シュウマツ都市

イジン伝~桃太朗の場合~ⅰ

第一回

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 朗(あきら)は今、「最高」に人生を謳歌している。
 十四年の生涯で今日は絶対に忘れられない一日になるだろう。
 なぜなら、こんな遊びは彼にとって「最悪」だからだ。

 数メートルの距離に追手を背負い、薄暗い路地を右へ左へ駆け抜ける。「彼ら」の足音と追手の硬質な接地音が静寂の中で虚しく聞こえている。
 火照る肌と悲鳴をあげる内臓の外側で、彼の意識は不気味なほど明晰であった。彼の脳内にはあの「針金人形」を振り切るための意地悪い発想が炭酸飲料の気泡のように次々と浮かび上がってきていた。突破口を探して絶え間なくサッケード運動を繰り返すその目には人を嘲る冷たさが染み付いている。ふと喉の乾きに気づいて彼は喉を鳴らす。
 世界の外れ。ここは生涯日の目を見ない存在の住む場所だ。朗たちはここ数回の冒険でそれを知っていた。
 窓と窓の間に架け渡された竿には干された生乾きの派手な衣装や下着。昨夜ビルに入ったきり出てこなかった人々、いつの間に干したのだろう。
 それを手当り次第ばらまいて、入り組んだ路地を右へ、突き当りを左に曲がった時、朗はすぐ先の路地、右側から飛び出してきた白い影とニアミスして倒れ込みそうになった。反射的に朗はそちらを睨む。影の方は壁につんのめるようにして体を立て直した。
「おっと」朗の胸を支えて体勢を戻してやった白い影はそのままランデブーする。そのフードが外れる。つんとやや上を向いた小さな鼻が真っ赤だ。彼は赤いラベルの瓶を持って走っていた。「飲むか」突き出された瓶は追手の一撃で粉々になる。
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note更新は元々週に一回のつもりだったが、節分より(日付をまたいでしまったが)、毎日400字程度で短編を連載してみようと思う。どうも私は周囲に影響されやすいらしい。しかしやるからには今の全力でもって当たるつもりだ。

いざ、皆さんのかけがえのない数分を費やしてもいいと思ってもらえるような物語へ。

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