イジン伝~桃太朗の場合~ⅶ
前回記事【 犬村は長い両手足をだらんとぶら下げて宙に浮いていた。美しい白肌は透明感を失って濁りつつあった。眩しさを堪えるように半ば開き半ば閉じられた瞼は細かい痙攣を繰り返している。横向いた顔、口からは赤い血が雫になって落ちている。雫は彼女の下に小さな水溜りを作っていて、早くも端の方から赤黒く凝りつつあった。
血溜まりの側には木地川が泣きながら掴み縋っていた。四角縁眼鏡の奥に切実な形相があり、目は一点を睨み、歯を食いしばって口の形は歪んでいる。その視線の先にあるのは、鬼だった