見出し画像

ピカソ エディション の「ヨックモックミュージアム」 には マティス も並んでいました


この日は 東京駅丸の内北口 OAZOオアゾ から始まりました

 東京駅丸の内側北口の丸善には時々やってきます。
 丸善はオフィス・店舗の複合施設 OAZOオアゾ の中にあり、丸善に来た何回かに一度は、帰りがけにこの写真のような風景を見ていきます。スターバックスの前にあるこの広い贅沢な空間は ○○広場。「おおひろば」と読むのだそうです。壁に飾ってあるのはピカソ(Pablo Picasso)の《ゲルニカ》のコピーです。

 ピカソのゲルニカは陶板、セラミックの上に複写されています。「繊細なタッチや微妙な色彩も再現することができ」るのは日本企業の特殊技術によるものだと説明がありました。この大きさは実物と同じだそうです。OAZO は2004年9月に開業しましたので、来年で20年になります。開業当時、この広場にあったのはスターバックスではなくて別のお店でした。その頃は近くで作品を見ていた人もいましたが、今では私ぐらいでしょうか。この風景が当たり前になって溶け込んできているようです。あるいは、これだけ大きいと少し離れた椅子に座っているほうが全体を撮りやすくていいのかもしれません。

 そして ピカソセラミック のキーワードで私の脳裏に浮ぶのは南青山にある ヨックモックミュージアム です。
 ピカソは創作に協力してくれた陶器職人に自分の作品と同じものを作ることを許諾しました。南フランス・カンヌに近いヴァローリス(Vallauris)にある マドゥーラ陶房(Madoura Pottery)で、ピカソが厳密に管理し、監修して制作されたのが エディション作品 です。ピカソの原作をモデルに、職人がピカソと同じように成形、絵付けしたもので、ピカソの作品として扱われているということです。ピカソの手足となって作品を作り出したということなのでしょうか。ヨックモックはそのエディションを中心にコレクションしていました。所蔵作品をベースに3年前に開館したのがヨックモックミュージアムです。
 実は1年以上、ミュージアムから足が遠のいていました。その間に展覧会も変わっています。今回の展覧会の期限が9月に迫っていることもあって、この暑い時期にミュージアムまで歩くのは大変なのですが、奮起して行ってみることにしました。


ヨックモックミュージアムへのアクセス

 南青山への最寄駅は東京メトロ表参道駅になります。丸善を出てから丸の内線、銀座線と乗り継いでここまできました。何回か note で取り上げたことがあるスパイラルの前です。エスカレーターを乗り継いで地上階に上がることができる地下鉄の出入り口からもそれほど遠くはなく、この場所にたどりつけます。この日は暑すぎるためか、人通りはそれほど多くはないように感じました。

 青山通りと骨董通りが交差する南青山5丁目交差点を渡り、青山学院手前を左に曲がります。緑の道標が「アイビー通り」という道路であることを教えてくれます。この通りを広い道路に突き当たるまで歩きます。

 この片側1車線の道路を渡ります。写真を撮っている私の後ろ側がファミマでその前に横断歩道があります。向かい側に渡って、斜め左の緩やかな坂道を上ります。

 住宅街を進んでいきます。右側3つ目の角に白亜の建物が現れました。ここがヨックモックミュージアム です。

ヨックモックミュージアムに入ってみます

 左側の壁の裏側、自動扉の先がミュージアムの受付です。冷房が効いていて生き返ります。

 さらに階段で地下一階に降ります。2020年に開館してから約1年間の展覧会を毎年繰り返し、現在はその3回目が開催されています。今回のテーマは「ピカソのセラミック ー モダンに触れる」で9月24日までとなっています。 


 階段を降りて左側の空間に展示されていたのは果物やお魚をお皿に削り込んだ作品などです。闘牛を描いた作品もあります。ここにある多くは オリジナル・アンプラント(Empreinte originale)と呼ばれるものです。ピカソの監修の下で、マドゥーラ陶房の職人が原作を基にした鋳型に粘土を押し付ける手法で作っています。
 この部屋の真ん中には鉄の棒にお皿を固定し、宙に浮くように展示されています。あまり近づかないように線が張られてはいますが、作品自体に囲いが無いので身近に感じます。そしてこれまでは撮影禁止だったのが、今回は映像動画と、ある一つの作品を除いて、撮影が許可されていました(なので、こうやって撮ることができました。ピカソ財団?の許可がおりたのでしょうか。注意事項は1階受付の隣にありましたのでよく読んでから会場に入るといいと思います)。


 ピカソの《草上の昼食》です。右隣の解説にはエドゥアール・マネ(Édouard Manet)の草上の昼食(Luncheon on the Grass)の写真と、ピカソによるリノカット作品の写真が載っています。ピカソはマネのこの作品にインスパイアされた 油彩画、素描などいろいろな形態の作品を連作(Series)として作り上げています。そして、それらはヴァリエーション、変奏とも呼ばれているということです。
 この作品もオリジナル・アンプラントでピカソの原作を基にした鋳型に赤土を押し当て、さらに黒の化粧土を塗ったものです。その鋳型の基になったのが解説に載っていたピカソのリノカット作品です。リノリウム板という素材に切り込みを入れて凸版法で作る版画です。

