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手触りのある音楽をつくる。5人の作家が『若き見知らぬ者たち』に込めた想い②

『若き見知らぬ者たち』劇伴に携わった5人の作家、そして内山拓也監督を迎え、座談会を決行。制作の裏側やサウンドトラック完成後の所感など、濃厚なトークの模様を3回に分けてお届けします。前回の①はこちらからご覧ください。

<参加者>
Christian Dinh Gulino
石川快
掛川陽介(オンラインにて参加)
内山拓也
松井亮
yasu2000
(順不同)


根深い不協和音みたいなものを存在させたかった

石川
僕は日本の映画に対して、日本から出て来たということが分かりやすいと、海外で受け止められやすいのではと思っています。クリスチャンは幼少期からシチリアで放映されていた日本のアニメや日本のゲームで育ち、坂本龍一さんや久石譲さんが大好き。客観的に日本の映像音楽を研究している感性に期待したい気持ちがありました。また、私をはじめオタクっぽくひねくれたがるメンバーのなか、クリスチャンのような素直な人がいてくれると面白い視点が増えるかなと(笑)。

Christian Dinh Gulino(以下、クリスチャン)
わたしはロンドン在住ですが、日本の映像作品にもいろいろと携わっています。内山作品の短編映画『余りある』でもご一緒した石川さんから今作の映像を見せていただき、劇中の作曲を2曲、ミックスを1曲、そしてエンディング曲「The Young Strangers」を担当することになりました。

石川
クリスチャンは『余りある』のなかでは、劇中の音楽と効果音が一体になっていくようなドローン(高低なしに長く続く持続音のこと)を作っています。それが今回求められてくる音楽のベースに一番近いような気がしたんです。

左:Christian Dinh Gulino/右:石川快

内山
ドローンや不協和音は、ここ何作かの連続的なテーマになっています。ピアノだけとか美しい旋律ではなくて、もっと根深い不協和音みたいなものを存在させたいという思いが今作もあり、脚本や撮影した映像とすりあわされることで明確になっていきました。

石川
ドローンの話題でいうと、ローファイで抽象的な音楽を作るのが得意で、メンバーの中で最もサウンドトラック制作経験が豊富な掛川さんには、サウンドトラック的なドローンの作り方について相談をしましたね。

掛川
最近の僕のやり方はフィールドレコーディングしたものやシンセサイザーの音をカセットレコーダーで録って、一回空気に触れさせてから、ハードディスクに戻して編集する。劣化が好きなんです。今回のようにバンド形式でドローンを作るって普通はやらないですよ。

ここでうまくいけば、積み上げたものは壊してもいい

石川
クリスチャンが来日しチームが全員揃ったところで、具体的な役割分担や楽曲数も決まってきました。松井さんの楽曲を掛川さんがエディットした「Debris」や松井さんの楽曲をクリスチャンがMixした「Coexistence」など、領域を跨いだアイディアが形になっていったと思います。

内山
1月中頃には、この場所で全員が集まって、映像を通しで観てもらい、スクリーニング作業をやりましたね。緻密な設計とデモをつくった上で、即興でトラックを重ねて変えていく。僕は作曲家ではないですけれど、キーボードを出してちょっとやってみる、ちょっと待って、もう少しこういうのはどう? みたいな、その場のやりとりが印象に残っています。今がよければいい。ここでうまくいけば、今まで積み上げたものは全て壊してもいい。そんな想いでいました。

松井
映像に音楽をつくっていく作業というのは、進めていくうちに、画と音が心地よく合わさっていく感覚が生まれるものだけれど、今回はそこまでいくのに時間がかかった。ただ、皆で集まって映像を見て、コミュニケーションをとってからはすごく早かったですよね。監督はそういうことを言いたかったんや、と気付いたこともありましたし。

松井亮

知らない世界の果てにあったマスタリングという作業

石川
スクリーニング作業のあとは掛川さんによる細部の調整を経て、マスタリングです。掛川さんのミックスってハイファイなんだけどファットで大好きなので、yasuさんに渡す前のエンジニアリングをやってもらいたかった。

掛川
ミックスって抽象的だから、監督が求めていることって心情なんだろうか、それとも景色なのか。石川さんに音楽的な言葉へ通訳してもらいながらで、いい経験でしたよ。

石川
yasuさんは映像作品への経験も豊富で、共に音作りを挑戦した過去もあり、水面化でお願いは進めていました。

yasu2000(以下、yasu) 
内山監督の前作『佐々木、イン、マイマイン』が好きだったので、チームへのお誘いは嬉しかったですね。石川さんから、今回はサウンドトラック化することと、テープでマスタリングをしたいと聞いたので、何はともあれ機材を抑えるところから始めて。

石川
時間もタイトで、yasuさんのスケジュールもですが、テープデッキを借りるスケジュールも抑えないといけなかったんですよね。

yasu
テープでマスタリングをする際は、もう生産販売されていないTEAC社(日本の音響機器メーカー)のテープデッキを使うのですが、自分で所持していてもメンテナンスが難しくて劣化していくので、都度お願いして状態の良いものをTEACさんから送っていただくんです。まずはその手配と、ブランクテープの入手から取り掛かりました。

yasu2000

内山
それくらい希少なんですね。映画業界では劇伴という作り方においてマスタリング、しかもテープという考え方がない。やってる人がいるのかわからないですけど、僕もよく知らない工程で。でも一番最初に石川さんと電話をしたときから、あわよくばレコードにもと伝えていたので「それなら絶対マスタリングを」と言われていました。求めている音の、知らない作業の果てにあったものが「監督がやりたいことはそれしかないんだ」みたいな感じだった(笑)。

