見出し画像

トランスミルクは誰のため?—トランス女性の「授乳」騒動

LGBT理解増進法成立までのゴタゴタで、日本でもいわゆるトランスジェンダーにまつわる議論が目に付くようになった。とりわけ生物学的男性でありながら女性を自認するトランス女性達に関し、「スポーツは、風呂やトイレは」と関心を持つ人達はだいぶ増えたように思う。

しかし急進的に物事が進んできた欧米では、もう「授乳は」の段階に来ている。

信じ難いことだが、投薬療法によりトランス女性(すなわち生物学的男性)が「授乳」するというファンタジーのような事例が、現実に起きているのである。

一体どういうことか。つい先日、英語圏Twitterを震撼させたニュースを紹介しながら説明する。


事の発端はイギリスのITVニュースだ。運営危機にある英国内水道事業の最大手テムズ・ウォーターを特集した番組内で、水道料金の値上げに「苦しむ母親(struggling mother)」としてトランス女性マイカ・ミニオ・パルエロ(Mika Minio Paluello)を取り上げた。


放送後、番組は主に二つの理由で炎上した。

一つ目は、パルエロが2017年から2019年にかけて左派政党である労働党のビジネス・エネルギー・産業戦略長官の特別顧問を務めていたほか、現在も労働組合会議の気候・産業担当責任者であるという事実を伏せ、単に「一般的なテムズ・ウォーターの利用者」とした点である。つまり政治的に偏った編成だったのではないか、というものだ。

二つ目は、生物学的男性であるパルエロを「母親」として扱った点である。「男は決して『母親』になりえない」という反トランスジェンダリズム的な批判はもとより、炊事洗濯をしながら「私のような母親にとって水道料金の値上げは苦しい」と語るパルエロの様子を、「時代錯誤の女性像を押し付ける演出だ」と指摘するフェミニストもいれば、画面後方に映った搾乳器に憤った視聴者もいた。

ニュースが瞬く間に英語圏のTwitterを駆け巡ると、パルエロが所属する労働組合会議の公式アカウントは「パルエロは母親である」とした上で、「ネットに広がるトランスヘイトは許容されるものではない」とツイートし、ますます火に油を注いだ。


さらに事態を悪化させたのが、数日後にパルエロ自身が投稿した連続ツイートである。

クリックで元ツイートへ


パルエロはまず批判を受けた番組の構成について説明し、続いて多くの視聴者が注目した搾乳器について、「あれは同居しているハウスメイトのもの」とした。

続けてパルエロは、「トランス女性だって授乳できます。わたし自身、母乳を飲ませてました。きちんとした医療プロトコルを踏んだ上でね。乳児を養子にするトランス女性やシス女性なんかのために、そういうのがあるんです」とツイートし、今や何万回と引用されたであろう自分の授乳写真を投稿。

画像には、「結局、母乳で育てたのは数週間だけでした。がんが再発し、我が子に毒を飲ませたくないと思い、やめざるを得なかったんです。これは一回目の化学療法のために病院に向かうバスのなかで、我が子に最後の授乳をしているわたし」と添えられている。


「トランス女性だって授乳できます」ーーー驚きはこれだけではない。パルエロの過去の投稿を漁った有志が、なんとも不可思議なネタを発掘した。

それはパルエロが自身の「乳首フェティッシュ(nipple fetish)」を露わにしたInstagramの投稿だった。

パルエロは、鎖で繋がれた様々なニップル・クランプ(補足:ニップル・クリップとも。乳首を挟んで性感を高めるアダルトグッズ)を服の上から着用した自撮り写真を載せ、「『クィア・フェミニスト・セックス・ストア』で、キツく引っ張っても取れないニップル・クランプを全種類試してる。写真に撮ってるのは、恋人にどれがいいか選んでもらえるように。ちな『クィア・フェミニスト・セックス・ストア』の店員イケてる」とコメントしていた。



特殊性癖を持つ男が、フェティシズムのために女のふりをし、さらには乳児に乳首を吸わせている。これは変態男の肉欲を満たす『母親ロールプレイ』にすぎず、女性蔑視であり児童虐待だ

人々は怒り、驚き、そして嘆いた。


パルエロや他のトランス女性を自認する男達は、どうやって授乳できる身体になったのだろうか。

トランス女性、すなわち身体男性による授乳が医学的に取り沙汰されたのは2018年と極めて最近の事象である。

ニューマン・ゴールドファーブ・プロトコルと呼ばれる薬の組み合わせを服用することで、乳汁を分泌させることは身体男性であっても可能だという。

本来この投薬療法は、新生児を養子にしたり代理出産による子どもを育てる女性でも母乳育児が可能になるようにするものだ。エストロゲンを生成するための避妊ピルのほか、酔い止めに使われるメトクロプラミド、心臓病の薬ジギタリス、抗精神病薬のクロルプロマジン、吐き気止めのドンペリドン、鎮静剤などを用いて、乳汁分泌を司るホルモンであるプロラクチンを増加させる。要は強力な薬のカクテルだ。