 おもしろいのはリノカット作品の人物の位置関係がマネの作品とは左右が反対になっている点です。ピカソはマネの作品と同じ位置関係でリノリウム板に切り込みを入れたのでしょうか。それが、このセラミック作品ではマネの作品と同じに戻っているのです。制作過程について、いろいろと想像が膨らみます。
 リノカット作品は赤・黄・青・緑・紫の強い色彩なのですが、セラミック作品は赤土とその上の黒化粧土の2色だけになっており、私には受け入れやすいように感じました。


 この写真手前側がピカソの作品《サッカー選手(Footballer)》のエディションです。原型となったのは、ピカソが鉄板を切ってから折り目を入れた作品です。オリジナルは3点あり、そのうちの一つは顔や手、ユニフォームやシューズが描かれていない抽象的なバージョンでした。それを基に型を取り、鋳込いこみ成形という手法で作り上げられたのがこのセラミック作品です。エディションは50点作られ、ここにあるのはその一つです。展示作品の周りにはスペースがありましたので一周してみました。台座の前面にはマドゥーラ陶房の刻印が、台座の後ろにはナンバーがつけられていることもわかりました。

 後ろの壁に掲げられているのはアンリ・マティス(Henri Matisse)の《イカロスの堕落(The Fall of Icarus)》です。マティスの切り紙絵は色を塗った紙を切って貼り付けていく手法です。鉄板を切り抜くところはマティスと似ていますが、ピカソはさらに折り目を入れることで三次元的な作品になり、サッカー選手がボールを蹴る直前、足を引いた瞬間を捉えることができたと解説されていました。
 この作品が展示されている一角はダンスというテーマで作品が並べられ、マティスの《ダンスⅡ》、《生きる悦び(生きる幸福)》と比較して紹介されている作品もありました。


 地下一階からエレベーターで二階に上がってきます。明るい空間です。エレベーターホール右側では座ってピカソに関する映像を見ることができます。約20分と長いフィルムですが、ピカソがマドゥーラ陶房へやってきた経緯や職人さんたちがピカソの下でどのようにエディションを作ったか、そしてピカソがここで作った作品をパリで発表した後に、陶房があるヴァローリスの地がどうなったか、などがわかります。

 エレベーター左側を先に進むと、お皿のエディション作品が壁3面に掲げられていました。全部で54点あるということです。よく見ると文字や日付が左右反対になっているものもありますし、反対になっていない作品もあります。線や点が外に浮き出ているのか、中に押し込まれているのか、そのあたりを見比べてみるのもおもしろいかもしれません。


一階のカフェで

 二階の会場から階段を降りてくると目の前にカフェがあります。

 この日はガラスの引き戸で全面が仕切られていました。その重いガラス扉を横にスライドさせて中に入ると冷房が効いていました。

 ピカソの小さい写真や展覧会のポスターが店内の雰囲気を作り上げています。


 お水を持ってきてもらうとコップの底に顔が映っていました。おもしろいコースターです。


 カフェ ヴァローリスでは、ヨックモックグループのパティスリー アン・グラン のミニャルディーズ という小さいお菓子が用意されています。私はその中で エコセ というアーモンド生地をショコラ生地で包み込んだお菓子を選び、アイスカフェラテ とのセットでいただきました。アン・グランはミュージアムの近くで隠れ家的に営業しているということなのですが、私はいつもその場所を見逃してしまいます。この暑さが通り過ぎた頃にもう一度探してみようかと思っています。

 カフェはミュージアムショップも兼ねており、図録(カタログ)やミュージアムのアイテムも販売しています。ただ、ヨックモックのお菓子は扱っていませんでした。

そこで、ヨックモックの本店に向かいます

 ミュージアムを出て目の前の道路を右側(北東方向)に進みます。骨董通りを通り過ぎアップダウンの先で向かい側の角に学校がある交差点へ辿り着きます。地下鉄表参道駅から青山通りとは直角に南東側へ伸びている道路との交差点で、下の写真のように六本木ヒルズの森タワーが見えるのがもう一つの目印になると思います。

この交差点で左側、表参道駅方面へ曲がって進みます。


 少し歩くと青い壁のヨックモック青山本店があります。


 正面右側がカフェ、左側がショップです。カフェは混んでいましたので、ショップに入ります。自分のために買い物していくことにしました。


 この時はショップで季節のお菓子としてサンクビジュー(Cinq Bijoux、5つの宝石)を自宅用に買い求めました。


 そして定番のシガールです。これははずせません。自宅で美味しくいただきました。


ヨックモックミュージアム周辺の概略図

※ヨックモックミュージアムから六本木通りに出たところにバス停がありました。渋谷駅前(東口)の51番バス乗り場から新橋駅行き または 六本木ヒルズ行き の都営バスを利用する方法もあるようです。



 最初に戻ってしまうのですが、私は OAZO の ゲルニカ を見ると ヨックモックミュージアム を思い出します。第1回目の展覧会でゲルニカの制作過程をまとめた映像を流していたのです。ピカソは何度も構図を考え修正していきます。その様子が収められていたのです。地下一階の出口付近で上映されていたと記憶しています。2回目の展覧会ではその映像はありませんでした。今回もなかったのですが、展覧会が何回も開催されれば、いつかはその映像が再び取り上げられることもあるだろうと期待しています。ですので、また来るかもしれません。

(2023年8月4日)


※ヨックモックミュージアムが編集したカタログ『ピカソのセラミック ー モダンに触れる』を参照しました。それぞれの作品の解説に加え、全体の解説や資料が載っていました。
※私の解釈に不備がありましたら、ご容赦ください。


※アンリ・マティスの展覧会について、これまで note にアップしています。もしよろしければ、こちらもご覧ください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?