石川
無茶苦茶ですみません(笑)。

内山
その場にいた印象としては、楽曲間の音質や音量を合わせるというのは勿論のこと、楽曲の奥行きを出す作業のように感じました。電子音でさえもマスタリングを通すと軽くなくなって、歪んで出てくる。映像で言うと最先端の技術で35mmのフィルムの雰囲気をデジタルでどうやって出すか試行錯誤する感覚に近いですね。パチパチと埃が舞うような音、僕はこの音が欲しかったんだって思いました。そのためにはテープが回っていないといけなかったんだって。マスタリング、もっとやっていきたいなと思いましたね。

一同
わー!(拍手)

石川
監督からその言葉が聞けて本当によかったです。(続く)

①の記事はこちら


オリジナル・サウンドトラック発売決定!

本編での楽曲に加え、登場人物の会話や効果音、ボーナストラックを加えた全13曲収録した、オリジナル・サウンドトラックを11月03日に発売!


Profile

・Christian Dihn Gulino(クリスチャン・ディン・グリーノ)
ロンドンはMegamen Productionを拠点に活動する作曲家、ピアニスト、キーボード奏者。Herbie Hancockに多大な影響を受け、Kylie Minogue、Roxy Music、Sam Smith、Jessie J、Jasmine Thompsonなどのアーティスト達のディレクターやキーボード奏者としてレコーディングやライブに参加。内山拓也作品には『余りある』においても一部劇伴音楽を担当した。ゲーム『FINAL FANTASY VII REBIRTH』や関根光才監督広告作品『Audi e-tron GT』など、近年は日本での活動も積極的に行なっている。24年7月にはロンドン、ハイドパークにて開催されたHans ZimmerとAndrea Bocelliのコンサートにてミュージックディレクターを担当した。

・松井亮
作曲家・編曲家、ギタリスト、音楽プロデューサー
1972年生まれ、京都府出身。95年に川瀬智子(現Tommy february)、奥田俊作と共にギタリストとしてthe brilliant green結成。97年にメジャーデビュー後、その“和製ブリット・ポップ”とも称された洗練されたサウンドが話題を呼び、98年5月『There will be love there~愛のある場所~』がオリコン1位を獲得する大ヒットを記録。2010年に脱退するまで計4枚のアルバムをリリース。その後も自身のmeistar名義でのソロ活動や数々の広告音楽の作曲、他アーティストの音楽プロデュースなど精力的に活動している。

・掛川陽介
DJ Synthesizer名義も含めたソロ、バンド Languageのメンバーとしての活動のほか、音楽制作ユニットtomisiroで映画、アニメ、ゲーム、ドラマのサウンドトラックや広告など数々の映像音楽を手がける。代表作に北野武監督『TAKESHI'S』、鶴巻和哉監督『龍の歯医者』(スタジオカラー制作)、『FINAL FANTASY VII REMAKE』シリーズなど。近年はテープ・レコーダー、フィールド・レコーダー、ペダル・エフェクターなどを使ったローテク、ローファイな手法で作品づくりをすることも多く、国内外のレーベルより作品の発表を続けている。オランダ Shimmering Moods Records(2022年)、Slow Tone Collages(2022年)、イタリアRohs! Records(2024年)から
アンビエント作品をリリース。

・石川 快
Producer / Music Supervisor
DJ、劇伴作曲家としてキャリアを始め、現在はBISHOP MUSICを拠点に国内外のネットワークを活かして広告〜ゲーム〜映画といった映像作品やレーベル、イベント、店舗など幅広いメディア〜体験へ向けた音楽をプロデュースする”音楽屋”。本作ではMusic Supervisorとして音楽監督的な役割を担いつつ、作曲家としても参加。本編映像の最終仕上げとしてパリで行われたダビングにも内山監督に同行した。

・yasu2000
1999年、DJとして渡米。現地でエンジニアリングに興味を持ち、The Institute of Audio Researchに通う。卒業後ブルックリンにあるブッシュウィックスタジオで2年間働き、ニック・ハードのアシスタントなどを務めたのち、2005年に帰国。その後、origami PRODUCTIONSが手がけるbig turtle STUDIOSのハウスエンジニアを務める。これまでに担当したアーティストはあいみょん、JUJU、藤原さくら、向井太一、GLIM SPANKY、Uru、TENDRE、Awesome City Club、U-zhaan、Nenashiら。

取材/編集:峰典子
写真:加藤友美子


■映画『若き見知らぬ者たち』2024年10月11日(金)新宿ピカデリー他で全国公開
オフィシャルサイト:http://youngstrangers.jp
映画公式note:https://note.com/youngstrangers
映画公式X(旧Twitter):https://twitter.com/youngstrangers
映画公式Instagram:https://www.instagram.com/youngstrangers_movie/
原案・脚本・監督:内山拓也
出演:磯村勇斗岸井ゆきの福山翔大 他 
製作:「若き見知らぬ者たち」製作委員会
企画・製作:カラーバード
企画協力:ハッチ
配給:クロックワークス
©2024 The Young Strangers Film Partners

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