シュウマツ都市

イジン伝~桃太朗の場合~ⅵ

前回記事

【 そこには太陽の一つからまっすぐ光が差し込んでいた。ビルの白い外壁と外壁の間に続く狭い道。煙草や錠剤、アルミ缶が所々に落ちている。
「きたね。噂通り外縁っていうのは管理が行き届いてないみたいだな」
 猿野は触れることすら御免こうむるというようにゴミの無いところを選んで歩いた。朗はひたすらに前進を続ける。猿野が離れないように彼の腕を掴んだままだ。自然、猿野は引っ張られる形で落ちていた缶を蹴り飛ばしてしまう。
「いって。朗引っ張り過ぎだよ。でもなんでこの缶こんなに重いんだ」
 蹴られた缶は立ち止まった朗の足に当たった。彼はそれを拾い上げ、道の端に立てて置いた。「開いてないからだよ」
「ここの住人、煙草も薬も缶ジュースも飲んじゃいないんだ。今まで気づいてなかったのか」
「それって」
「さあ行こう」
 猿野を無視して朗は出口に向けて走った。手つかずのゴミが彼らの足元ではらはらと舞った。猿野はもう朗から離れまいと必死でその袖を掴んで走った。】

第六回

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 犬村は長い両手足をだらんとぶら下げて宙に浮いていた。美しい白肌は透明感を失って濁りつつあった。眩しさを堪えるように半ば開き半ば閉じられた瞼は細かい痙攣を繰り返している。横向いた顔、口からは赤い血が雫になって落ちている。雫は彼女の下に小さな水溜りを作っていて、早くも端の方から赤黒く凝りつつあった。
 血溜まりの側には木地川が泣きながら掴み縋っていた。四角縁眼鏡の奥に切実な形相があり、目は一点を睨み、歯を食いしばって口の形は歪んでいる。その視線の先にあるのは、鬼だった。先細りする鬼の右脚に両腕で取りつき、体全体を使って揺すりをかけている。鬼は意に介さず、目的を遂げようとゆっくり動き続ける。
 鬼の片腕が上に持ち上げられ、もう片方の腕が針金の編成を解き丸い網状に変化していく。銀色の体が日光を弾いて燦然と輝く。それは鬼の腕に囚われた犬村が贄として天に捧げられているように朗たちには見えた。その光景に彼らは一瞬陶然とその場に立ち尽くした。
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遅れは取り戻せました。一日一日。

※『イジン伝~桃太朗の場合~』第1回はこちら。

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