シュウマツ都市

イジン伝~桃太朗の場合~ⅴ

前回記事

【 鬼は声の発せられた方向へ殺到する。針金状の体がぎらぎらと、なにやら殺気立っているように見える。束ねられた金属繊維がねじれながら収縮伸長して鬼たちは形を複雑に変え、お互いに絡まったり衝突しながら前進しようとする。普段の整然とした隊列行動は見る影もなく制御不能に陥っている。金属摩擦で火花が飛び散り耳をつんざく高音が鳴り止まない。

「朗、猿野、助けて。犬村が血を出しているんだよ」

 二人は走り出していた。鬼たちの合間を縫って路地を移動する。鬼は既に人型を逸脱して四足歩行や多肢類、尺取り虫型など異形と変じているモノが多い。数体が融合して歪な球型となっているものもある。
 壁や路面が彼らの巨体で破壊され、大小様々な礫が辺りに飛び散る。その一つが朗の腕をかすめて切り傷を作っていた。振り回された腕が猿野のすぐ後方を通過すると、フードが切り離された。鬼に踏みつけられたフードは貫かれて穴だらけになる。「まじかよ。お気に入りだったのに」
「広場の方だ」
 朗は青ざめた猿野の腕を引き、肩幅程度しかない建物間の隙間に飛び込んだ。】

第五回

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 そこには太陽の一つからまっすぐ光が差し込んでいた。ビルの白い外壁と外壁の間に続く狭い道。煙草や錠剤、アルミ缶が所々に落ちている。
「きたね。噂通り外縁っていうのは管理が行き届いてないみたいだな」
 猿野は触れることすら御免こうむるというようにゴミの無いところを選んで歩いた。朗はひたすらに前進を続ける。猿野が離れないように彼の腕を掴んだままだ。自然、猿野は引っ張られる形で落ちていた缶を蹴り飛ばしてしまう。
「いって。朗引っ張り過ぎだよ。でもなんでこの缶こんなに重いんだ」
 蹴られた缶は立ち止まった朗の足に当たった。彼はそれを拾い上げ、道の端に立てて置いた。「開いてないからだよ」
「ここの住人、煙草も薬も缶ジュースも飲んじゃいないんだ。今まで気づいてなかったのか」
「それって」
「さあ行こう」
 猿野を無視して朗は出口に向けて走った。手つかずのゴミが彼らの足元ではらはらと舞った。猿野はもう朗から離れまいと必死でその袖を掴んで走った。
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早くも毎日の投稿が途切れてしまった。再スタートだ。第六回、すぐに取り掛かります。

※『イジン伝~桃太朗の場合~』第1回はこちら。

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