片付けてその方のショーを見にいく事に。

大きなお祭りなので、前回とは違って最初から多くのお客さんがその方を待っていました。

やってる事めちゃくちゃで、好き放題暴れてるのに
お客さんが最初から集中して観てる環境だと

ドカーーーーーーーーンって受けたんです。
そりゃもう拍手喝采で、大盛り上がり。

僕がそれまで短いながらに培ったノウハウには全く当てはまらなくて
こんなに自由にのびのびとショーしてるのに、お客さんがついてきてくれてる。

最後の挨拶は「金くれよ」の一言。
お客さんから大量の投げ銭がその方に入っていくのを見て

自分のココロの中に、
モヤモヤモヤっと何かが生まれたのを感じたんです。

なんてロックでかっこいいんだ
自分が好きな事、表現したい事だけで勝負してて、凄い。
一切お客さんに媚びずに。

…媚びずに??

そう、ここで初めて気付いたんです。
いや、本当は気付いてたのに、気付かないふりをしてただけかもしれないんですが

-

どうやったらお客さんの足を止める事ができるか
どうやったらお客さんを盛り上げる事ができるか

そればかり考えていた僕は
いつしか自分の「好き」な事よりも
お客さんが「好き」な事に合わせてて

調子のいいことを言って、大げさに自分の事を表現して。
まさに、お客さんに「媚びたショー」をしていたんですよね。

それに気付いてから、前までのように思いっきりショーができなくなってしまったんです。
あれだけ楽しかったのに、まったく気持ちが入らず。
次第に回数も減り、完全にスランプ状態。

-

先輩の大道芸人に紹介してもらって
例の衝撃的なショーをしたアーティストの方とご飯を食べる機会を作ってもらい
自分の想いや今の状況をお話しさせてもらました。

その方も昔、大道芸人としてバリバリ活動してて
とにかく人を集めて、盛り上げて、めちゃくちゃ稼いでたんだ。とのこと。
当時の僕なんかより、何倍も。

だけど芸で自分に嘘を付いている事に気付いて、ショーが出来なくなった。
東京から地元に戻って、自分を見つめ直して
今度は自分に嘘の無い、やりたいことだけやるんだって決めて
また出てきなおしたばかりなんだよね。

なおと、心の中にそういう想いが生まれたなら
絶対にそれに逆らっちゃいけない。
お客についた嘘は、お前の身体に、心に、住み着くから。
芸が腐っていくから。

客に媚びてる事に気付いたなら、それをやめよう。
最初は上手くいくわけないけど
自分の中の好きとか、おもしろいだけを大切にね。
お客は、いつか付いてくるから。
というか、付いてこなくていいから。お前が幸せなら。

-

その話を聞いてから、芸の内容を一新。

また初めたての頃のように、いや初めたての頃以上に
人が足を止めてくれず、盛り上がらない大道芸をするようになりました。

先輩芸人に心配され、ファンは離れて行き
収入も半分以下になりながらも
凄く楽しく、より充実した生活を送れるようになりました。
だって、もともと大道芸をやり始めた理由は
「好きな事でお金を手にすることが出来る力を身につけたかったから。」

とはいえ、周りの芸人がお客さんをガッツリ盛り上げる中
こだわればこだわるだけ、お客さんが離れていく僕。

そもそも、僕が極めていきたいのは
道での芸を主軸とする
「大道芸人」では無いのかも知れない
そう思い始めたんです。

こうして僕は「大道芸人」を諦めて
本当にやりたい事、好きな芸だけで
自分が最高に輝ける場所を探しはじめました。

その後ヨーロッパでそれを見つけ
今はドイツで、自分に嘘をつく事なく自由に暮らしています。

時々その頃のことを思い出しては
懐かしいような、恥ずかしいような感情が溢れて来ますが
あの悩み、苦しんでいた時期があったから、今の自分があるんです。

長文、お付き合いありがとうございました。

Naoto

誤解のないように一点だけ。
僕は大道芸が大好きですし、大道芸人を心から尊敬しています。
僕が自分に嘘を付きながらじゃないと大道芸をまともにすることができなかっただけで
日本には素晴らしい大道芸人が沢山いるんです。

もっと多くの方に、この文化を知ってもらいたいなぁ。

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