見出し画像

家賃500ドルのシェアハウスとコインランドリーの話

わたしの住んでいる家はボロい。

トロントのダウンタウンにある家はコンドミニアム(マンションのようなもの)を除くと築100年を超える物件は結構当たり前で、先日も私の住む家から500mくらいにある築100年の物件が傾き、倒壊する寸前だった。
幸いにも住んでいた方々は外出中で、惨事には至らなかったが、散々危ないと言われていたにもかかわらず日々のメンテナンスを怠ったその大家は大金を支払うことになったのであった。

私の住むシェアハウスもボロ家のうちの一軒で
正直家自体が傾いている。

昔、運動神経抜群の日本人女性が引っ越してきた際にはこの家があまりにも傾むきすぎていて
「三半規管がやられて酔う!」と、2日もせず出ていったらしい。

幸いわたしは鈍いらしくこの家に約10ヶ月ほどは暮らせている。

というかこの激安ボロ家シェアハウスというところから抜け出せなくなってしまった。
それは立地と家賃の安さで、この辺りの1ベットルームが平均2400ドル(約24万円)ということを考えると、私の部屋は破格の500ドル(5万円)だからである。

もちろんシェアハウスで、キッチンや風呂は共用なうえ”3K”(きつい、汚い、危険)なので、自分の中にある何かひとつをひねりつぶして住んではいるし、500ドルという破格は大家の弛まない努力(脱税)だからできているのである。

3Kの一つである”汚い”はとにかく共用部分の汚さにあり、洗濯機もその一つで、全自動ドラム式洗濯機ではあるもののいつ掃除されたのかはわからないくらい汚い。

洗濯する際も自分の中のなにかをひとつひねり潰して使用するのだけれど、たまに「やってらんねぇな」となるモーメントが3ヶ月に一回くらい来るので、その時はこの家から徒歩3分のコインランドリーにいく。

このランドリーはトロントに初めて引っ越した時から使用しているコインランドリーで(山田はカナダに来た時からこの辺りを転々としているため)
店内はかなりの味わいがあり、スカイブルーの薄汚れた壁に白と黒のタイルの床のコントラストが最高に北米を感じさせる内装で、ライトは所々切れて薄暗く、いつから使われているのかわからない上に数台に二台は洗濯機もしくは乾燥機が故障している。
そのうえいつも両替機は釣り銭切れだし、しまいにはコインランドリーを使う時にコインが数枚飲み込まれて出てこないので、書いてある値段より高く払うのは当たり前。

味の決めてはいつもいる管理人らしきマダムで、なぜかいつもイライラしていてあいさつもなければ無駄話もしない。でも困っていたらひょっと出てきて無駄なく助けてくれるそんなマダム。
優しいのか怖いのか。

機能性や利便性をかんがえたら決して素晴らしいとは言えないけれど、全部をひっくるめてこの映画に出てくるような雰囲気が好きだった。

ここ数ヶ月ほどはボロ3Kシェアハウスの洗濯機を使い続けていたのだが、久しぶりに例のモーメントが来たのでいつものコインランドリーにいってみることにした。

「経営者がかわりました」

張り紙と共に明らかに様子がおかしい店内に入ってみるとプリクラ機の中くらい明るい店内に、さわやかなブルーのユニフォームを着た青年が
「Welcome! わからないことがあったら聞いてね。」と、声をかけてくれた。

今まで洗濯物が回る音しかしなかったコインランドリーには安めのヒット曲がかかる有線が流れていた。

私の大好きだったコインランドリーがクリーニングされてしまっていた。

ショックに駆られた私はまた自我に戻り、大きめのランドリーを開けて25セントを数枚入れた。
以前は数枚飲み込まれて入れた通りにカウントされなかった25セントたちらスムーズにランドリーの中に吸い込まれていき、18分の洗濯。

洗濯が開始して15分くらい経ったところで、あの管理人のマダムがいまどこでなにをしているかなあなどと考えてみたが、
ぐるぐる回る洗濯物を眺めていたらそんなことも忘れてしまっていた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?