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言の葉がさね〜恋文 三の歌〜

言の葉がさね〜恋文 三の歌〜

積もりとて
想ふきもちの
溶けゆるも
唐紅の
華を守らむ

2021.1.1

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あなたのへの気持ちが
どんなに積もっていったとしても
ゆっくりと溶けていく
それはまるで
唐紅(からくれない)の華のを守るがごとく
降り積もった雪のように
優しく、柔らかく…


完全オリジナルストーリー
【言の葉がさね】
〜恋文 三の歌〜


この冬、初めての雪が積もった。
朝起きると窓の外は一面真っ白になっている。
色味を失くしたその世界は、普段のそれよりもなおさら美しく光りを帯びている。
街路樹がまるでクリスマスツリーのような装いで微笑みかけているように見るし、
誰も歩いていない雪の上に自分がつける足跡は五線譜に書かれた楽譜のように音を奏で始めそうに見える。

束の間に、見える世界が一変した。
そんな朝だった。



こんな日でも外回りの業務を担当する僕は休むことなど出来はしない。

(まぁいいさ。
自分が選んだ道だから。)

半ば悪路と寒さに心が折れそうになりながらも、次の場所を目指す。
閑静な住宅街はこの世界が僕だけのものなんじゃないかと思えるほど静かに思えた。

(そう言えば…
昔聞いた事があったな、雪は雨と違って音を吸い込むからシンシンと音もなく降り積もっていく…と。
国語か?理科か?覚えてないな。)

どうでもいいような雑学の方が、試験に出される単語よりも覚えている。
きっとその話に触れた時、心のどこかが動いたからなんだろう。

悪路を移動しながら、ふと僕は彼女の事を思い出した。
雪が降って犬コロみたいにはしゃいでそうだな、と。


5歳下の彼女。
仕事の話題をする時はとても賢くて自分にない視点から話しをしてくれる。
それでいて傲慢さがないから、心地よい。もちろん、恋人として僕を褒めてくれる言葉や思い遣ってくれる言葉も忘れない。
その分、プライベートではドジなところがあったり、少しだけわがままだったりする。そのわがままさえも可愛いと思えてしまう自分もいる。
まぁ本人に言ったらわがままが加速しそうだから言わないが、、、

『思ったより雪が積もったね、通勤大丈夫だったか』
空腹と寒さに耐えかねて、少し早めの昼メシにと駆け込んだ蕎麦屋で彼女にメッセージを投げてみた。
いつもは比較的早く返事がくるのに、今日は蕎麦を食べ終わっても何もなかった。
忙しかったか…。


午後からの外回りもしんどかった。
気温が上がるにつれて雪が溶けて路面の水分が増える。
汚れた靴で営業先に出向くな。と先輩に言われた言葉が耳にかすめる。
建物に入る前に必ず靴の汚れを落とすにしても、ここまでくると持ってきたタオルもあまり役に立たなくなる。
とはいえ、約束はあと数件。やれる事をやるだけだ。


慌しい時間の中で彼女との連絡をすっかり忘れてしまう。
そんな日が多かった。
家に帰って落ち着いてからと後回しにしているうちに忘れて寝てしまう。やりたかったゲームや見たい動画を優先してるうちに夢中になったりと。

だからと言って、彼女を忘れてるわけじゃない。好きだという気持ちもある。
会えない日が続けば会いたくなるし、声を聴きたいと思う時もある。
彼女はそれを伝えて欲しいと言うが、なかなかにして言えるものでもない。言ったところですぐにどうにか出来ない自分が少し情けなくなるからだ。
言葉にしないが想いは僕の中にある。
「伝えてくれなきゃ、わからない。」
彼女から言われる事もよくあった。すれ違いが起きてるように思うからと…。
なんでだろうな。
伝えなくてもいいと思ってしまうのは。

ぼんやりとそんなことを考えていると、彼女からの連絡が入った。

『雪いっぱい降ったね。雪カキしてたら楽しくなっちゃった!!会社から道路見た時にカラフルな傘とかに降る雪がなんか可愛いかったよ〜。夜は寒いからあったかくしてね。』

たわいない一コマ。
それをわざわざ言ってくれる。そこにまた愛らしさある。
思わずあのキラキラした笑顔が浮かんできて、はしゃいでいるであろう姿に、自分も笑みが溢れる。
まぁ、言わないが、、、

彼女からのメッセージを見て、めずらしく返事が遅かった事を少し気にかけている自分に気が付いた。普段なら気にもしないのになぜだ?

ふと、昼間、住宅街でみた雪を被った華を思い出した。
雪帽子を被った大ぶりの真っ赤な花、あれは椿かな。
太陽に照らされて少しずつ溶けていく雪が花びらをつたってこぼれ落ちるさまは、切なくもあり美しかった。

そして、とりとめもなくこんな事を考えている。


離れていても、毎日会えなくても、僕はあの雪帽子のように彼女を守るように思っていたい。
彼女の優しい情熱が僕の鈍い気持ちを溶かしてくれるのなら、僕は少しずつでも溶け出した気持ちを伝えてもいいのだろうか。
あの雪帽子もいつか溶け切ってしまうだろう。
僕も同じだろうか。
少しずつ彼女によって溶かされいった時、素直にこの先の未来を一緒に歩みたいと伝えられるのかもしれない。
伝えられずにいる気持ちを少しずつ言葉にしてみようか、、、。

普段なら『お疲れ様、おやすみ』で終えてしまう返信を僕は思わず取り消した。 


『おかえり。声が聞きたい。少し話そか』

今、僕は、君に寄り添いたい。


2021.1.6  

ゆぅ❤︎youyou❤︎

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