シュウマツ都市

イジン伝~桃太朗の場合~ⅹ

前回記事

【「昔々、鬼ヶ島におじいさんとおばあさんがおりました」
 朗のいる教室では、クラス替えが行われる度に決まって誰かがそう語り始める。この「昔々~」という語り出しを誰が考えたか知る生徒はいなかったが、それは不思議としっくりくるようでみんな「昔々~」と朗の噂を語り始めるのだった。「昔々」は朗の成長にしたがって八年前を示したり、十二年前を示したりした。
「おじいさんは毎日どこかへ出かけていき、おばあさんは毎日おじいさんの持ち帰ったもので丸い団子を作っていました」
 その日休み時間になって声を張り上げたのは赤鼻の少年だった。ちょうど授業参観が終わったばかりの時間、彼は噂が真実味を帯びる最も効果的なタイミングを選んだのだった。自分に注がれるクラスメートの視線が気持ちよくて、彼はより饒舌になっていく。
「ある日、おばあさんはまだ太陽が点灯する前に目を覚ましました。いつも起きる時間は早かったのですが、その日はまた一段と早く起きてしまったのでした。何か良いことがありそうだという予感がしたのです。おじいさんは昨夜家に帰ってきませんでした。そういうことは時々あったのでおばあさんは心配していませんでした。この時は帰りの遅いことがむしろ吉兆の前触れのような気がしておりました」】

第十回

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 朗々と語られる物語を聞いて、クラスメートの脳内では先程まで教室の後方に立っていた老夫婦の姿が鮮明に思い出されていた。そして視線は徐々に老夫婦が目を凝らして見つめていた朗へと移っていった。朗はもう慣れっこで、机の上を片付けて引き出しにしまうと廊下へ出ていってしまった。同じタイミングで一人の少女が教室を出ていった。背の大きな白肌の女の子。
 本人不在のまま物語は核心へと近づく。少年は頬を小指でかいて教室を見回した後一度咳払いをした。
「お昼を過ぎてさすがにおばあさんも心配になってきた頃、大きな袋を引きずるようにして歩いてくるおじいさんを見つけ、おばあさんは駆け寄って手伝おうとしました。おじいさんはそれを止めて、隣に座るよう言いました。いつもはひげをいじりぼそぼそと話すおじいさんでしたが、その時はとても嬉しそうに弾んだ声でありました」
「『ばあさん、わしは遂に見つけたんじゃ』
 おじいさんは鼻息荒く袋を開いて中の物を転がし出しました。それはそれは立派で大きな桃が姿を現します。大きな桃は時折おじいさんが運んでくるので何度も目にしていたおばあさんでしたが、その時は目を丸くして素っ頓狂な声を上げました。
『こりゃまあ。中から赤ん坊の泣き声がする』」
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 皆さんご存知の桃太郎のくだりですね。え?ちょっと違う?さて、どうでしょうか。

※『イジン伝~桃太朗の場合~』第1回はこちら。

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