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24時間営業の本屋~ブックスおおみねの思い出~

豊島鉄博(94年生まれ 那覇市小禄出身)

 深夜に点いた灯り、路面に置かれて積み重なった漫画雑誌の束――。私の実家から徒歩3分ほどにある老舗書店「ブックスおおみね」(那覇市大道)が今月26日、閉店する。栄町市場からもほど近く、年中ずっと開いていた街の書店は、栄町エリアの象徴的な存在だった。

 私が最初にブックスおおみねの存在を知ったのは、小学校低学年か中学年の頃だっただろうか。いま両親が住んでいる那覇市大道のアパートは、もともと祖父母が大家をしていた。当時、小禄に住んでいた私は小さい頃、よくアパートにお泊まりしに行っていた。祖父は時折冗談っぽく「じいちゃんの家からすぐ近くの大道小学校に転校したらいい。ジャスコはないけど、本屋も近い」と言っていた。祖父なりにも、孫に推せる街のスポットだったようだ。

 それから10年以上たって祖父母が亡くなり、両親がアパートを引き継ぐことになり、実家は小禄から大道になった。神奈川の大学を卒業後、Uターン就職した私は2018年から1年間だけ大道の実家で暮らした。ブックスおおみねには、栄町で飲んだ帰りに、ちょこちょこ足を運んだ。週刊文春や文庫本をよく買っていたと思う。

 夜中にブックスおおみねの前で談笑する男性ら=2018年3月8日午前2時半ごろ 

ジャンルの幅広さに驚き

 大人になって気づいたのは、扱うジャンルの幅広さだ。決して広くはない店内には、沖縄タイムスや琉球新報、ボーダーインクなど、地元の新聞社や出版社が出している本や30年以上前に出版された郷土資料が所狭しと並んでいる。2019年に、共著者として関わった「幻想のメディア」(高文研刊行)という本が出版されて、ブックスおおみねに並べられているのを見たときは、とてもうれしかった。

 一方で、店内中央にはエロ本も結構多めに置かれていた。一定の層に一定の需要があったのかもしれない。大手の本屋には出せない、「多様さ」を持つ店の懐の深さに、いつしか惹かれるようになっていった。

「あと10年は続けたかった」

 そんな街の人たちに愛された書店の閉店を知ったのは、旧知の落語イベンター・知花園子さん(47)のツイートだった。「24時間開いてて街に貢献してきた本屋さんがなくなるの本当に悲しい」。そう吐露していた知花さんに電話してみた。

 ブックスおおみねの近所に住み、よく店を訪れていた知花さんによると、店を営む大嶺さん親子は「あと10年は続けたかった」と話していたという。店は1982年オープン。「50周年まではやりたかった」が、ネットショッピングの台頭で下がっていた売り上げは、コロナ禍で客足がさらに遠のいたため、激減したという。
 「大好きな沖縄出身の漫画家、新里堅進さんの漫画の新作もいつも置いてくれてましたね。なかなか大手の書店でも売られていなかったので、いつも取り置きしてもらってました」と、知花さんは懐かしむ。

 ブックスおおみねの思い出話は尽きることはなく、30分ほど電話は続いた。電話の最後に知花さんは「今の時代、ネットでいろいろ買えますけど、本は本屋で買ってほしい。そしてなるべく個人店を応援するようにしたい」と語った。

店内には漫画や雑誌のほか、豊富な沖縄関係の書籍が並ぶ=2022年11月9日(提供)

「最後のクリスマスプレゼント」

 私の同世代は、閉店をどう感じているのだろうか。ブックスおおみねに通っていた高校の同級生2人に話を聞いた。

 ブックスおおみねの近所に住んでいた前田くん(28)は、小学6年生だった当時、まだサンタクロースが本当に両親なのか、半信半疑だったという。クリスマス前夜、これまでと同じように欲しい物を手紙に書こうとした。だが、今まで考えることのなかった親の金銭的負担が頭に浮かび、控えめに「サッカーの本が欲しいです」とだけ書いた。

 クリスマス当日の深夜、部屋に近づいてくる足音に気づくも、寝たふりをしていたという前田くん。枕元にはリクエスト通り、サッカー本が置かれていた。「足音で母親だと気づいた」といい、母親に対する感謝の気持ちと「サンタはやっぱり親なんだ」というちょっとしたがっかり感が残ったようだ。それが前田くんにとって、サンタさんからの最後のクリスマスプレゼントとなった。

 後日、前田くんが母親に聞いたところ、「まさか小6にもなってサンタに頼み事はしないだろう」と思いつつ、念のため夜中に前田くんの部屋を見たところ、プレゼント希望の手紙が置かれていたので、急いで厚着をしてブックスおおみねに本を買いに行ったそうだ。
 「夜中に本屋が開いてて良かったさ~」。前田くんの母親は、そう笑っていたという。なんとも素敵な話だ。

「漫画にハマったのはブックスおおみねがきっかけ」

 もう一人の同級生の宮城くん(28)がブックスおおみねに通い始めたのは、大道小2年の頃。最初は書道の半紙などの文房具を買っていたが、小4の頃から漫画を買うように。「中学校の時は登校前にジャンプ買って、こっそり教室でみんなで読んだりしてたなあ(笑)。学校帰りに隣の『宮城菓子店』でパン買って、家でゆっくり読むのも好きだったよ。漫画にハマったのはあそこがきっかけだよね」

 仕事で現在、札幌にいる宮城くんは、ブックスおおみねの閉店は私のリツイートで知ったようで「まだあったんだ」と驚いたという。そんな宮城くんも、10年ほど前からジャンプは電子版を購入し、本はKindleで買っている。「欲しくなったらすぐその場で買えるし、どこでも読めるもんね」。そう話しつつ、閉店はやはり寂しそうだった。

 ブックスおおみねの閉店は、私にとっても残念ではあるが、ネット全盛の時代の流れなのかもしれない。大嶺さん親子の穏やかな人柄がにじむ接客や、店の雰囲気は忘れません。40年間ありがとうございました。
 閉店は26日深夜を予定している。

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