この薬物療法は、妊娠後期から出産直後にかけて女性の体が受ける変化を模倣するために、母乳ポンプと併用される。

もちろん、全くリスクがないわけではない。これらの薬は少量ながらでも母乳に含まれる可能性があり、その結果、摂取した乳児に不整脈を起こすことがある。

さらに搾乳可能な絶対量が少ないこと、栄養価に疑問が残ることなども指摘されているほか、トランス女性による母乳育児が乳児に与える長期的な健康への影響や、トランス女性自身に与える影響について、より深い研究が必要だとする専門家が多い。


米国医学界に急進的リベラルサヨク思想が浸透し、あらゆる組織規模でBLMやトランスジェンダリズムに傾倒してきたことは、コロナの中でだいぶ可視化された。

医療施設内には虹色の旗やスローガンが飾られ、職員は率先して「代名詞」を名札につけ、コロナ禍でもBLMプロテストやTikTokダンスは欠かさず、多様性だポリコレだと肥満を賛美し幼児の性自認を肯定する。これが先進国でもトップクラスの米国医療現場である。

米国人の医療機関や科学者への不信は募る一方であり、NPRの報道によれば2021年の時点でCDC(米国疾病予防管理センター)に強い信頼を寄せていると答えていたのはわずか52%、FDA(米国食品医薬品局)やNIH(米国国立衛生研究所)に至ってはなんと37%であった。それが2023年現在、CDCに強い信頼を寄せていると答えたのは37%にまで下落、16%があまり信頼していない、10%が全く信頼していないというのである。


こうした実態は先進国における医学全般、特に米国の権威に対する信用が厚い日本人には驚きかもしれない。

ともかく、その悪評を裏付けるかのようなCDCの新指針が注目を集めた。


CDCのウェブサイトでは「トランスジェンダーである生物学的男性による授乳、すなわちCDCの用語によると『チェストフィーディング(chestfeeding、胸授乳)』を推奨している」と、Daily Mail紙やFox Newsなどが報じたのである。


乳房手術に関するCDCのページには、「乳房手術を受けたトランスジェンダーが親になる場合、乳児に母乳やミルクを与えることができますか?」という項目がある。

ここでCDCは、親になるトランスジェンダーの選択肢のひとつに、「授乳を誘発する薬」の服用を挙げている。


繰り返しになるが、授乳を模倣するために、生物学的男性は複数の薬を併用することは可能である。この組み合わせには、エストロゲンを生成するための避妊ピル、吐き気止め、心臓薬、抗精神病薬、鎮静剤、そしてドンペリドンと呼ばれる適応外の授乳薬が含まれる。

2004年、FDAは生物学的母親にドンペリドンを服用しないよう注意を促したが、その理由のひとつは「この薬は母乳内に排出されるため、授乳中の乳児が未知のリスクにさらされる可能性がある」というものであった。

しかし、生物学的女性に対してはこの警告がなされたにも関わらず、FDAはこの薬の服用を望むトランスジェンダー女性、すなわち生物学的男性に対しては何の注意喚起も促されていない。


保健機関は通常、授乳中の実母に対して、アスピリンを含む多くの薬を避け特定の食べ物や飲み物を避けるよう助言する。コーヒーから魚まで、母になる女性達は節制を強いられる。

では、なぜこれと同じレベルの注意が「胸授乳」を行う身体男性には適用されないのだろうか?


CDCは「胸授乳」を「健康の公正(Health Equity)」であるとする。

生物学を無視して適応外のホルモン・カクテルを身体男性に注ぎ込み、胸から液体を絞り出して授乳を模倣することは、確かにトランスジェンダーやノンバイナリを自称する人々の性別違和や自尊心を満足させるかもしれない。

しかし、それを飲まされる乳児の「健康の公正」とやらはどこにあるのだろう。「胸授乳」に関する長期的な研究は、まだない。


生物学や患者の健康を無視して心身を切り刻み張り合わせ、生涯に渡り薬漬けにするトランスジェンダー医療は、現代のロボトミー手術ではないだろうか。今では野蛮極まりない過ちとされるロボトミーだって、かつては称賛されノーベル賞まで獲ったのだ。

「胸授乳」を含め、ジェンダー肯定医療が壮大な失敗だったとされる時はそう遠くない、と私は確信している。そのとき、世界中にいるトランスジェンダリズムの被害者に誰がどう責任をとるのだろう。



(終わり)

記事を読んでいただきありがとうございます。サポートや感想が執筆のモチベーションになっております。またお気に入りの記事をSNSでシェアして下されば幸いです。